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第496号 2024.2.27発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…わしが「熊権」とか「牛権」とか「基本的猫権」とか書くのは一種の皮肉で、本当に日本人に「動物権」と言えるほどの権利意識があるのかどうかは定かではない。実際にはせいぜい古来の感覚で、動物に対しても自然に同情が湧くとか、ペットを家族のように思うとかいった、感情程度のものに留まるのかもしれない。一方、欧米には「動物権(Animal Rights)」という思想が確固として存在している。果たしてこれは「人権」や「環境保護運動」、「動物保護運動」等とどう違うのだろうか?そしてこれもまた「グローバル・スタンダード」だとして日本にも導入されるのだろうか?
※大須賀淳氏の特別寄稿…2024年1月13日に生配信した「歌謡曲を通して日本を語る #5」(https://live.nicovideo.jp/watch/lv343925085)では、チェブリン・モン子氏による「田舎のバス」(元曲:中村メイコ)の熱演が特に大きな反響を呼んだ。実は、この名曲そして(最大級の賛辞としての)迷曲の「生みの親」に迫ると、さらに多岐にわたる「はじめて」や、日本の伝統的な文化や気質から現在のサブカルにまで連なる、実に興味深い道筋までを見つける事ができるのだ。
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…2月25日(日曜)に放送された読売テレビ『そこまで言って委員会NP』を見たのだが、皇位継承問題についての短い時間のなかで、竹田恒泰がとんでもない発狂ぶりを晒していた。自分のYouTube配信でわめいているだけかと思ったら、地上波でこんなことを言っているのかと呆気にとられたので(今に始まったことじゃないが)報告する。曰く、「皇室の先祖はアマテラスオオミカミではない!イザナキの神だ!」「アマテラスオオミカミはご存命ですから!死亡診断が出てない!」「一度も皇位継承なんかしてないんだよォオ!!」…一体どうしたんだ!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…自分の感覚と現実の時間感覚のズレに愕然とすることはある?実は江戸期の手品が世界的に凄いレベルで影響を与えていた!?ハラスメントを無くしたら、戦争の出来る国づくりを止められる!?日本人の「八つ墓村気質」「権威主義」は治らない?ドラマ『不適切にも程がある!』は見ている?自分の作品のアニメ化された作品が気に入らなかったりした場合はどうする?ネットの発言が炎上しやすくなっているのは何故だと思う?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第525回「動物権というカルト」
2. 特別寄稿・大須賀淳「元祖アニソン作家!?三木鶏郎と日本のサブカル」
3. しゃべらせてクリ!・第451回「夢から覚めたら沙麻代ちゃん!そりともこっちが夢でしゅか!?の巻【後編】」
4. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第319回「『アマテラスはご存命』錯乱の竹田恒泰」
5. Q&Aコーナー
6. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
7. 編集後記




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第525回「動物権というカルト」

『ゴーマニズム宣言SPECIAL 日本人論』が3月21日発売される。
 この本では、昨年ジャニーズ事務所に対して吹き荒れた「キャンセル・カルチャー」を題材として、日本には欧米とは異なる、日本独自の文化や価値観があるということを論じている。

 そもそも、日本人に対して「日本には欧米とは異なる、日本独自の文化や価値観がある」などとわざわざ主張しなければならないこと自体がおかしな話なのだが、実際に今の日本人はこんな簡単なことすら見失っていて、いともたやすく欧米の価値観に洗脳されてしまう。その端的な例がジャニーズに対するキャンセル・カルチャーだったわけで、だからこそこの本を書かなければならなくなったのである。
 これからはことあるごとに、「日本には日本の価値観がある」「グローバル・スタンダードの価値観などない」ということを唱えていかなければならないのだろう。
「人権」にせよ、「民主主義」にせよ、グローバル・スタンダードは存在しない。
 それぞれの国ごとに、その国の文化や歴史に基づいた人権感覚があり、民主主義が形成されるものだし、国によっては決して民主主義が成立しないということだってあるものなのだ。

 さて少々前の話になるが、昨年の秋ごろ、熊が頻繁に人里に出没するようになり、これを駆除したら抗議が殺到したというニュースがあった。
 それについてわしは昨年11月17日のブログで、(https://yoshinori-kobayashi.com/27487/)「最近、『熊権』を主張する人々が現れたことは実に日本人らしい」「欧米人なら『熊権』なんて絶対認めない」「日本人は欧米人とは違う。人間にも熊にも生きる権利があると考えるのだ」と書いたのだが、そうしたら「欧米にも『動物権』の思想がある」という指摘があった。
 確かにそれは事実であり、欧米人の中には日本人の人権よりも「鯨権」「イルカ権」の方が上と思っているような者がいる。だが、これって一体何なのだろうか?
 今回は、この問題について整理しておきたい。

 わしの子供時代、『しゃあけえ大ちゃん』(1964.7-1965.1 TBS系で放送)という子供向けの人気ドラマがあった。
 主人公は岡山の山奥から東京に出てきた大ちゃんという子供で、バカボンみたいな絣の着物に学帽を被った風体で、「しゃあけえ、しゃあけえ」(岡山弁で「でも」「そうはいっても」といった意味らしい)が口癖というキャラだ。
 そのエピソードのひとつに、大ちゃんが普段の食事で食べている肉が、動物を殺して得たものであるということに気づき、動物が可哀想になってしまって「しゃあけえ、食べられんじゃないの~」と言い出すという話があった。
 当時10歳のわしは、子供心にこのドラマにものすごい問題提起をされてしまい、「本当だ、これじゃあ肉が食べられんじゃないか、どうするんやろ?」と思いながら見た。
 そしてこのドラマの結末は、和尚さんみたいな老人が「豚とか鶏とかいうものは、そもそも人間に食べられるために生まれてきたんじゃ」というようなことを言って、それで大ちゃんを納得させるというものだった。

 おそらくこの老人の説明は、仏教の輪廻転生観あたりから来ているものだろう。前世の因縁によって、豚は豚に、鶏は鶏に生まれてくるものであり、人間に食べられることが運命づけられているのだというわけだ。
 ということは、自分が食べた豚や鶏も、今度は人間に生まれ変わるかもしれないし、自分も行いが悪ければ、来世は豚や鶏に生まれ変わって、人間に食べられるかもしれないということになるわけだが、まあ、そんなところまでいちいち考える人はいないだろう。
 わしはその説明で大ちゃんが納得したのに影響されて、「そうなのか~、動物は人間に食べられるために生まれてくるのか~」と、原体験にその感覚が刷り込まれていた。
 それで、ともかく日本人の庶民感覚としては漠然と「豚や鶏や牛は人間に食べられるために生まれてきた」程度の回答でもいいんじゃないかと、今でも思っている。

 だが考えてみれば、欧米のキリスト教文化の方がずっと「動物は人間に食べられるために生まれてくるものだ」という観念は強固である。
 わしは以前、『戦争論3』で、こう描いた。
「キリスト教は大陸の過酷な環境の中から生まれてきた絶対神、一神教の思想である。
 そもそも日本人は自分たちがどれだけ恵まれた環境の中に住んでいるかという自覚がなさすぎる。
 ヨーロッパでは冬が長く日照時間が少ない。雨も少ない。
 地面は硬質な岩盤で牧草しか生えないが、土地は広い。
 日本のように人間が直接食べられる穀物が育たないから農耕が発達せず…
 牧草を動物に食べさせて育ててから殺して食う。
 動物を殺すことに一切、罪悪感を持たなくても済むように、キリスト教は人間と動物の間に厳格な一線を引いた。
 牛や豚は、人間に食べられるために神様が創ってくださった。
 …そう言って食肉文化を正当化するのが、一神教たるキリスト教だった」
 一見、「動物は人間に食べられるために生まれてくるものだ」という同じことを言っているようにも見えるが、これはかなり似て非なるものである。