小林よしのりライジング

「世界の原発風刺画は被災者を侮辱したのか?」小林よしのりライジング Vol.55

2013/09/24 19:35 投稿

コメント:160

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第55号 2013.9.24発行


「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、よしりんの心を揺さぶった“娯楽の数々”を紹介する「カルチャークラブ」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、珍妙な商品が盛り沢山(!?)の『おぼっちゃまくん』キャラクターグッズを紹介する「茶魔ちゃま秘宝館」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)


【今週のお知らせ】
※2020東京オリンピックが決定して以降、世界各国で描かれた原発風刺画。日本国内では反発が広がっているというが、果たしてそれらの風刺画は被災者を侮辱した物なのか?そもそも「風刺」とは何か?今の日本は海外からどう見られているのか?今週の「ゴー宣」も、大衆が目を反らしている現実を突きつける!
※毎週、読者から多数の質問が寄せられる「Q&Aコーナー」!山県有朋のイメージは?女心に振り回される俺に救いの手を!じゃんけん大会・珠理奈と上枝恵美加の間には「阿吽の呼吸」があった?東京五輪を機に皇居東御苑の一角に江戸城天守閣が再建される!?よしりんのアイドル風自己紹介とは?さまぁ~ず三村のじゃんけん大会コスプレ批判の真意とは?…等々、よしりんの回答やいかに!?
※1週間ぶりの「しゃべらせてクリ!」は、過去最高の応募数&良作揃いということで、なんと今週と来週の前後編に!先祖代々、正真正銘の「お金持ち」である茶魔、札束積んで、沙麻代ちゃんに何を頼んでいるのか!?

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【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第57回「世界の原発風刺画を断固支持する!」
2. しゃべらせてクリ!・第16回「沙麻代ちゃん、札束椅子に座らんね?の巻〈前編〉」
3. よしりんウィキ直し!・第6回「ゴーマニズム宣言②:『概要』『ゴー宣誕生』編」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記



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第57回「世界の原発風刺画を断固支持する!」

 「漫画に必要なのは、風刺と告発の精神である」
 手塚治虫は、そう言った。

 特にこの言葉を意識していたわけではないが、わしもデビューして37年、気がついてみれば風刺と告発の漫画ばかり描いてきた。
 いよいよ今週・9月26日発売の『AKB48論』(幻冬舎)も、ひたすら楽しげにAKB48を紹介しているように見えながら、実は「アイドル」を通して現代人の聖性への感覚や、消費者としての感覚、コミュニケーションや共同性の感覚を浮かび上がらせるように描いている。
 これもAKB48を通した現代社会の「風刺と告発」の漫画であって、編集者が考えた帯の文句は「AKB48から現代の諸問題に照射した画期的日本論」となっている。


 本当に威力のある風刺と告発の漫画を描いたら、それは決して万人受けする作品にはならない。必ず見て不快に思う者がいて、反発を始める。それは、描かれたくないことを描かれたと思った者たちである。
 フランスの週刊紙「カナール・アンシェネ」は、2020東京オリンピックと東京電力福島第1原発事故を風刺した漫画を2点掲載した。

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 防護服を着たレポーターが「フクシマのおかげで相撲が五輪種目になりました」と言っている。そして奥には奇形の力士(?)の姿が。 


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そしてもう1点は、「五輪のプールはもうフクシマに」というタイトルで、防護服を着た人物が2人プールサイドに立ち、手にした放射線測定器からは警告音が鳴っている。
 日本国内では、この風刺画が不快だとして反発が広がっているというが、わしはこれを不快とも思わず反発も感じない。やはりこれも、見たくないもの、言われたくないことを描かれたと思った者が反発しているのだ。

 菅義偉官房長官は記者会見で「東日本大震災の被災者の気持ちを傷つけ、汚染水問題について誤った印象を与える不適切な報道で、大変遺憾だ」と述べ、在仏日本大使館を通じ、カナール・アンシェネ紙に抗議する意向を示した。そしてこの指示を受け、在仏日本大使館の藤原臨時代理大使が同紙のルイマリ・オロ編集長に電話で抗議したと報じられた。

 これは、恥ずかしい!!

 菅は、日本政府は誇張やデフォルメが身上である「風刺画」に「不適切な報道」と文句つけるほど、文化に対して無理解・無教養であることを国際的に知らせたのである!

 しかもあの漫画の風刺対象は被災者ではない。原発事故を収拾できていない東電や、それなのに五輪を招致して喜んでいる日本政府の方である。

 その程度のことも読みとれないほど、日本政府は頭が悪いということも、国際的に知られてしまったのだ!
 そして、政府が民間の出版物に対して抗議すれば、当然政府が表現の自由の制限・弾圧を目論んでいると捉えられ、日本はたかがこんな漫画ひとつ表現する自由もない国と思われかねない悪印象まで国際的に広めたのである!


 これは国辱的行為である。

 カナール・アンシェネ紙の編集長はインタビューに対して「謝罪するつもりはない」と明言。
日本政府の反応に当惑している。問題の本質は東京電力の(汚染水などの)管理能力のなさにあり、怒りを向けるべき先はそちらだ」「風刺画をもう1度見たが、災害の被害者を侮辱するものではないと言える。ただし、日本当局と原発を運営する人たちを侮辱するものではある」と話している。全くの正論である!
 さらに編集長は「フランスでは悲劇をユーモアによって扱うことができるが、日本ではそうではないようだ」と言い、紙面でも「集団ハラキリも考えたが、我々に過ちはないのでやめた」と皮肉ったという。

 気になったのは「大使館から正式の抗議は来ていない。パリの担当官が、福島がどれだけうまくいっているか説明の電話をかけてきただけ」と言っていることだ。
 どうやら在仏日本大使館は、さすがにこんなことで抗議したら恥をかくと判断したらしく、編集長には一応電話してお茶を濁しておいて、政府には「抗議した」と報告したようだ。
 やはり外務官僚は優秀だ。バカは政治家にはなれるが、外交官にはなれないのかもしれない。


 本当に日本の国の名誉や尊厳を重んじているなら、安倍政権・菅官房長官をこそ批判しなければならないはずだ。
 ところがネトウヨ連中は、風刺画の方を非難している。しかも芸のないことに、言うことが韓国に対するヘイトスピーチと全く同じで、「死ねよ、フランス人 日本から出て行け、ゴキブリフランス人」だの、「このド腐れフランスクズ雑誌が存続できないよう、徹底的に叩きのめせ」だのといったものばっかりである。

 しかしフランスは特に反日というわけではない。パリは2024年のオリンピック招致を目指しているから、2020年がヨーロッパではなく日本で開催されることをむしろ喜んでいるほどだ。
 この風刺画は反日で描いたのではなく、チェルノブイリ事故を経験したフランス人から見れば、当然の反応にすぎないのである。

 チェルノブイリ事故以降、脚や目の数が多い奇形の動物が数多く生まれ、そのショッキングな写真はヨーロッパでは大量に報道されて一般常識になっている。
 しかしそういう写真は日本では徹底して封印されたため、その事実を知っている人すらほとんどなく(今ではネットでちょっと探せば見れるが)、両国の感覚の差はあまりにも大きい。
 ヨーロッパでは原発事故を風刺する際に腕や足が3本とか、目が3つという描写はごく普通なのだ。逆にこれを見てぎょっとする日本人の方が、現実に目を背けた、平和ボケで「お花畑」の甘すぎる認識だと思った方がいい。

 実際、今回話題になったカナール・アンシェネだけではなく、こんな風刺画は山ほどあるのだ。
 
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 「ここの水は汚染されてるらしいよ」
 「え、何だと?!」

 もしもチェルノブイリがあるウクライナで、事故の2年後にオリンピックを招致して浮かれ上がっていたら、どう思っただろうか? 
 おそらく日本人の多くも「異常だ」と思ったはずだ。
 日本の国土面積はウクライナの6割程度しかない。そんな狭い国土にチェルノブイリと同じ「レベル7」の事故を起こした原発を抱え、事故の収束の目途も立たないのにオリンピックを招致して浮かれている日本の現状を異常と見る世界の目は、我々が思っているよりもはるかに多いのだ。
 海外の風刺画を見て、少しはそれを自覚した方がいい。


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 これはフランス、ル・モンドに掲載されたもの。
 「フクシマを忘れるための日本のオリンピック」と書かれている。 


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 これはドイツの風刺画。防護服を着たオリンピックというネタは、とにかく多い。これらの漫画にも菅官房長官は抗議するのだろうか?


 「被災者を傷つけた」という批判に対しカナール・アンシェネ紙の編集長は、そのような意図はないとした一方で、もしそれで被災者が傷つくのなら、日本での購読者が「51人」しかいない同紙の漫画をわざわざ大々的に日本国内で紹介しなければいいのであって、悪いのは日本のメディアだと言っている。これまた正論で、反論の余地なしである。

 

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コメント

>>85
遅くなってすみません。
「並ばせたのは政府」です。
そしてその「並ばせた政府を支えているのは有権者」です。
致し方ないのは分かっていますが、彼らは無自覚であり無責任であって真実からずっと目を背け続け、子孫にツケを押し付ける気満々なのが丸分かりです。
NHKで増税の討論番組でもありましたが、彼らは自分達の社会保障確保のために増税已む無しと主張しています。
無論増税したら景気どころか庶民の生活が破綻することさえ判っているのに。
その穴埋めにオリンピックで景気回復とか、根拠のない事に浮かれて目が見えてない状況だと言わざるを得ないですね。
コメントもそうですが、身近なところ、隣人から発信する他ないでしょう。

No.181 128ヶ月前

 『風立ちぬ』についてもう少し考えてみました。
 戦時中二郎たちに国家から要請されたことは戦争に勝利するための高性能な兵器を創ることでした。しかし二郎は組織の空気に染まりきらない良い意味での個人主義者だったので、ただ技術者の業の赴くまま美しく滑空する美しい機体を求めて設計しました。それが結果的に良い作用をもたらし、別方向を向いた2つのベクトルの接点において完成した高性能兵器が零戦でした。二郎は国家の掲げる正義に身を奉げたわけではなく、自分が創りたかったものと要請されたものとの平衡を試みただけだと言えるでしょう。そして戦後は国家の掲げた正義が戦勝国によるリンチ的裁判によって全否定され、零戦の評価も戦前の賞賛から戦後の非難へと180度逆(表向きには)に変わりました。しかし戦前の国家が掲げた正義に100%奉じていたわけではなかったため、徒労感はあっても喪失感や絶望感はなかったのではないかと思われます。
 菜穂子は零戦へとつながる試作機を設計する二郎を精神的に支え、そのお蔭で零戦は完成したと言えます。菜穂子のその行為は純粋に二郎への思いから出たものでしたが、結果的に二郎の業と国家からの要請は菜穂子の死期を早めたことになると言えるかもしれません。ここで菜穂子の思いを代弁すれば「私は自分の行為を後悔していない、だから二郎さんには私の死後生きることに負い目に感じてほしくない」になると思われ、だから「(貴方は)生きて」となったのでしょう。そして二郎は戦後の零戦の評価がどうなろうとも菜穂子にさえ許してもらえれば「生きねば」と言えたのだと思います。

 少年の勇気や忠誠心は二郎には感じられなかった na85

No.182 128ヶ月前

ここまで読んでくださった読者の皆さん、本当にありがとう
ございます。
また、新たにライジングを購読して下さったみなさまに、感謝いたします。

次号は、
小林よしのりライジングVol.56
「新国立カブトガニ競技場の異様」
です!
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No.184 127ヶ月前
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