na85 のコメント

 『風立ちぬ』についてもう少し考えてみました。
 戦時中二郎たちに国家から要請されたことは戦争に勝利するための高性能な兵器を創ることでした。しかし二郎は組織の空気に染まりきらない良い意味での個人主義者だったので、ただ技術者の業の赴くまま美しく滑空する美しい機体を求めて設計しました。それが結果的に良い作用をもたらし、別方向を向いた2つのベクトルの接点において完成した高性能兵器が零戦でした。二郎は国家の掲げる正義に身を奉げたわけではなく、自分が創りたかったものと要請されたものとの平衡を試みただけだと言えるでしょう。そして戦後は国家の掲げた正義が戦勝国によるリンチ的裁判によって全否定され、零戦の評価も戦前の賞賛から戦後の非難へと180度逆(表向きには)に変わりました。しかし戦前の国家が掲げた正義に100%奉じていたわけではなかったため、徒労感はあっても喪失感や絶望感はなかったのではないかと思われます。
 菜穂子は零戦へとつながる試作機を設計する二郎を精神的に支え、そのお蔭で零戦は完成したと言えます。菜穂子のその行為は純粋に二郎への思いから出たものでしたが、結果的に二郎の業と国家からの要請は菜穂子の死期を早めたことになると言えるかもしれません。ここで菜穂子の思いを代弁すれば「私は自分の行為を後悔していない、だから二郎さんには私の死後生きることに負い目に感じてほしくない」になると思われ、だから「(貴方は)生きて」となったのでしょう。そして二郎は戦後の零戦の評価がどうなろうとも菜穂子にさえ許してもらえれば「生きねば」と言えたのだと思います。

 少年の勇気や忠誠心は二郎には感じられなかった na85

No.182 128ヶ月前

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