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(号外 2014.05.20発行)

ゴーマニズム宣言
集団的自衛権・安倍会見のトリックに騙されるな

 安倍晋三首相は集団的自衛権行使に向けて「おともだち」を集めた諮問機関に検討をさせていたが、そのお手盛りの報告書ができ上がり、5月15日、安倍自ら記者会見で国民に説明を行なった。

 その3日前、5月12日の読売新聞は1面トップで「集団的自衛権、行使容認71%」という見出しを掲げ、世論調査の結果、集団的自衛権の行使容認の意見が圧倒的だったかのような記事を載せた。
 しかしこれにはトリックがあって、よく見ると「必要最小限の範囲で使えるようにするべきだ」が63%で、「全面的に使えるようにするべきだ」はわずか8%しかいない。これをひっくるめて「71%が賛成」と書いているのだ。
 すでにVol.81で詳述しているように、集団的自衛権に「限定的」も「必要最小限」もない。
一度容認したら、イラク戦争の時の英軍のように、大義のない戦争であろうと何だろうと米軍と一緒に戦い、戦死者を出す国になるだけだ。そのことが周知されれば、「必要最小限の範囲で」という63%は「反対」に転じる可能性が大いにある。

「必要最小限」の「限定的容認」とは公明党と国民をだますために作った言葉でしかなく、世論調査するなら、設問は集団的自衛権の行使に「賛成」か「反対」かの二者択一しかありえない。
 共同通信、日経新聞・テレビ東京、朝日新聞はこの二者択一の質問をしている。
 するとその結果は…
共同通信   賛成 38.0% 反対 52.1%
日経・テレ東 賛成 38%  反対 49%
朝日新聞   賛成 27%  反対 56%
 確実に反対が上回るのである。もちろんこの「賛成」の中にも、「限定的なら」と思っている者が相当数いるはずで、「限定的などない」とわかれば差はもっと開くはずである。
 読売の「賛成71%」は、世論調査は質問の設定の仕方でいくらでも操作ができるといういい例である。こんな情報操作記事を1面トップに持ってくるというところに、政権の御用メディアに成り果てた読売新聞の実態があらわになっている。


 安倍は記者会見で仰々しく2枚のイラスト入りボードを示し、集団的自衛権の行使容認の2つの具体的事例を説明した。
 安倍は「これを見せたら誰も反対はできないだろう」と言っていたそうで、ボードの作成の際にはイラストのレイアウトの大きさまで安倍が直接指示して、会見の当日朝にようやく完成したという熱の入れようだった。
 だがその2つの具体例「邦人輸送中の米輸送艦の防護」「駆け付け警護」は、反論のしどころ満載の代物だった。


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 まず「邦人輸送中の米輸送艦の防護」について。
 紛争が起きた外国で、日本人を保護した米艦が攻撃を受けた時に、日本に集団的自衛権の行使ができなければ、日本人を救ってくれた米艦を見殺しにすることになってしまうというのだ。
 ボードには、赤ん坊を抱えて子供を連れた母親のイラストが描かれていた。安倍はこの母子のイラストを特に大きくするように指示したそうだ。

 だが、海外で紛争が起こりそうになれば、外務省は邦人に対して当然避難勧告を出す。イラストに描かれているような母子など、民間の輸送機関が機能しているうちに真っ先に避難の対象となるはずで、紛争が勃発した後で米軍に保護されるなんて想定がありえないのだ。
 
 そんなありえないところをあえて百歩譲って、もしもイラストのような母子が紛争地に取り残されたとしても、邦人救助ならば、個別的自衛権を強化すれば、自衛隊の艦船でも航空機でも自ら出動することができるのである。
 それをなぜ米軍に救助してもらって、その米軍を、集団的自衛権を行使して守るという話になるのか、さっぱりわからない。

 さらにそこを万歩譲って、邦人を救助した米艦が攻撃を受けるという事態があったとしても、米艦が自分で自分の身を守れない場合というのがあるのか?
 米艦が動くときは、周辺の制空権と制海権は必ず確保しているはずだ。その安全も確保できていない状況で、向う見ずにも米艦が民間人保護に突入するなんてことがありうると思っているのか?
 そもそも、誰が米艦に攻撃してくることを想定しているのか? 
 北朝鮮の艦船とか、中東の紛争地の武装勢力に、米軍が単独で対応できないほどの攻撃能力があるというのだろうか?
 安倍が自信満々で示した事例は、これほどヘンテコリンな代物だったのだ。


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 もう一つの「駆け付け警護」、これは紛争地に派遣されているPKO職員や日本のNGOが武装集団に攻撃された際、PKO参加中の自衛隊部隊が警護に駆け付けるというものである。
 だがこれは、武装集団と日本が直接戦闘状態に入るということに他ならない。
民間人保護のため」という名目はよほど警戒しなければ、旧日本軍が満州やシナで戦線を拡大していった過ちを繰り返すことになる。むしろ「戦争をするため」の理屈付けに利用される危険性をどう防ぐのか?
 この武力行使を容認するのであれば、当然、武装集団のメンバーは日本に潜入して復讐のテロ活動を行う。
 安倍は戦争になる危険性を隠して、美しい物語だけを説明している。

 しかも「限定的容認」の具体例はこの2例だけではない。「おともだち」の報告書には、紛争海域の機雷除去や、国連安保理の決定に基づく多国籍軍への参加などの例も記されているのに、あたかも具体的事例がこの2例しかないかのように見せかけている。これも悪質なトリックである。


 いったん「限定的」という口実で集団的自衛権の行使が容認されてしまえば、その範囲はずるずる拡大されていくのは間違いない。
「おともだち」の報告書は、その「歯止め」として6つの条件を提示し、安倍も記者会見でこの「6条件」を強調した。
 では本当にそれは歯止めとなるのか? ひとつずつ見てみると…