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第360号 2020.6.9発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…6月4日放送のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」では、元内閣参与で多摩大学名誉教授の田坂広志がリモート出演し、コロナ後の社会はどうあるべきかという「提言」をしていた。田坂は、今回のように自粛で経済を止め、その補償を国がするようなやり方が続くわけはないから、「持続可能な新たな社会のあり方」を目指さなければならないと言う。しかし、その提言というのが、社会の現実をまったくわかっていない学者の机上の空論、有害でしかないものなのだ!
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…6月3日、時事通信から「スウェーデン、対応を反省 新型コロナで独自路線」というニュースが流れた。スウェーデンは、都市封鎖や休業要請、休校措置は行わず、国民の自主的な衛生管理に任せるという緩和政策をとってきたが、その立案を行った公衆衛生局責任者で疫学者のアンデシュ・テグネル博士が、地元ラジオのインタビューに応じ、「われわれの取った行動には明らかに改善すべき点がある」と述べ、“反省の念”を示したという。しかしこれは、トンデモな捏造報道である!!
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!自分と同年代あるいは年上の人物が死ぬと自分の死を意識したりする?やっぱりスマホって必要なの?身近な人がコロナ脳になっている場合、どう説得すれば良い?SNSでstayhomeを主張していた人たちが、今度は黒人差別撤廃デモについて発信をしていることをどう思う?日本が自ら単独で拉致問題を解決する手段はないの?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第376回「構造改革派 田坂広志」
2. しゃべらせてクリ!・第317回「密集密談! いま一番のタブー破りぶぁい!の巻〈後編〉」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第170回「“スウェーデン失敗”というねつ造報道」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第376回「構造改革派 田坂広志」

 学者は「世間知らず」だという実例は、それこそ腐るほど見てきたが、社会のことを全く知らない学者が社会のあり方について「提言」なんかしていたら、それはもう有害だとしか言いようがない。

 6月4日放送のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」では、元内閣参与で多摩大学名誉教授の田坂広志がリモート出演し、コロナ後の社会はどうあるべきかという「提言」をしていた。
 田坂は、今回のように自粛で経済を止め、その補償を国がするようなやり方が続くわけはないから、「持続可能な新たな社会のあり方」を目指さなければならないと言う。
 だがわしに言わせれば、インフルエンザよりも弱い新型コロナなんかを過剰に恐れて自粛してしまったこと自体が誤りであり、普通にインフル程度の感染症予防をして経済を回し、ただしグローバリスムに依存する新自由主義的な経済を捨てさえすれば、十分「持続可能」な社会になるのだ。
 わざわざ「新たな社会のあり方」なんてものを目指す必要などないのである。

 ところが田坂は「今後来るであろう第2波、第3波、そしていかなるパンデミックにも耐えうる『社会システム』を今のうちに準備しておくべき」と主張し、「アフター・コロナ」の時代には社会を変容させ、これまでとは違ったライフスタイルを身につける必要があり、それが「ニュー・ノーマル」、新しい常識だと言う。
「アフター・コロナ」だの「ニュー・ノーマル」だの、わざわざ英語のフレーズをつけたがるところが既に怪しいのだが、ではそれは具体的にどういうものなのか?
 羽鳥慎一がパネルをめくると、こんなことが書いてあった。

 提言<1>“収入が減らない新しい働き方”
「パンデミック時、人手不足となる企業は仕事を失う職種の人と平時から雇用契約を結ぶ。
 仕事を失う職種の人はニーズのある職種を副業として身につけておく」

 そしてその具体例として、群馬県嬬恋村のキャベツ農家で、新コロのために外国人技能実習生が200人不足したため、自治体が補助金を出して労働者を募集したら、休業を余儀なくされた旅館業の人など300人の応募があったというケースを紹介する。
 また、海外の例として「従業員シェア」なるものを紹介する。
 米ヒルトンホテルが、新コロで仕事がなくなった自社の従業員にアマゾンやフェデックスなど異業種の提携会社の求人を紹介し、ヒルトンに籍を置いたままそこで働けるようにしたという。そしてアマゾンは、ヒルトンホテルを含む提携会社などから、約17万5000人を「物流施設従業員」などに採用する方針だそうだ。
 田坂はこの「従業員シェア」が「アフター・コロナ」の「成功例」だとして、こう語る。

「従業員シェアという考え方、これからの新しいキーワードになるだろうと思うんですね。今は(従業員シェアと)聞かせられると、えっ、と思いますけど、これからはむしろこれがニュー・ノーマル、新しい常態、従業員シェアというのは別に異常なことでも何でもない、当たり前のこれからのスタイルですねと」

 田坂は本当に社会を知らない。「外国人技能実習生」が、日本人は誰も応募しないような低賃金・重労働で外国人を酷使しているとして社会問題になったことも、アマゾンの「物流施設」の仕事があまりにも過酷で従業員が疲弊しきっているとして社会問題になったことも知らないのだ。
 コロナ禍で仕事をなくした人が、より条件の悪い職種に吸い込まれて行くという、ただそれだけの話のどこが「新しい社会のあり方」で、アフター・コロナの「成功例」なのか?
 ヒルトンのような超一流ホテルで働いていたホテルマンが、アマゾンの物流倉庫などという過酷で全く異なる仕事をせざるを得なくなった時、どんな思いをするか、何も想像できないのだろうか?
 田坂は社会を知らないし、人の心も知らない。
 人間は誰でもどこの何の仕事とも入れ替えの効く、交換可能な部品としか思っていないのだ。
 そして、田坂はこう言うのである。