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第350号 2020.3.25発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…森友学園への国有地売却問題に関して、当時の財務省理財局長・佐川宣寿(のぶひさ)から公文書改竄を強いられ、自殺に追い込まれた財務省近畿財務局職員・赤木俊夫氏(享年54)の妻が、佐川と国に1億1千万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こした。妻が公表した遺書と手記からは、あまりにもひどいことが行われていたことがわかる。考えることをやめたら、人は誰でもアイヒマンになりうる。実際、現在の日本の官僚はアイヒマンだらけという有様だ。「無思想性」に嵌った官僚を放置してはならない!!
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…新型コロナウイルスで、中国に次ぐ「第二の震源地」とされるイタリアでは、死者数が急増して5476人となっている(3月23日13時の時点)。連日、イタリアの物々しい集中治療室の映像が流され医療崩壊だと報じられているが、医療制度を含めイタリアの現状はどうなっているのだろうか?この機会にイタリアの危機から何が学べるのか、いろいろな面から考えてみよう。
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!どうして外国人は握手やハグを好むの?日本でも感染症対策を専門とする機関を設置すべき?今年の大河ドラマ『麒麟がくる』をどう思う?過去に読んだ作品を年を経て再読した際に新たな気づきを得ることってある?『100ワニ』は『火の鳥』を超えた!?コロナウイルスについて海外から「日本は検査が不充分」と指摘されていることをどう思う?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第366回「凡庸な悪としての佐川宣寿」
2. しゃべらせてクリ!・第307回「ひとりパンデミック! 緊急事態宣言してもいいコロナ?の巻〈後編〉」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第160回「イタリアのコロナ蔓延に学ぶ」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第366回「凡庸な悪としての佐川宣寿」

 自らものを考え、良心を持っていた人が、それゆえに苦しみぬいて自ら死を選び、一方で何も考えず、良心もない人間が出世してのうのうと生き延びる。
 そんな醜悪なことが通用する理不尽な世の中では、絶対にいけない。

 森友学園への国有地売却問題に関して、当時の財務省理財局長・佐川宣寿(のぶひさ)から公文書改竄を強いられ、自殺に追い込まれた財務省近畿財務局職員・赤木俊夫氏(享年54)の妻が、佐川と国に1億1千万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こした。
 妻はノートに走り書きされた遺書と、パソコンに遺されていたA4用紙7枚にも及ぶ詳細な手記を公表。これを掲載した週刊文春3月26日号はたちまち完売となった。
 遺書には、震える字でこう綴られていた。
森友問題
佐川理財局長(パワハラ官僚)の強硬な国会対応がこれほど社会問題を招き、それにNOを誰れもいわない
これが財務官僚王国
最後は下部がしっぽを切られる。
なんて世の中だ、
手がふるえる、恐い
命 大切な命 終止府
(原文ママ)

 さらに手記には、
「元は、すべて、佐川理財局長の指示です。
 局長の指示の内容は、野党に資料を示した際、学園に厚遇したと取られる疑いの箇所はすべて修正するよう指示があったと聞きました。」
として、より詳細な経緯が記されている。
 赤木氏は現場の人間として頑として改竄に抵抗したが、これに対して財務省総務課長の中村稔や国有財産審理室長・田村嘉啓が近畿財務局トップに圧力をかけ、その結果、赤木氏が改竄作業をやらされることになった。
 しかも手記では、近畿財務局には財務省の言いなりになって改竄を行なうことを、何とも思っていなかった者もいたことも暴いていた。
「本省からの出向組の小西次長は、「元の調書が書き過ぎているんだよ。」と調書の修正を悪いこととも思わず、本省杉田補佐の指示に従い、あっけらかんと修正作業を行い、差し替えを行ったのです。」

 そして手記で特に見逃せないのは、この記述の後に書き加えてあったこの一文だ。
「大阪地検特捜部はこの事実関係をすべて知っています」
 大阪地検特捜部はこの件をすべて把握していながら、官邸の圧力に屈して立件を見送ったのである。
 この時、官邸の意を受けて捜査にストップをかけるために動いたと言われているのが、当時法務省事務次官だった黒川弘務。現在東京高検検事長で、違法な定年延長が問題になっている人物だ。
 当然、安倍政権はこの「官邸の番犬」の定年を延ばして検事総長にして、追及をかわそうとしているわけで、こうまで思惑見え見えのことをヌケヌケとやれる神経にも呆れ果てる。

 大阪地検特捜部は公文書改竄について一時は捜査に動きながら、結局、佐川はおろか財務省関係者の全員を不起訴処分とした。
 これについては官邸と検察上層部の間で、財務省には触わらず、代わりに近畿財務局の職員を挙げて幕引きをはかるというシナリオが進んでいると噂されていたという。
 そうなると、「トカゲのしっぽ切り」で挙げられる近畿財務局職員とは、赤木氏しかいない。週刊文春記事によると、実際その頃検事から赤木氏に電話があり、その後、赤木氏は妻にこう話したという。
「検察は恐ろしいとこや。何を言っても思い通りの供述を取る。検察はもう近畿財務局が主導して改ざんしたという絵を描いている。そのストーリーから逃げられない。ぼくが何を言っても無理や。本省の指示なのに最終的には自分のせいにされる。ぼくは犯罪者や」

 赤木氏は強度のストレスから心身に支障をきたして休職し、平成30年(2018)3月7日、自殺した。
 赤木氏が死の直前まで書いていたと思われる手記の最後は、こう結ばれている。
〇刑事罰、懲戒処分を受けるべき者
 佐川理財局長、当時の理財局次長、中村総務課長、企画課長、田村国有財産審理室長ほか幹部 担当窓口の杉田補佐(悪い事をぬけぬけとやることができる役人失格の職員)

 この事実を知り、抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。
 事実を、公的な場所でしっかりと説明することができません。
 今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした。(55歳の春を迎えることができない儚さと怖さ)

 家族(最も大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です。
 私の大好きな義母さん、謝っても、気が狂うほどの怖さと、辛さこんな人生って何?
 兄、甥っ子、そして実父、みんなに迷惑をおかけしました。

 さようなら。

 あまりにもひどいことが行われていたことを知って、慄然とする。