第343号 2020.1.21発行
「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)
【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…昨年末のどさくさ閣議決定で海上自衛隊が中東に派遣されることになり、今月11日にはP3C哨戒機2機が出国して20日から活動を始め、来月には護衛艦1隻が派遣される予定となっている。これに対して右と左が意見を激突させているが、どちらの意見もヘンで、お互いピントのずれた主張をぶつけ合い、どんどん本質がぼやけて行っている。今回の自衛隊の中東派遣をどう考えるべきか?問題の本質から目を反らすな!
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…先週1月14日に、警視庁の人事が閣議で承認され、警察庁次長として中村格氏の名前が発表された。菅義偉内閣官房長官の秘書官として働き、2015年3月から警視庁刑事部長、そして、山口敬之元記者の起こした準強姦事件の逮捕中止を決裁したあの人物である。中村氏は警察庁ナンバー2、「次期警察庁長官」とされる立場になった。そこで今回は、中村氏の数々の“栄転への軌跡”を紹介しておきたい。
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!強姦した人間でも、正義よりも才能を採るべき?豊臣秀吉の文禄・慶長の役をどう評価している?1993年にローマで起きた強姦事件「カバキ事件」について今はどう考えている?「共同体の再生」の実現に向けて何か具体的な計画はあるの?男女の産み分け技術はある?自殺者数が10年連続で減少し昨年は過去最小を更新、このまま減少していく?香川県のスマホ・ゲーム規制条例をどう思う?…等々、よしりんの回答や如何に!?
【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第357回「自衛隊、中東派遣の虚妄」
2. しゃべらせてクリ!・第300回「ばぶぶぅ… ぽっくん赤ちゃんのやり直しぶぁい!の巻〈前編〉」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第152回「権力の下僕 ~中村格警察庁次長~」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記
第357回「自衛隊、中東派遣の虚妄」 右と左が意見を激突させている時は、右の意見も左の意見もヘンで、お互いピントのずれた主張をぶつけ合っていて、どんどん本質がぼやけて行っているということが実に多い。
そして今回も、毎度おなじみの光景が展開されている。
昨年末のどさくさ閣議決定で海上自衛隊が中東に派遣されることになり、今月11日にはP3C哨戒機2機が出国して20日から活動を始め、来月には護衛艦1隻が派遣される予定となっている。
これに対して野党は猛反発しているのだが、その理由がなんと、「米国とイランの軍事的な衝突で、現地の緊張が高まっているから」だそうで、立憲民主党国対委員長・安住淳は「こんな中で派遣するという感覚はちょっと信じられない」と強調している。
要するに「危ないから行くな」と言っているわけで、これでは話にならない。自衛隊が行ってはいけないほど危ないのなら、非武装の民間タンカーなどなおさら危ないわけで、アラビア海の運航を一切禁止しなければおかしい。つまり、日本に石油が入って来なくてもいいと言っているのも同様になってしまう。
左側の「危ないから行くな」が論外であることは言うまでもなく、これを右側が批判し、嘲笑しているのは正しい。
ところが、さらに右側は「イランをめぐる情勢が悪化しているからこそ、自衛隊派遣が必要だ」と主張するので、こうなると手放しには賛成できなくなる。
なぜなら、そもそも今回の自衛隊派遣は「調査・研究」が目的であって、民間タンカーの警備・護衛が任務ではないからである。
自衛隊は憲法9条の規定によって「戦力」ではないとされている。軍隊じゃないから、派遣を合法化するには防衛省設置法の「調査・研究」を根拠にするしかない。「調査・研究」は防衛省内で「打ち出の小槌」と呼ばれるほど使い勝手のよい規定だそうで、自衛隊が日本周辺で行っている警戒監視や情報収集も「調査・ 研究」ということになっている。
今回も、「有志連合」への参加を求める米政府の顔を立てるための「アリバイづくり」の派遣をしつつ、イランとの伝統的な友好関係も壊したくないという虫のいい目的を果たすために「打ち出の小槌」を振るったというわけだ。
調査・研究目的でも、自衛艦が直接攻撃を受ければ自衛隊法の「武器等防護」を根拠に、武器を使用して反撃することができる。
しかし調査・研究では、自国の民間船が襲撃されていても、それを助けに行くことはできない。そこで今回の中東派遣に当たっては、不測の事態が起きた場合には自衛隊法に基づく「海上警備行動」に切り替えることになっている。
海上警備行動は海上での人命・財産の保護、治安維持を目的とするもので、緊急時は電話閣議を経て防衛相が命令し、警察権の範囲内で武器使用や進路妨害などの「強制力を伴う措置」ができる。
そして河野太郎防衛相はその活動範囲も「他の海域を排除しない」と発言しており、イランへの配慮から今回の「調査・研究」の対象から外したホルムズ海峡やペルシャ湾での海上警備行動の可能性も示している。
相当に無理を重ねているものの、これでともかく自国のタンカーがホルムズ海峡で襲われても自衛隊が助けに行けることにはなっているわけだが、ところがここにまだ問題がある。
公海上では国際法上は、船舶は船籍を登録している国の政府が保護する「旗国主義」を原則とする。旗国主義の例外となっている海賊対処以外で安易に武力行使をすれば、国際法違反となる恐れがあるのだ。
中東のシーレーンには、船籍は外国でも日本の海運会社が運航していたり、日本人が乗っていたり、日本向けの重要な貨物を載せている船舶が多数往来している。
日本船主協会によると、日本の海運会社が運航する船舶のうち、日本籍の割合はわずか10.5%だそうで、昨年6月にホルムズ海峡付近で、何者かによって吸着機雷の攻撃を受けたタンカーはパナマ籍だった。
自衛隊がこういう船舶を守るために武器使用や進路妨害など「強制力を伴う措置」を行なったら国際法違反になってしまい、攻撃している船に大音量の警告や強い照明を浴びせるなど「強制力のない手段」による対応しかできない。
もしも自衛艦が中東で、船舶が攻撃されている場面に遭遇したら、現場の自衛官は洋上で瞬時に襲われている船が日本船籍か他国船籍かを見極め、武器を使用するかしないかを判断するという、ほとんど無理なことを求められるのである。
コメント
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今号の感想です。
ゴーマニズム宣言・第357回「自衛隊、中東派遣の虚妄」
改めて、個人である自衛官が武器使用責任を有している、という点に恐ろしさを覚えました。はっきり言って、異常です。
しかし、改憲をしない限り、このゆがみを是正することは不可能なのか、と思うと、護憲にこだわる野党の頑固さに救いようのなさを感じ、本当に立憲主義に基づいて政治を行うためには、私たちが憲法の条文案に携わり、自主独立を目指すことが肝要なのではないか、と改めて感じました。
泉美木蘭のトンデモ見聞録・第152回「権力の下僕 ~中村格警察庁次長~」
中村という人の悪辣さを目の当たりにしたように感じました。公私を混同しているのは、彼のような人を指すのでしょう。身内の恥を隠匿し、なかったかのように見せかけ、権力におもねっている姿は、醜悪そのものでしょう。
綺麗すぎる政治家、というのも反撥を覚えますが、虎の威を借る狐のように、露骨に不正を働く政治家は、確実に国家を損なうと思います。はやく狐のブラックボックスが暴かれ、旧悪を含めて正当に審査される日が来たらんことを願います。
今号のanamochiさんのゼリーで性別を操作できるという話をよんで、思わず、「お薬のめたね」というCMを思い出してしまいました。なんだか遺伝子組み替えの野菜の話を聞いているような感じで、やはり男女の区分は自然の摂理に任せた方が良いのでしょう。
今回はこんな感じです。次号は号外だということですが、期待しています。
月末発売の慰安婦の本も期待しています。
(ID:19289646)
こんばんは、毎週ライジング配信ありがとうございますvv
木蘭さんの「トンデモ見聞録」、第152回「権力の下僕 ~中村格警察庁次長~」について。
己の出世や権力のために公平も公正も正義も平然と踏みにじる中村格のような人間が官僚の世界で上に上がっていくのを見ていれば、官僚志望の若者が年々減っているのも、社会人の出世願望がなくなっているのも分かります。
中東派遣も、中村格氏のような権力の下僕が出世するのも、どちらも憲法の欠陥が引き起こしている問題だと思いました。
自衛隊が万が一戦闘に巻き込まれた場合、国際法に違反することなく身を守れるようにするために、権力の犬が出世できないようにするためには、何が何でも憲法を守らせる必要があります。
そのためには憲法違反を裁く憲法裁判所が必要不可欠であり、その憲法裁判所を作るには憲法改正が必要です。
(ID:22136524)
最後にもう少しだけつけ加えます。
今号の「おぼっちゃまくん」のタイトルページ、思わず吹いてしましました。
どこかで見たような人たちがさりげなく登場している。