第172号 2016.4.5発行
「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)
【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…アフリカの「最後の秘境」と呼ばれるエチオピア南部のオモ川流域には「ムルシ民族」が住んでいる。ムルシ族は伝統的な暮らしを守ってきたが、2000年代に入り「観光地化」が進んだことで、変化の波が押し寄せているという。お金によって伝統が破壊され故郷の村が滅びていく…果たして、それが幸福といえるだろうか?さらに、最近のハリウッド映画において大きな違和感を生んでいる“中国色”からも、資本主義の弊害は見てとれる。資本主義に対する警戒心を失ってはならない!
※「ザ・神様!」…そう、あれは蒸し暑い8月の朝のことだった。今まで何度となく問題を起こしてきた、となりのおじさんの孤独死事件。いつも窓から酒の残りを捨てたり、咳込んだり、独り言を言ったりしていた、アルコール中毒のおじさん…。モクレンヒメは突如、目の前に現れた「黄泉の国」から目を離せなくなるが…!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!男に必要といわれる「かわいげ」とは何?中東の難民問題に対して日本も何かすべき?売春を合法化したら、性交渉に対する意識が軽いものになってしまわない?エイプリルフール、何か嘘をついた?オレってばもしかしてモテ期到来!?隣の部屋の子供が煩いと思う自分は非情?…等々、よしりんの回答や如何に!?
【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第166回「カネで魂を売る資本主義は無謬ではない」
2. しゃべらせてクリ!・第132回「ハッキヨイ!小相撲、時間いっぱいぶぁい!の巻〈後編〉」
3. もくれんの「ザ・神様!」・第78回「その窓の向こうは黄泉の国~となりのおじさん孤独死事件2」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記
第166回「カネで魂を売る資本主義は無謬ではない」 わしは以前『おぼっちゃまくん』で、下唇に輪っかをはめた「マチャイ族の酋長」というのを描いたことがある。
70年代くらいまではこういう、近代人には奇異に映る原住民の姿や風習などをよくテレビでやっていて、その記憶から普通にパロディ化して描いたのだが、今だったら編集者に止められるアイディアだろうか?
いつの間にかこういう風習をメディアで目にすることはなくなっていたが、朝日新聞3月22日の記事「世界発2016」で、昔ながらの下唇に輪っかをはめた姿の女性の写真が載っているのを目にして、今でもこういう部族がいるのかと驚いてしまった。これはアフリカの「最後の秘境」と呼ばれる、エチオピア南部のオモ川流域に住む「ムルシ民族」の女性だという。
だが記事によれば、最後まで伝統的な暮らしを守ってきたこの地域にも、変化の波が押し寄せているらしい。
1990年代にこの地域を訪れた外国人観光客は年間数千人だったが、2000年代に周辺の道路が整備されると激増、現在は年に数十万人が訪れているという。
「観光地」と化した「最後の秘境」では、着飾った少女たちが外国人観光客を囲んで写真を撮るように催促し、引き換えにお金を要求するようになったという。
たぶん最初は観光客がチップの感覚で金を渡したのだろう。だが、それで写真を撮らせたら金がもらえるんだと思った少女たちは、自分から進んで観光客に写真を撮れ、金をくれと言うようになってしまったわけだ。
ムルシ族では人に金や物をねだることは特に卑しい行為とされ、長老がたしなめる光景も見られるそうだが、もう後戻りはできないだろう。
こうなったら伝統は崩壊である。
ムルシ族の長老は「ここの生活は牛が中心。お金を持つと、若者は牛を捨てて集落を出て行ってしまう。お金は恐ろしい」と嘆いているという。
その国ごと、その民族ごとの中に、伝統として受け継がれてきた平衡感覚というものがあるのだが、それがお金によって崩されていく。
お金によって、伝統が破壊されてしまうのだ。
エチオピアは2014年の実質GDP成長率が10.3%で、世界でもトップクラスの高度経済成長の最中にある。だが、本当にそれがいいことなのだろうか?
お金を持った若者は牛を捨て、街に出ていく。しかし、お金を使い果たしてしまったら、もう街で働くしかなくなってしまう。それでいい職があるはずもなく、結局は街の最下層に入らざるをえなくなる。その一方で、故郷の村は滅びていくのだ。
果たして、それが幸福だろうか?
話が飛ぶようだが、同じ3月22日の朝日新聞には、「ハリウッド映画“中国色”濃く」と題する記事が載っていた。
火星にたった一人残された男のサバイバルを描いたリドリー・スコット監督のSF大作『オデッセイ』は、中国が主人公を救出する重要な役割を果たすという話になっている。
こういう傾向はここ数年続いていて、『ゼロ・グラビティ』でも中国製の宇宙船のおかげで主人公が生還できたことになっていたし、『トランスフォーマー/ロストエイジ』『X-MEN:フューチャー&パースト』など、舞台に中国が登場したり、中国人キャストを起用したりする作品は増えている。ハリウッドが、どんどん中国に媚を売っているのだ。
これらの映画は作品として見ても、何かというと重要な場面で中国が出てくることに、ものすごい違和感がある。
それは別にわしだけの感覚ではない。朝日新聞の記事中でも、映画評論家の秋本鉄次氏が『オデッセイ』について、「『70億人が彼の帰りを待っている』というキャッチフレーズなのに、米国以外は中国ばかり。まるで米中共同救出作戦のようで、違和感を覚えた」と語っている。
結局、ハリウッドは金で魂を売っているのだ。
中国の巨大市場で金儲けするためには、作品の不自然さに目をつぶってでも中国に媚を売っておかないとならない。こうして、金に目がくらんで作品の魂が崩れていくのだ。
最も原始的なアフリカの原住民族と、最も最先端のハリウッド映画。
一見、全く無関係のようだが、この両者で同じことが起きている。
どちらも、金で魂を売っているのである。
金が、人間の幸福感や、作品の完成度といった、根本的な価値を次から次に壊している。
これで、本当に資本主義がいいものだなどと言うことができるのだろうか?
さて、さらに話が飛ぶように思うかもしれないが、同じく3月22日の産経新聞には、1面トップで「パチンコで浪費 国“黙認”」と題する記事が載っていた。
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一番槍じゃあああ!