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第99号 2014.9.2発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、よしりんの心を揺さぶった“娯楽の数々”を紹介する「カルチャークラブ」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、小林よしのりに関するWikipediaページを徹底添削「よしりんウィキ直し!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』」、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…札幌市議会議員の金子氏がツイッターに「アイヌ民族なんて、いまはもういない」「利権を行使しまくっているこの不合理」などと書き込み非難を浴びている。「アイヌ」の議論は封殺されタブーになりつつあるが、果たして本当に「アイヌ民族」はいるのか?「アイヌ利権」はないのか?小林よしのりはアイヌ差別を助長したのか?慰安婦問題と同じ轍を踏み、悪化の一途をたどるアイヌ問題の実態を直視せよ!
※「ザ・神様!」…新婚初夜明けに、いきなりの修羅場に見舞われた天孫ニニギノミコト。予想外にエキセントリックだったコノハナノサクヤビメは、なんと「一回だけ」のまぐわいで三人の息子を妊娠!燃えさかる火のなかで生まれた三人の息子たちにも「一回だけ」に纏わる事件が迫っていた!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!高齢になっても柔軟な思考でいるためには何が必要?描き下ろし中のゴー宣スペシャル、現在の作成状況はどれくらい?アイスバケツチャレンジについてどう思う?国家公務員OBの天下りは必要悪?ギャグシーンのツッコミで男が女を殴るシーンに素直に笑えなかった…これは男尊女卑的感覚?映画『喰女クイメ』は観た?ズバリ、愛は地球を救いますか?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第99回「慰安婦問題と同じ道をたどる『アイヌ民族』問題」
2. しゃべらせてクリ!・第59回「夏休み明けで電池切れぶぁ~い!の巻〈前篇〉」
3. もくれんの「ザ・神様!」・第40回「『一回だけお願い』に要注意! ~海佐知&山佐知 その1~」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記




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第99回「慰安婦問題と同じ道をたどるアイヌ問題」

 札幌市議会議員の金子快之(やすゆき)氏がツイッターに「アイヌ民族なんて、いまはもういない」「利権を行使しまくっているこの不合理」などと書き込み、これが「ヘイトスピーチだ」と非難を浴びている。
「アイヌ民族は出て行け」とか、「汚いアイヌめ」とか、差別的な罵詈雑言を浴びせればヘイトスピーチだろうが、アイヌがいるかいないかは議論の問題である。ヘイトスピーチとは何の関係もない。
 金子氏が所属する自民党・市民会議は、当初は発言を問題視しない方針だったが、非難が収まらないのを見て日和り、金子氏に会派離脱を勧告、受け入れない場合は除名処分にするとしている。さらに、菅官房長官も政府として遺憾の意を表明している。
 かつて慰安婦問題も、こんな風にタブーだったのだ。左翼運動家や韓国から猛抗議が来たら、議論は封殺されるのが常識だった。懐かしいタブーな空気ではないか。

 金子議員のホームページを見てみると、「札幌市は韓国・大田市との姉妹都市提携を破棄し、一切の交流を止めるべき」とか、集団的自衛権行使に賛成した上で「(反対派は)よほど日本を中国に売り渡したいのでしょうか」とか、オスプレイ歓迎とか、海外への原発輸出賛成とか、安倍首相の靖国参拝を支持し、「失望した」と言ったアメリカに失望したとか、とにかく見事なほどに自称保守の紋切り主張がワンセット揃っている。
 金子議員個人には全然共感を感じないので、あえて火中の栗は拾わぬが、しかしこの件によって「アイヌ」の議論が封殺されることは問題がある。
「アイヌ民族なんて、いまはもういない」というのは学術上も証明されている事実であり、わしが本格的に論じ始めたら、まともな反論はできるはずがない。


 わしは6年前、平成20年(2008)秋号の「わしズム」で『日本国民としてのアイヌ』という大特集を組んだ。
 当時、国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める国会決議」が全会一致で可決され、その後、中山成彬国交省(当時)が「日本は非常に内向きな単一民族」などと発言したことで辞任に追い込まれる事件もあり、アイヌ問題についての関心が湧いたのである。
 なにしろそれまでわしはアイヌといえば、ヒゲをたくわえた男や民族衣装をつけた女が『イヨマンテの夜』の歌に合わせて「熊送り」の儀式をしているイメージしか浮かばないという有り様だった。
 実は『イヨマンテの夜』は古関裕而作曲によるラジオドラマの劇中音楽に後から歌詞を加えたもので、アイヌの民族音楽とは何の関係もなく、その曲想は同じ作曲者の『モスラの歌』と共通しているなんてことは、当時は全く知らなかった。

 ともかく北海道には今でもアイヌの暮らしをしている人がいるのかどうかもわからない。おそらくほとんどの日本国民が、アイヌの実態について知らないに違いない。それを知らせる役割を果たしたいとわしは思った。
「アイヌはいる。会いたい。知りたい」とわしは純朴に思っていただけだ。
 当初は特集のタイトルを『偉大なれ、アイヌ』と予定し、最大のアイヌ団体である北海道アイヌ協会(当時・北海道ウタリ協会)に取材を申し込んだ。
 協会からは取材のOKが出て、わしは取材の前に読むよう指定された本も律儀に読み、さらに独自に多くの文献を集めて猛勉強を始めた。

 ところがアイヌ協会は、突然取材拒否を通達してきた。「小林よしのり及び『わしズム』への不信感」がその理由だった。

 アイヌ協会は以前には北海道庁の内部に置かれており、関連の財団法人を通じて国と道から年間合計6億円の補助金が投入される、半分公的な団体である。それが取材拒否とは到底納得のいかないことだった。
 わしはアイヌ差別には断固反対するが、だからといってアイヌ協会の説明を鵜呑みにするつもりはない。取材には白紙の状態で臨み、途中で湧いた疑問は率直に質し、自分自身で理解したアイヌの実態を描くつもりだった。
 ところがアイヌ協会にとっては、そういう取材者が一番都合悪かったのだ。アイヌ協会の主張をそのままプロパガンダしてくれる取材者しか受け入れたくなかったのだ。
 なぜなら、彼らにとっては本当のアイヌの実態を知られることこそが、一番まずいことだったのだから。


 アイヌ出身の言語学者で、アイヌ文化研究の第一人者だった知里真志保は、今から59年も前、昭和30年(1955)の時点でこう断言している。
民族としてのアイヌはすでに滅びたといってよく、厳密にいうならば、彼らはもはやアイヌではなく、せいぜいアイヌ系日本人とでも称すべきものである
 滅びたといっても、決して民族浄化されたわけではない。
 もともと北海道島では縄文時代の太古より和人千島系樺太系大陸系など様々な人々が混住、混血を繰り返し、文化的にも混交して盛衰を繰り返していた。
「アイヌ」はその中から鎌倉時代という比較的新しい時代に成立したものであり、歴史的に別民族ではなく、日本民族の一分派であった。
 しかもアイヌは3大系統7分派に分立しており、アイヌが自ら一社会集団を形成したことは一度もなく、時代の流れとともに日本国民の中に吸収、同化されていったのである。
 古代から混血を繰り返してきたため、ただでさえアイヌに「純粋な血統」は存在しない。