第256号 2018.1.30発行
「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしの人たち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)
【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…『絶対に笑ってはいけない』でのダウンタウン浜田の「黒塗りメイク」やベッキーへのタイキック、アホの坂田、ブルゾンちえみの「35億!」、志村けんの「ひとみばあさん」、天津木村の「エロ詩吟」、リアクション芸の数々、とんねるず石橋の保毛尾田保毛男…ギャグと差別は切っても切れない関係にある。果たして、「笑い」か「単なる差別・イジメ」の判断基準はどこにあるのだろうか?
※「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…アクセス数が増えて広告料が吊り上がり、儲かるのなら、ヘイトも差別も見て見ぬふり。ルールなき市場万能主義に突き進む欲望の広告代理店が生み出した仕組みによって、「なんでもあり」の世界が作られている。この問題を放置した先に待っている世界とは?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!自民党議員・青山繁晴の加憲案はあり?人を見た目で判断することをどう思う?国防を自衛隊や軍隊に押し付けるのは卑怯?煮詰まった時の気分転換の方法は?信頼できる批評家は誰?最近のお気に入りの芸人は?ネットでの違法アップロード&ダウンロードをなくす方法は?相撲界の八百長には金銭のやり取りもあると思う?…等々、よしりんの回答や如何に!?
【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第262回「ギャグに差別はつきものである」
2. しゃべらせてクリ!・第214回「こども社長・ぽっくんにどーんとまかせんしゃい!の巻〈後編〉」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第66回「フェイクニュース事件簿4~企業による情報統制」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記
第262回「ギャグに差別はつきものである」
大晦日恒例のダウンタウンの『絶対に笑ってはいけない』シリーズだが、昨年はダウンタウンの浜田が「エディ・マーフィーのコスプレ」として黒塗りメイクで登場したシーンと、ベッキーが不倫の「禊ぎ」としてタイキックを食らうシーンが問題ではないかと物議を醸し、番組自体はほとんど評判にならないまま、この話題だけが今も続いている。
中島岳志(東京工業大教授)はこれらのギャグに批判的で、東京新聞の論壇時評(1月25日夕刊)で、こう書いている。
〈「笑い」と「嗤い」は異なる。後者には「あざけり」や「蔑み」が含まれており、暴力性が内在する。差別的な「嗤い」には注意深くならなければならない。「笑い」と「嗤い」を混同してはならない。〉
だが、「笑い」と「嗤い」を峻別することなど、できるのだろうか?
そもそもわしは笑いというもの自体が、差別と一体なのではないかと思っている。
お笑い芸人の中でも、わしが最も面白く「別格」だと思っているのは「アホの坂田」こと坂田利夫だ。
だが冷静に言ってしまえば、坂田がやっている「アホ」の芝居は「精薄児」そのものなのだ。
「精薄(精神薄弱)」という言葉も今では「知的障害」に言い換えなければならないらしいが、使い慣れた言葉を言い換えるのはどうも妙な感じがするので、このまま使わせてもらう。そもそも、わしにとっては「精薄」も言い換え語で、昔はみんな「知恵足らず」と言っていたのだ。
アホの坂田は精薄児をモデルにしたギャグをやっているわけで、これは根本的に差別なのである。ところが、それがめっちゃオモロイ。ヤバイことに、これがわしには全てのお笑いの中で一番面白いのだ。
多分、テレビではやれない表現なのだろう。大阪の「よしもと」の劇場では「アホの極致」と言えるコントをやっていた。
だがこれは中島岳志の分類では「嗤い」の方になり、やってはいけないものになってしまう。
似たような例はいくらでもある。
志村けんの「ひとみばあさん」のギャグは、年取って手が震えたり、物忘れがひどくなったりして、まともに用事がこなせない様子をギャグにしているが、これは老人そのものや、認知症や中風(脳出血・脳梗塞による運動機能障害)などの病気に対する差別で笑いをとっていることになる。それに、「バカ殿」などモロに精薄児だし、「変なおじさん」も明らかに精神異常者ではないか。
ではわしの『東大一直線』はどうだろう?
主人公の東大通は、脳の左半球が完全にぶっ壊れていて論理的思考力は破滅状態だが、右半球の直感が並外れているというキャラクターだ。これは一種の天才であり、作曲家の大江光みたいなものである。
一方、東大とコンビを組む多分田吾作は完全に精薄児である。
東大通は単なるアホではなく、天才を秘めたアホであるのに対して、多分田吾作はとことん単なるアホを追及したキャラなのだ。
こういうタイプの違う精薄児キャラを二人並べて爆走するギャグを描いていたわけで、これも差別かもしれない。
また、『いろはにほう作』という作品は、多分田吾作のキャラを発展させて、とにかくただひたすらのアホ、究極のアホを描くことを意図した漫画だ。
この作品、本当は『いろはに呆作』というタイトルで、主人公の名は「呆作」になるはずだった。ところが、連載スタート直前に編集部から「呆」の字を使ってはいけないとクレームがつき、結局「ほう作」になってしまった。
34年前の出来事だが、「呆」の一字すら使えなかったことは、もうこの頃から「ギャグに差別を持ち込んではいけない」などという感覚があったという証と言えよう。
じゃあ『おぼっちゃまくん』はどうか?
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