第468号 2023.5.10発行
「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)
【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…フィクションと史実・現実は別物である。ところがそんなことすらわからないほど、自称保守派の劣化は深刻なものになっている。『ALWAYS 三丁目の夕日』が現実の昭和33年の東京を描いたものだと信じ込み、「この理想的な社会を取り戻す!」と本気で思っていた安倍晋三。そんな安倍晋三を信奉する一派が、サザエさん一家こそが「伝統的家族」であり、これを現代に復活すべきと主張していたのである。たかだか60年程度前の高度経済成長期のこともわからず、ありもしない「伝統」を「復活」させようと妄信・猛進していたのが、自称保守の連中だ。繰り返すがフィクションと史実・現実は別物である!『サザエさん』が「伝統的家族」か否か、ここで詳しく分析してあげよう。
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…5月8日(月曜)、コロナが正式に5類感染症になった。散々煽ってきたマスコミは今、どのようなことを言っているのか?むちゃくちゃさに仰天したのは、5月6日の朝日新聞の記事である。自分たちが煽ったコロナで、いかに死者が増えたかを強調するための見出しを打ち、読者を誤認させ、一方で「……ということは、ワクチンが効いていなかったのではないか?」という重要な疑問については、厚労省と一緒になって黙りこくって、見て見ぬふりをするという欺瞞に満ちた記事を書いているのだ!やはり日本にジャーナリズムはない。それで良いのか!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…もし絵を描けなくなってしまったらスタッフに描かせるという選択肢はあるの?SNS等で拡がる秋篠宮家に対する誹謗中傷をどう見ている?某三流週刊誌の「今後、脱ぐことを期待できる女性芸能人」という記事にあの人の名前が!?ロシア大統領府「クレムリン」への無人機によるとされる攻撃は、ロシアの自作自演?ChatGPTを使用するならどんな質問をしたい?…等々、よしりんの回答や如何に!?
【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第497回「『サザエさん』を〈伝統的家族〉と思い込むカルトな自称保守」
2. しゃべらせてクリ!・第424回「ぽっくん叫ぶ!みなしゃん、ついて来なしゃ~い!の巻【前編】」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第291回「検証だけはしない朝日新聞、接種率と死者急増のグラフ掲載するも無視」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記
第497回「『サザエさん』を〈伝統的家族〉と思い込むカルトな自称保守」 こんなことをわざわざ言わなきゃならないのかと思うと情けなくてしょうがないのだが、フィクションと史実・現実は別物である。
もちろん、虚実が入り乱れることもあれば、現実よりも真実が深く描かれることもあり、それがフィクションの魅力でもあるのだが、フィクションと史実・現実は同一ではないということは、当然の前提のはずである。
ところがそんなことすらわからないほど、自称保守派の劣化は深刻なものになっている。
平成26年(2014)に設立された「美しい日本の憲法をつくる国民の会」という団体がある。
会の名称を聞いただけで苦笑いしたくなるが、そのメンバーを見ればもう苦笑いが止まらない。共同代表が櫻井よしこ、田久保忠衛、日本会議名誉会長の三好達。以下、代表発起人に青山繁晴、小川榮太郎、中西輝政、百田尚樹等々、毎度おなじみの自称保守の名前がズラリ。神社本庁総長・田中恆清の名もある。
同会は平成24年(2012)に自民党が発表した憲法改正草案を強力に後押ししているが、今やその改憲案が統一協会の影響下で作成されたことも、同会のメンバーに統一協会系団体で講演を行っていた者が多いことも明らかにされている。
ところが同会はそんなことは一切スルーして、今年の憲法記念日にも集会をやっている。今も統一協会とつながりが深いままなのではないかと疑っておいた方がいいだろう。
そんな「国民の会」が6年前に『「世界は変わった 日本の憲法は?」~憲法改正の国民的議論を~』と題するDVDを出している。
そしてその中の1パートでは、同会の幹事長である日本大学名誉教授・百地章が登場し、東京・桜新町にあるサザエさん一家の銅像の写真をバックに、
「『サザエさん』が、今も高い国民的人気を誇っているのはなぜでしょうか」
と問いかけ、
「サザエさん一家は3世代7人の大家族です。昔は日本のどこでも見られた風景です。サザエさん一家のユーモラスで暖かな日常を見ると、誰もがホッとするからではないでしょうか」
と唱える。そして、GHQが作った憲法によってこの伝統的家族が壊されたのであり、憲法に家族条項を加えることでこれを復活させなければならないと、話はどんどん飛躍していくのだ。
このように「サザエさん一家」が「伝統的家族」の象徴のように扱われることが度々あり、わしには違和感があったのだが、わしは『サザエさん』を見ていないので詳しく分析できなかった。
そこへトッキーが「サザエさん一家は伝統的家族でも何でもない」と言ってきたので、今回はその受け売りを交えて論じていこう。
サザエさん一家は「磯野家」(夫・波平、妻・フネ、長男・カツオ、次女・ワカメ)と、「フグ田家」(夫・マスオ、妻・サザエ、長男・タラオ)の二世帯同居家族。主人公のサザエは磯野波平・フネの長女で、結婚してフグ田姓になっているが、夫と息子と共に実家に住み続けている。
普通「伝統的家族」といえば、「長男の嫁」が嫁いできて全員同じ苗字というイメージのはずだが、これは変則的な三世代家族なのだ。
実は、原作ではサザエさんは結婚して一度は実家を出て、新婚夫婦だけの所帯を構えている。
ところが、夫のマスオが大家と喧嘩して借家を追い出されてしまい、サザエさんはやむなく夫を連れて実家に転がり込んだのだ。
マスオが婿入りしたわけでもないのに妻の両親・弟妹と同居し、何となく妻に頭が上がらなくなっているのは、このためだ。
80年代には、妻の実家に依存する、立場の弱い夫を意味する「マスオさん現象」なんて言葉も生まれているが、これだけでもサザエさん一家が「伝統的家族」とは違うことは明白といえる。
そして、そもそもサザエさん自身が自称保守派のいう「伝統的家族」にふさわしいキャラではない。
サザエさんは専業主婦だが、その性格は「伝統的家族」らしい「良妻賢母」とは全く無縁である(もっとも「良妻賢母」も明治時代の外来思想だが)。
サザエさんの母・フネは良妻賢母型だが、これに対してサザエさんは夫よりも強い立場で、特に夫を立てることもせず、自ら活発に行動し、しかもそそっかしくてドジを踏み、それでも気にしない。
今ではよくあるキャラにしか見えないが、これはごく戦後的な主人公で、こういう女性キャラは戦前には存在しなかった。
漫画『サザエさん』の連載開始は昭和21年(1946)。終戦後すぐであり、その後、数度の中断や掲載紙の移籍を経て昭和26年(1951)から朝日新聞朝刊で連載された。
サザエさんは昭和20年代に登場した、当時としては革新的なキャラであり、自称保守派が大嫌いな「GHQが作った戦後憲法」の価値観を背負い、男女平等の空気をまとって登場した第1号のキャラクターだったのである。
さらにいえば、百地章が言うように三世代同居が「日本のどこでも見られた風景」かというと、これも違う。
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