第305号 2019.2.26発行
「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)
【今週のお知らせ】
※特別寄稿!笹幸恵「山口敬之氏手記『私を訴えた伊藤詩織さんへ』を再読する」…いささか旧聞に属するが、2017年12月号の月刊「Hanada」で、フリージャーナリストの山口敬之氏の独占手記が掲載された。タイトルは「私を訴えた伊藤詩織さんへ」。この記事は、レイプ被害に遭った伊藤詩織さんが記者会見を開き、民事訴訟を起こすことを知ったため、「自らの見解を『当該女性への書簡』という形で申し述べる」として書かれた手記である。果たして真実を語っているのはどちらか?常識のある人は、どちらの主張に説得力を感じるだろうか?
※「ゴーマニズム宣言」…自称社会学者・倉橋耕平とジャーナリスト・安田浩一による『歪む社会 歴史修正主義の台頭と虚妄の愛国に抗う』なる対談本の中で新たな『戦争論』批判を行っている。その論旨はというと「『戦争論』の参考文献には、学術論文がない」…毎度毎度、よくこんなバカバカしい批判を思いつくなと、脱力するばかりだ。彼は作家の仕事というものを一切理解していないし、自らの学者としての程度や権威主義を無自覚に晒しているのだ。学者ってつまんねー奴ばかりだ!!
※「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…元交際相手から準強制性交容疑と軽犯罪法違反で刑事告訴されたことが報じられ雲隠れしている男、田畑毅・元自民党議員。酒に酔って記憶を失い、抗拒不能の状態になったところを同意なしの性行為、さらには日常的に性行為の様子や生活の様子、カバンの中身、携帯の画面などを盗撮していたという。「付き合っている二人の痴話喧嘩」などと言う者もいるが、準強姦に交際しているか否かなど関係ない!!
【今週の目次】
1. 特別寄稿・笹幸恵「山口敬之氏手記『私を訴えた伊藤詩織さんへ』を再読する」
2. ゴーマニズム宣言・第314回「参考文献に学術書がない?」
3. しゃべらせてクリ!・第262回「あつあつおでんで身も心もほかほかぶぁ~い!の巻〈後編〉」
4. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第116回「権力の都合ならなんでもあり? 自民党・田畑毅議員準強姦事件」
5. Q&Aコーナー
6. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
7. 編集後記
笹幸恵「山口敬之氏手記『私を訴えた伊藤詩織さんへ』を再読する」 いささか旧聞に属するが、2017年12月号の月刊「Hanada」で、フリージャーナリストの山口敬之氏の独占手記が掲載された。タイトルは「私を訴えた伊藤詩織さんへ」。
掲載された当時、一読して「なんだ、この被害者ヅラは!」と、ものすごい違和感を覚えた。何しろ本論に入る前にこう書いているのだ。
事実と異なる女性の主張によって私は名誉を著しく傷つけられ、また記者活動の中断を余儀なくされて、社会的経済的に大きなダメージを負った。
名誉? 記者活動の中断? 社会的経済的に大きなダメージ?
え。なに。被害者のつもりなの?
もう最初からこんな調子なので、少しも頷くところがない。レイプ被害に遭った女性は、名誉とか経済的ダメージなどとは次元が全く違う苦しみの中にいるんですけど?
この記事は、レイプ被害に遭った伊藤詩織さんが記者会見を開き、民事訴訟を起こすことを知ったため、「自らの見解を『当該女性への書簡』という形で申し述べる」として書かれた手記である。けれど最後まで気分の悪い違和感だけが残り、熱心にもう一度読み直すという気持ちにはなれなかった。
ところが今回、小林先生が山口氏から名誉棄損で訴えられた。私も詩織さんの『Black Box』を読み、さらには違和感ありまくりの山口氏の手記(以下、山口手記)を再び読み返すことになった。まったく不愉快だけど、こうなったらいろいろツッコミを入れながら読んでやろう。以下に記すのは、そんな私のツッコミの記録である。
詩織さんと山口氏は当然のことながら事実認識が異なる(性暴力の有無だけでなく、たとえば山口氏のTシャツの貸し借りの認識の相違やトイレの回数など)。今回は、その事実認識の真偽を明らかにすることが目的ではなく(そもそもそんなことはできない)、あくまでも山口手記の文章に対する私の見解を記していることを最初にお断りしておきたい。ただし、私は詩織さんが書いた『Black Box』の内容を全面的に信用している。彼女が顔と名前をさらして性暴力を告発した勇気こそ、信頼に足るものだと思うからだ。
山口手記を読んだことがない人もいると思うので、まずはこの記事について概観しておこう。
山口氏は、詩織さんの性暴力に対する訴えが、検察審査会の「不起訴処分は妥当」とする結論によって刑事事件としては完全に終結したこと、しかし詩織さんが民事訴訟に打って出たので、自分も主張の一部を示すとして、書簡風にそれを綴っている。その主張は、【1】「デートレイプドラッグ」、【2】「ブラックアウト」(アルコール性健忘)、【3】詩織氏特有の性質、【4】あとから作られた「魂の殺人」、【5】ワシントンでの仕事への強い執着、という5つの項目に分けられている。このうち【1】と【2】では、事件当日に飲食店2軒をハシゴしたこと、自分はデートレイプドラッグなど「聞いたことも見たこともない」こと、詩織さんはアルコールの影響で記憶を失うブラックアウトであったのではないかと主張している。その上で、酒に強く、この程度の酒量で記憶をなくしたことはないという詩織さんに対し、【3】詩織氏特有の性質がある、つまり思い込みが激しいのだと記す。また【4】では、「レイプは魂の殺人です」と訴えた詩織さんに対し、その怒りは最初から一貫していないことをあれこれと具体的な事例を挙げて説明している。続く【5】では、詩織さんが仕事を斡旋するよう執拗にメールを送ってきたと困惑気味に記し、挙句に野党議員がこの問題を取り上げ、自分が誹謗中傷にさらされていると被害者ヅラしている。
以上が、記事の概略である。
「なぜか」を多用するイヤらしさ
山口手記で最初に気になったのは、「なぜか~~した」という記述が4か所もあるということ。ほかに似たようなニュアンスで「不思議なことに~~になった」とも書いている。細かいことだけど、こうした言葉の使い方には、書いた本人の意識が透けて見える。
詩織さんの会見に先立ち、なぜか『週刊新潮』がセンセーショナルに報じ、なぜか複数の野党政治家が詩織さんの側に立って質問するようになった。そしてなぜか、こうした野党政治家の主張に共鳴する集団(共謀罪反対や反原発を唱える組織)が自分を糾弾するようになった。で、山口氏は言う。「これはまったくの偶然なのでしょうか?」
要するに、詩織さんがマスコミと結託し、野党政治家を巻き込み、ある特定の政治信条を持つ人々とつながり、私(と、私が支える安倍政権)を追い込もうとしているのではないか、と言いたいのである。こうした陰謀論めいた書き方は「Hanada」読者の大好物なのだろう。筆が滑ったのか、あるいはあえて書いたのか、「どういう思惑と連携があったかは知りませんが、複数の野党の国会議員や支援者があなたを支援し」云々と、陰謀が前提になっているかのような記述もある。
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