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第168号 2016.3.1発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」(号外)…最近では都心だけでなく、地方の観光地まで押し寄せている外国人観光客。特に、一切マナーを守らない中国人によって、観光地の雰囲気はすっかり壊されてしまっている。そこで『外国人観光客は目障りだ』と題したブログを書いたのだが、案の定たちまち「炎上」となり、「爆買い」を有難がり外国人観光客を歓迎するふりをしている偽善者たちから、ありとあらゆる罵詈雑言が寄せられた。傍若無人な客に過剰な「おもてなし」をすることが、果たして本当に観光地のためになるのか??
※特別寄稿!「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…飲食店を追い詰める困った客は、外国人観光客だけではなかった!!ドタキャン、すっぽかし、無茶な条件を押しつける等々の非常識な客が増加し、中には閉店に追い込まれる店もあるという。「お客様は神様」を勘違いした横暴な人間が増えた背景には、一体何があるのか?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!ホテルを利用して不便に感じたことはない?サヨクとリベラルって何が違うの?漢字が好きな娘から「『凸』って『男の子のオシリ』なんとちゃう!?」と聞かれました。父としてどう答えるべき?糖質制限ダイエットをどう思う?「円高」は日本経済にとって本当に悪なの?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. 特別寄稿!泉美木蘭のトンデモ見聞録・第1回「『バーチャル予約客』『お客様は神様だろ』…飲食店を追い詰める困った人達」
2. しゃべらせてクリ!・第128回「百発百中?茶魔台国の茶魔呼の亀甲占いぶぁ~い!の巻〈後編〉」
3. Q&Aコーナー
4. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
5. 読者から寄せられた感想・ご要望など
6. 編集後記




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泉美木蘭のトンデモ見聞録
第1回「『バーチャル予約客』『お客様は神様だろ』…飲食店を追い詰める困った人達」

「なんだよお前、俺は客だぞ? 無視するなよ!」
 夜7時30分。表通りはまだまだ人影まばら。音楽バーの開店当番だった私は、開店前の掃除中に強引に入って来て、テキーラのショット一杯で1時間近く居座っている下品な一見客にうんざり来ていた。

「なあ、初体験はいつ? 19か? ハタチぐらい? どんな体位だった?」
 初対面でいきなり延々とセクハラ質問を吐いて私の反応を眺めている男は、見たところ40代半ば。ドラマ『踊る大捜査線』の劇中で織田裕二が着ていたモスグリーンの“青島コート”を着込んでカウンターに肘をつき、背中を丸めて小さなショットグラスをちびちび舐めている。
「うちはそういう店じゃないんです」――いくら丁重に促しても聞く耳を持たない。いい加減頭に来ていた私は、対応するのをやめて露骨に無視、箒を持って店内を歩きまわり、その客のそばを執拗に掃いて『帰れコール』を発していた。

「姉さんはどんな体位が好きなんだ? 経験は何人? 3人? 5人? 50人か? 店終わったらどうしてる? なあ、今夜は俺の相手しろよ。3000円ぐらいならホテル代出してやるぞ。……おい、お前、相手しろよ。店員だろ? 俺は客だぞ? おい、聞けよ! お客様は神様だろうが!」
 ぶちり。
 完全にキレた。挑発してんのかもしれないが、どっちでもいい。箒を床に投げつけた。一歩前に出て、右手をブンと振りかぶり、私は男の股間をギュッと鷲掴んだ。
「あら。ずいぶん大したことない神様ね」
 本当に大したことなかった。男は、後ずさって店を飛び出していった。

◇ ◇ ◇

「ウハハハ! 掴んじゃったんだ。まあ、飲み屋は大変ですよねえ」
「今度から、あーいうのが来たらすぐに物差し渡して『何センチですか』って聞いてやろうと思って。まったく、びっくりするよーなとんでもない人、いますよね」
「ウン。全体的に『どこまで常識ないの?』っていう人は増えたように思いますね。うちも『外国人観光客お断り』にして少し落ち着いたんですけど、日本人もねえ……大概、困ったのがいますよ」

 新宿の片隅、カウンター8席だけの小料理店。50歳になったばかりの店主が、仕入れから仕込み、料理、接客までひとりでこなして7年目になる。
 昨年は、急増した外国人観光客の困ったふるまいに悩まされ、このままでは店が潰れてしまうというレベルに至り、『外国人観光客お断り』を宣言(※)。店の扉には、英語と中国語の張り紙が貼られている。
(※ブログ『張り紙「外国人観光客お断り」のいきさつ。』を参照のこと)

「うちも、新規のお客はどんどん入れようと思ってはいるんだけどね。
 たまたまネットの飲食店情報サイトの営業マンが来て『ネットを制する者が商売を制する時代ですから』ってしつこいもんだから、一度登録してみたんですよ。そうしたら、もう、そこから来るのが、困った人ばっかり……」

 ネットで飲食店を検索すると、店舗が運営するホームページのほか、『食べログ』『ぐるなび』『ホットペッパー』『一休.com』など、利用者の口コミ情報やネット予約の仕組みを提供する情報サイトが必ず出てくる。
 ほとんどは、片っ端から飲食店を無料登録して巨大な情報サイトを作り、営業マンを派遣して店主を口説き落とし、有料の予約システムや広告の出稿を申し込ませることで利益を出しているようだ。
 月額料金を支払うことで、同ジャンルの多店舗より出現率をアップさせ、集客につなげるというサービスもあるらしい。

 たしかに、客にとっては、便利なサイトでもある。