第147号 2015.9.8発行
「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)
【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…安保法制の議論が進む中で、「徴兵制」についても憲法解釈の変更によって可能となるのではないか?という議論が起きた。それに対して安倍政権や自称保守派は「徴兵制は憲法の『意に反する苦役』にあたるからあり得ない」「兵器がハイテク化した現代戦で徴兵制はありえない」と言っている。では、末端の自衛官である「任期制隊員(自衛官候補生)」の採用試験の実態はどうなっているのか?徴兵制は「苦役」なのか?安倍政権や自称保守派ら“極左”の意見ではなく、ルソーの「社会契約論」に従った“真っ当な真ん中の意見”に学べ!!
※「ザ・神様!」…怖ろしいまでの冷徹さと知略によって西の荒くれ者たちを討伐し、大和へと帰還したヤマトタケル。父である景行天皇から、より一層かわいがられる自分の姿を思い浮かべ、誇らしさと喜びを胸に、瞳をきらきらと輝かせながら西国征伐の模様を報告するが…!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!白髪を染めようとは思わない?山口組が分裂!日本の治安は悪くなる?白ご飯の次に好きな○○ご飯は何?娘からの際どい質問に母の私はどう答えるべき?塚本晋也監督の映画『野火』の感想を聞かせて!…等々、よしりんの回答や如何に!?
【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第143回「徴兵制は『苦役』ではない!」
2. しゃべらせてクリ!・第107回「へふふ~~~ん…至福の耳かきタイムぶぁ~い!の巻〈後編〉」
3. もくれんの「ザ・神様!」・第64回「ヤマトタケル物語・その5」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記
第143回「徴兵制は『苦役』ではない!」 朝日新聞(9月2日)のオピニオン特集「耕論」欄にわしのインタビュー記事が載った。
同欄のテーマは「誰かが兵士になる」。リードに書かれた趣旨は
「自衛隊の活動範囲が世界に広がる安保関連法案。安保を一線で担う自衛隊員の処遇や人材確保、そして政府が復活を否定する『徴兵制』について、様々な立場から論じてもらおう」
というもので、わしの他には元陸将・廣瀬誠、中京大学教授・大内裕和両氏の意見が載っている。
わしの記事は「国民の『自主防衛』が原則」という見出しで、「徴兵制は苦役ではない、国防は崇高な職務である」という「ど真ん中」の意見を述べている。
この意見については後で詳述するが、とにかくこれを朝日新聞が載せたのは凄いことだ。抗議がいっぱい来たのではないかと思うが、教養のある読者がいれば、むしろ賛成してくれるだろう。
のちに「AERA」の編集者に聞いたのだが、やはり反響が大きかったらしい。
朝日新聞の記者や読者には、もともとインテリが多い。確かにイデオロギーに凝り固まってしまった者もいるのだが、ポジショントークに堕さぬことさえ決意してくれれば、朝日新聞寄りのリベラル・インテリの方が期待できるかもしれない。
なにしろ読売・産経の自称保守には、もともとインテリがいない。無教養な上に「従米真理教」「安倍真理教」と化してしまっているのだから、全く期待のしようがないのだ。
ところで、同欄に載った元陸将・廣瀬誠氏の意見の中に、こんな発言があった。
「自衛隊が徴兵制を考えている」などと言われますが、現代戦の特徴から見て考えられません。総力戦の時代と異なり、兵器が近代化し、システムが高度化した今は、これらを使いこなせる訓練を積んだプロの兵士こそ必要です。
安倍首相や読売・産経系の従米保守が言う主張そのままで、この意見が朝日に載るのも異例だと思うが、とにかく様々な意見を聞くというのがこの欄の目的なのだろう。
以前なら、自衛隊の側が政府や自称保守論壇の主張に追従して言っているのかと思ったはずだが、どうやらそうでもないらしい。
何しろ、4月に安倍晋三が米国議会で安保法案を今夏までに成立させると約束するより以前、昨年12月の時点で自衛隊の河野統幕長が訪米し、米軍・国防総省の幹部と会談し、夏までに安保法制は成立すると確約していたのだ。
つまりとっくに文民統制は崩れていて、自衛隊トップが米軍の希望通りに軍事を動かし、政府はそれに追従していただけなのだ。
戦前は軍部の暴走を政府が追認するしかなかったのだが、現在も自衛隊の暴走を政府が追認しているだけ、というより、戦前よりもっと酷い。自衛隊にも、政府にも、まったく主体性がなくて、両者ともに米軍に従属するだけになっているのだから。
自衛隊が暴走して米軍に従い、政府が喜んで自衛隊の暴走を追認するという、恐るべき属国状態になっているのである!
こんな状態なので、「兵器がハイテク化した現代戦で徴兵制はありえない」というよく聞く主張も、もしかしたら自衛隊が先に言い出し、政府や自称保守が追従しているのかもしれない。
しかし、本当に現代戦では「高度化したシステム」を使いこなせる専門職だけが必要で、今や第二次世界大戦のような、あるいはベトナム戦争のような、末端の歩兵などは必要ないのだろうか?
だとしたら、もう自衛官を広く募集・勧誘することに意味はない。
ハイテク兵器を使いこなせない、偏差値の低い者を集めたって意味がなく、人材を確保するには、優秀な人物をヘッドハンティングするしかないはずだ。
ところが、今でも防衛省・自衛隊は「自衛官募集ホームページ」を作って盛んに募集をかけている。しかもそのページのトップに「リクルート隊長」として出ているのは「壇蜜」だ! さらに地方では、「萌えキャラ」を使って広報しているところも数多い。
現実に自衛隊は、壇蜜や萌えキャラに釣られて応募して来るような人材でも欲しがっているではないか!
では自衛官になるには、最低どの程度の学力が必要なのか?
本当にハイテク兵器を使いこなせる高学歴の者しか採用しないのか?
末端の自衛官である「任期制隊員(自衛官候補生)」の採用試験について調べてみた。
コメント
コメントを書く(ID:5818508)
>>236
>>もし抽選で落ちたら、どーしよー(ToT)
それはないでしょうw
ブログの「憲法9条は「戦争条項」になるのか?」で、
>>今回の安保法案を9条擁護派は「戦争法案」と言ってた
のだから、成立後は9条が「戦争条項」になってしまう
はずだ。
のところがちょっと難しいです。
道場が始まるまでに理解したいなと思います。
(ID:30637823)
女性の徴兵制について、僕は最初、合理的には反論できないから、賛成せざるをえないかなと思っていました。でも、カレー千衛兵さんの「疚しさ」発言で段々と目が醒めました。さらに、女性の防衛大臣が誕生した際、よしりん先生はそれを批判していたことも思い出しました。
兵には当然、士気が必要です。だから、「疚しさ」があってはならないのです。しかし、一方で女性を兵隊にすることに「疚しさ」の無い男の士気は信用できません。
女性が徴兵されるということは、男の目の前で女性がバタバタ殺されたり、レイプされたりするということ。男はそれに耐えられるのか?
だったらもう、女性の徴兵になんて意味が無い、僕は今、そう考えています。
(ID:14255373)
もう既に次号が配信されているのですが…、
徴兵制のことについてもう少し書きます。
確かにわたしは徴兵制についてはやむを得ないと書きました。
召集のときに果たしてすぐに応じられるだろうか?という疑問があります。
わたしは42歳で、老齢の父母がいます。その父母が天寿を全うして喪が明けてから兵役に就いてからでは遅いでしょうか?
そして兵役に従事したとして、どこに行かされるのでしょうか?希望したところへは行けるだろうか?
戦場か?被災地か?
行って何ができるか?第三者の目は?
陰口をたたかれても忍従できるか?
不慮の死を遂げても名誉は讃えられるか?
そう言ったことを考えない限り、いくら徴兵制が当然だと言っても、わたし個人としては素直に納得いかない部分があります。
皆さん、今号の「ザ・神様!」で、景行天皇の心の声がべべクソ色(ウンコ色)で表現されていたことにお気づきでしたでしょうか?
「(オウス……なんという奴だ。(中略)オウスが相手では、防ぐ手立てがない)」の部分です。
読者の中には、天皇の大御心をババ色で表すなんて何と不敬な!と感じられた人もいるかも知れません。
でもよく考えてください。
景行天皇のこのお言葉は、実は現代日本の抱えた問題を見事に言い表しているのです。
そこに踏み込む前に、わたしは「ヤマトタケル物語・その5」でヤマトタケルが叔母のヤマトヒメに語ったある言葉の部分が気になったので、図書館で調べました。
それは、ヤマトタケルが「父上は、ぼくに早く死んでほしいと思っておられるんだ……。」と語る一節です。
その中の、「早く」という部分です。
実は、「古事記」の原本では、ここの原文は、「既」という字が入っていて、この「既」の意味が「早く」という意味なのか、「まったく」という意味なのか、学者の中でも意見が割れているのです。
「早く」になれば、「父上はわたしが早く死ねばいい」という意味になって、「まったく」になれば、「父上は、まったく、わたしに死ねとおっしゃる」という意味合いになります。
「皆既日食」という言葉があるように、「既」には「まったく・完全な・ことごとく」という意味があり、そうなるとヤマトタケルのセリフは「父上は、まったく、わたしに死ねとおっしゃる」つまり、景行天皇は「おまえ
(ヤマトタケル)なんか死んでわしの記憶から消えてしまえ」という意味合いで東国に遣わした、ということになります。
結局もくれんさんは、多くのヤマトタケル伝記が採用している「早く」説を採用しましたが…。
「一刻も早く死んでほしい」と「(忌まわしいお前は)死んでわしの記憶から消えてほしい」とではニュアンスが微妙に異なります。この微妙なニュアンスの差異は、実は、沖縄の問題や、自衛隊に対する私たちの考え方の微妙なズレにつながるのではないでしょうか?とわたしは考えるのです。
たとえば、沖縄は、「新戦争論1」第16章で描かれていたように沖縄を本土防衛の基地にしようとした(そのために本土防衛のために住民が虐げられた)ことと、戦後(本土の)日本人が潜在的にその忌まわしさから逃れたいと考えていること、この2つの真実が混在しています。
また、自衛隊は、憲法で保障されていない(そのために軍隊として扱ってもらえない)ことと、国民が自衛隊を一刻も早く米軍と一体化させようとする政府の意見に賛成していること、これも2つの真実が混在しています。
つまり、わたしたち日本人のしょーもない、だらしないのは、いやなことは他人に押し付けるくせに、その嫌なことをしている他人の存在を見ようともしない、目を瞑っているということではないだろうか。
改めて景行天皇のお言葉をよく噛みしめてみますと、そこには、現代の日本人の本音がものの見事に言い表されているように思いました。