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第471号 2023.6.6発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…前回は「人口削減計画」を「最近の陰謀論のトレンド」と書いたが、もう少し調べてみたら、これはトレンドというよりも古典的な大定番で、ずっと前から陰謀論者が繰り返し言い続けてきたものだということがわかった。そして、その起源は『宇宙戦争』『透明人間』『タイム・マシン』などの作品で「SFの父」といわれるイギリスの作家、H.G.ウェルズ(1866-1946)にさかのぼるらしい。さらにそこから「新世界秩序陰謀論」というものが発生した。それは、資本家や官僚などの一部エリートが、統一された世界「ワン・ワールド」を作って全体主義的な世界支配をすることを目指し、陰謀を展開しているというものだった。実はこれこそが現在流通している、ありとあらゆる陰謀論の中核を成しているものなのである。世の中で起こる大抵の出来事を、ひとつのストーリーの中に回収してしまう“陰謀論者”たちの思考回路とは一体どうなっているのだろうか?
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…陰謀論にはまり込み、常識的な思考を失って、証拠もなければ検証もできない憶測をつなぎ合わせて「黒幕からの指示があったとしか思えない」「何らかの意図があったとしか考えられない」と結論づけていく陰謀論感染者たち。特にSNSの世界では、玉石混交のネットの情報に免疫がないまま、荒唐無稽な陰謀論に衝撃を受けてしまい、「ネットにしかない真実」を興奮気味に拡散する人々が次々と現れて、インボーデミックを巻き起こしている。前回は陰謀「ビル・ゲイツ株」について分析したが、陰謀論者曰く、そのビル・ゲイツも些末な登場人物にすぎず、背後にはもっと大きな悪が存在するらしい!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…G7を広島でやったことで日本の核武装は益々遠のいてしまったのでは?ジャニーズの性加害問題についてどう思う?5類になってもなおコロナを恐れる人々には何をどう言えばいい?まともな野党は出て来ない?岸田総理の息子の問題と辞職、そしてそれを報道するマスコミについてどう見ている?無人販売店の窃盗事件が相次いでいるけど、そんな「性善説」で成り立つ商売は不可能なのでは?「週刊少年ジャンプ」等で連載していた時は「ライバルを潰そう、蹴落とそう」等と考えていた?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第500回「〈ビル・ゲイツの人口削減計画〉の正体」
2. しゃべらせてクリ!・第427回「こりは夢か幻でしゅか? 美人女湯に闖入ぶぁい!の巻【後編】」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第294回「インボーデミック! 陰謀論検証『ペンタゴンがすべて仕組んだ』?」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第500回「〈ビル・ゲイツの人口削減計画〉の正体」

 6月11日午後2時から、在宅緩和ケア専門医・萬田緑平氏を迎え、オドレら正気か?LIVE『コロナと陰謀論』を開催、生放送でも配信する。

 

 ゲストにはもうひとり、大阪市立大学名誉教授・井上正康氏を予定していたが、キャンセルした。これまでの公論イベントで、一度依頼したゲストをこちらからキャンセルした前例はないはずだが、もう仕方がない。

 井上正康氏には、わしは『コロナ論』シリーズを描く際、新型コロナウイルスやワクチンに関して非常に多くを学び、『コロナ論3』で対談して以降、漫画の中にも何度も登場させている。
 それだけに、最近の井上氏がすっかり「陰謀論」に嵌ってしまったことは、『コロナ論』シリーズの信用にかかわる大問題である。
 全5巻の『コロナ論』のうち4巻までは既に文庫化されたが、最終5巻の文庫は、とっくに巻末の「解説」も入稿してもらったのに、未だ出版されていない。この「陰謀論」の問題を総括しないまま、出すわけにはいかなくなったからである。
 5巻の解説は、新聞の「意見広告」で子供へのワクチン接種の再考を訴える運動を展開した「たけし社長」に頼んだが、その意見広告も井上氏の学識を基に作成していたわけだから、なおのこと陰謀論には文庫版『コロナ論5』でカタをつけなければならないのだ。

 たけし社長と共に意見広告運動に尽力した「世界のゴー宣ファンサイト」のカレーせんべい氏も怒り心頭の様子で、井上氏がメルマガやネット生放送などで主張する陰謀論をその都度収集して、同サイトで晒している。
 いちいち井上氏のネット上の発言までチェックする余裕のないわしには非常に有難いのだが、それにしても井上氏は、驚き呆れることばかり言っている。
 曰く、「『人口削減計画』が予定通りの手順で進められており、日本がその最初のターゲットとなる可能性がある」(メルマガ・5月20日)
 曰く、「ディープステートの人たちが、日本人をモルモットにしていろんなことをやっている」(ネット動画・5月27日。発言自体は対談相手の原口一博衆院議員のものだが、井上氏も完全に同意している)
 曰く、「ビル・ゲイツがリンゴなどの表面にワックスを塗って、それを食べた幼児が死んだ疑いがある」(ネット生放送・5月26日)
 まだまだあるが、以下は略しておく。

 前回の「陰謀論というSNS劣化現象」でも書いたが、
 https://ch.nicovideo.jp/yoshirin/blomaga/ar2151345
 こんなものは「常識的な思考」ができている人ならば、いちいち事の真偽を確かめるまでもなく、聞いた瞬間に「ありえない!」と一蹴するはずだ。
 もしこれが本当だというのなら、「ビル・ゲイツを殺人罪で逮捕しろ」と主張したらどうだ? 間違いなく頭がおかしいと思われるから。
「ディープステート」って何だ? そんな、仮面ライダーの敵「ショッカー」みたいな闇の組織なんかあるのか? どこにいる、誰のことだ?
「人口削減計画」だって!? そんなもんなくても、日本の人口はどんどん減少していて、少子化対策をしているほどじゃないか。知らないのか?
 もしも日本の少子化までが陰謀の結果だというのなら、なぜインドではその人口削減計画とやらが行われていないのか!?
 最近の陰謀論では、人口削減計画でも何でもかんでもビル・ゲイツが企んだことになっていて、井上氏も完全にそのパターンどおりの発言を繰り返しているが、なぜビル・ゲイツがそんなことを言わなければならない? 人口が増えた方が、マイクロソフトの製品が売れていいはずじゃないか?

 前回は「人口削減計画」を「最近の陰謀論のトレンド」と書いたが、もう少し調べてみたら、これはトレンドというよりも古典的な大定番で、ずっと前から陰謀論者が繰り返し言い続けてきたものだということがわかった。
 そして、その起源は『宇宙戦争』『透明人間』『タイム・マシン』などの作品で「SFの父」といわれるイギリスの作家、H.G.ウェルズ(1866-1946)にさかのぼるらしい。
 ウェルズは1900年以降、上記のような科学ロマン的な空想小説に代わって文明批評的な小説を書くようになり、社会主義に傾倒。社会改良運動家としても精力的に活動した。
 ウェルズは1905年の小説『モダン・ユートピア』で、「世界国家」が完成して戦争が根絶され、何よりも個人の自由が重視されている社会を描いた。
 またウェルズは、議論を好まないダーウィンの代わりに進化論論争の最前線で戦って「ダーウィンの番犬」と呼ばれた生物学者、T.H.ハクスリーを尊敬して生物学・進化論を学び、優生主義者になっていた。
 もともとユートピア思想と優生思想は非常に親和性が高い。例えばユートピアを、健康で美しい人々が理性的に暮らしている「理想的」な社会とイメージすれば、それは逆に言えば、ある基準に満たない人々が暗黙のうちに排除されている社会であることを意味するわけで、そこには優生思想が一体となって入り込んでいるのである。