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第37号 2013.5.14発行


「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、AKB48ブームから現代社会を掘り下げる(本当は新参ヲタの応援記!?)「今週のAKB48」、よしりんの愛用品を紹介していく「今週の一品」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、珍妙な商品が盛り沢山(!?)の『おぼっちゃまくん』キャラクターグッズを紹介する「茶魔ちゃま秘宝館」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)


【今週のお知らせ】
※安倍政権は、慰安婦に対する謝罪を表明した河野談話や、日本の「侵略」を謝罪した村山談話を見直し、新談話を出すのではなかったのか?今週の「ゴーマニズム宣言」は、歴史認識問題において日本に残されたわずかな方法を提示!果たして安倍政権に「戦後レジームからの脱却」は可能か!?
※「今週のAKB48」は、この「小林よしのりライジング」の有料会員に向けてしか書けない、ちょっと過激で厳しい内容に…!今のAKB48が抱える重大な危険性を指摘!これからはやっぱり「UGN(ウラギラナイ)48」の時代だ!?
※あの大人気作にして、小林よしのりの代表作の一つ『おぼっちゃまくん』は、なぜ突然終わったのか?コロコロ編集部との間の軋轢?『ゴー宣』が忙しくなったから?今週の「よしりん漫画宝庫」にて、初めて真相が明かされる!


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第39回「安倍晋三は『東京裁判はリンチだ』と主張できるのか?」
2. 今週のAKB48・第30回「イメージ崩壊の恐ろしさ」
3. 茶魔ちゃま秘宝館・#009「おぼっちゃまくんDVD-BOX こんばんワインBOX」
4. よしりん漫画宝庫・第37回「『おぼっちゃまくん』はなぜ終わったのか?」
5. Q&Aコーナー
6. 今週のよしりん・第37回「よしりんの現実逃避」
7. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
8. 読者から寄せられた感想・ご要望など
9. 編集後記




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第39回「安倍晋三は『東京裁判はリンチだ』と主張できるのか?」

 韓国朴槿惠大統領は5月8日、米国上下両院合同会議で演説を行い、歴史認識に関して、名指しはしなかったが明らかに日本を念頭に置いて「過去を誠実に認めなければ明日はない」と非難した。
 ネトウヨや自称保守論壇はもちろんこれに憤慨し、批判を強めている。

 米議会調査局は、安倍首相の歴史認識を「帝国主義日本の侵略やアジアの犠牲を否定する歴史修正主義にくみしている」とする公式報告書を提出、米有力紙にも安倍首相の歴史認識を批判する社説が相次いでいる。
 ネトウヨや自称保守論壇は、なぜかこれには見て見ぬふりをしている。アメリカには逆らえない「親米ポチ」、へタレの腰抜けだからだ。

 彼らは、日米韓の関係がどうなっているのかという現実を一切見ようとしない。
 安倍首相は訪米してもオバマ大統領との共同記者会見さえさせてもらえず、散々な冷遇だったのに対し、朴大統領は米国議会で演説という、破格の厚遇を受けている。
 米国政府や議会に対するロビー活動で日本は韓国に負けまくっており、すでに米国と韓国が結託して日本を敵視しているのだ。
 しかしネトウヨ・自称保守はその事実を直視できない、したくないのである!

 先日テレビで、米国議員への韓国のロビー活動について放送していたが、ロビイストが「慰安婦問題」について説明したら、米国議員のほうが「慰安婦(comfort women)」という言葉は嫌いだ、あれは「性奴隷(sex slaves)」だと言っていた。
 米国議員がリップサービスでそう言うほど国際的には「性奴隷」という認識が定着し、「慰安婦」という言葉も許されない状態になってしまっているのだ。
 もちろんそんな状況を招いたのは、第一次政権時代の安倍晋三だということは、改めて強調しておく。

 案の定、今回も安倍はあっさり折れ、5月8日の参院予算委では「我々は、日本が多大な被害を引き起こし、アジアの人々を苦しめたとの、過去の内閣と同じ認識を共有しております」と、完全に村山談話のラインまで後退してしまった。
 同時に安倍は「侵略の定義は、いわゆる学問的なフィールド(分野)で多様な議論があり、決まったものはない」とも発言した。
 ところがこれすら米国から「懸念」を示され、岸田外相が改めて「安倍内閣としては歴代内閣の立場を引き継ぐ」と表明する破目になった。

 「侵略の定義はない」ということ自体は、「学問的なフィールド」では正しい。
 「慰安婦の強制連行はなかった」も「学問的なフィールド」では正しい。
 しかし学問的な正当性を争えるのは、日本国内における議論だけである。
 これが「国際政治のフィールド」に出されると、問答無用で「日本は侵略をした!」「慰安婦は性奴隷!」とされてしまうのである。

 「国際政治のフィールド」では、「学問的なフィールド」とは全く違う戦い方をしなければならないのに、日本の自称保守は全然それが分かっていない。
 安倍晋三に至っては政治家のくせに、「国際政治のフィールド」で「学問的なフィールド」の戦い方が通用すると思っている。

 以前「ライジングVol.17」で指摘したが、米国で慰安婦が「性奴隷」として定着してしまう際、安倍のブッシュへの謝罪に加えて決定的な役割を果たしたのが、日本の自称保守知識人たちがワシントン・ポストに載せた「強制連行はなかった」の一面意見広告である。
 これも、「強制連行の有無」の論争が行われていたのは日本国内の論壇だけで、国際政治上では全然違う戦いが行われていることに気づかなかったために起きたのだ。
 自称保守派はこの致命的なミスを未だに自覚せず、国内でしか通用しない議論が国際政治の場でも通じると今でも思い込んでいる。

 これを東郷和彦氏は「ガラパゴス化」と表現したのだが、ガラパゴス化とは本来、独自の環境で独自の「進化」を遂げることであり、ガラパゴス諸島の美しいイメージ共々、自称保守派の愚かさの形容にはやはりふさわしくない。
 自称保守派は単に「井の中の蛙」の「内弁慶」であり、「進化」も何もあったものではない。
 あえてイメージするならば「下水道の白いワニ」だろう。ペットの仔ワニが下水道に捨てられ、一切日に当たらないためまっ白になりながら、暖かく栄養豊富な下水の中で巨大に成長しているという都市伝説だ。
 外界に出たらたちまち死んでしまうような存在でありながら、引きこもった世界の中だけで吠えまくり、ウヨウヨ徘徊している白いワニの群れ! それこそがネトウヨや自称保守派のイメージにふさわしい。


 断言するが、安倍晋三に「戦後レジームからの脱却」は絶対できない。
 「戦後レジームからの脱却」とは、すなわち米国を始めとする第二次大戦の戦勝国との対決であり、それは「親米」の政治家には無理に決まっているからである。

 戦後レジームの原点は「日本は敗戦国」「日本は侵略国」「日本は悪の枢軸国」という認識である。
 東京裁判が作り上げた「中国・韓国は、悪の日本帝国主義による犠牲者であり、これを正義のアメリカが打倒した」というストーリーを覆さない限り、戦後レジームは変えられないのだ。