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第36号 2013.5.7発行


「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、AKB48ブームから現代社会を掘り下げる(本当は新参ヲタの応援記!?)「今週のAKB48」、よしりんの愛用品を紹介していく「今週の一品」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、珍妙な商品が盛り沢山(!?)の『おぼっちゃまくん』キャラクターグッズを紹介する「茶魔ちゃま秘宝館」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)



【今週のお知らせ】
※「国民栄誉賞」までプロパガンダに利用する安倍政権。今週の「ゴーマニズム宣言」は自民党の憲法改正草案に踏み込む!"改憲派”の小林よしのりが、自民党の憲法改正を危険視するのはなぜか!?
※作家・泉美木蘭の「ザ・神様!」高天原より永久追放となった“世界最古のニート”デストロイヤー・スサノオが、遂に英雄となる時がやってきた!スサノオノミコトに訪れた「人生のターニングポイント」!
※今週号では、かなり危険な話題にまで踏み込んだ「Q&Aコーナー」!AKB48から右翼の問題まで…!大丈夫か!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第38回「自民党の憲法改正案の恐ろしさ」
2. 茶魔ちゃま秘宝館・#008「高尾・陣馬スタンプハイク パンフ&カンバッジ」
3. もくれんの「ザ・神様!」・第8回「恋はターニングポイント ~スサノオ英雄物語のはじまり」
4. よしりん漫画宝庫・第36回「『若造(じゃくぞう)』②日本を震撼させる男の未完の物語」
5. Q&Aコーナー
6. 今週のよしりん・第36回「AKBヲタとブログを巡る物語」
7. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
8. 読者から寄せられた感想・ご要望など
9. 編集後記




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第38回「自民党の憲法改正案の恐ろしさ」

 憲法記念日前日の5月2日、テレビ朝日「モーニングバード!」の「そもそも総研たまペディア」というコーナーにVTR出演した。
 「そもそも改憲派なのにいまのままの改憲には『ちょっと待った!』な人々」
というテーマで、テレ朝の玉川徹氏の取材を受けたのである。

 番組では「96条」と「21条」についてのコメントが放映された。どちらも特に重要な論点である。
 「96条」は「ライジング」号外でも詳述したように、憲法改正のルールの規定であり、番組でもわしはその改正案の危険性を話した。

 自民党や自称保守派は「日本は憲法改正ルールのハードルが高すぎる」というが、これは嘘である。
 アメリカは上院・下院それぞれの3分の2以上の議員の賛成に加え、全米50州のうち4分の3以上の州議会の承認が必要である。これまで何度も行われた改正は、「原理」と「準則」のうちの「準則」の方であり、それでもこの改憲手続きを経て行われている。
 世界的に見ても、日本の憲法改正ルールは標準的な「硬性憲法」の一つに過ぎない。

 だが自民党はすでに国民投票のハードルを「全有権者」ではなく「有効投票」の過半数と、下げるだけ下げている。
 この上、さらに国会議員の発議要件を3分の2から2分の1にまで下げると、政権が変わるごとに改憲することも可能となってしまい、それは立憲主義の崩壊につながるのである。
 最悪の場合は天皇条項に手をつけられることも考慮しておかねばならない。

 スタジオではこれに補足して改憲派の憲法学者、小林節慶応大教授のコメントが紹介された。立憲主義とは憲法によって「国民が権力者を縛る」という近代国家の原則であり、改正ルールの緩和を権力者側が言い出すのは、憲法の本質を無視した暴挙だというのだ。
 権力者が「俺たちは憲法に縛られたくない」と言い出すのは、要するに、スポーツ選手が「なかなか勝てないから、ルールに縛られたくない。ルールを変えようぜ」と言い出してるようなものなのだ。

 こんな事態は国民の側が相当警戒しなければならないはずだが、まだまだ国民は事態の恐ろしさに何も気づいていない。マスコミも呑気に構えている。
 実は自民党の政治家も、マスコミも、国民も、誰も憲法のことなんか知らないのである。国民の無知が権力の暴走を招き、自らファシズムを作り上げるのだが、「アベノミクシュだぜ―――!」としか言ってないのだから、もうどうしようもない。


 一方、番組は自民党にも取材をしている。取材を受けたのは、自民党憲法改正推進本部・本部長代行の船田元(はじめ)衆院議員である。

 玉川氏は船田議員に、議員の過半数では通常の法律と改正手続きが変わらず、最高法規たる憲法とはいえないのではないかと質した。すると船田議員は、自分も一時はそういう懸念を持っていたが「よく考えてみると」違うと言う。だが、その理由は呆れたものだった。
 通常の法律の改正は「出席議員あるいは投票した議員」の2分の1以上だが、自民党の憲法改正案では「衆参両方のすべての議員のそれぞれ」2分の1以上だから、「ハードルは法律よりもちょっと上ですね」と言うのである!!

 「通常の法律よりちょっと上」程度の改正手続きでいいと本当に思っているのなら、船田議員は「硬性憲法」というものをまったく理解していないということになる。
 しかも、憲法改正という重要案件には間違いなく「党議拘束」がかかり、棄権はできず、ほぼ全議員が投票するはずだから、「投票した議員」か「全議員」かの違いなど、ほとんど意味がない!

 適当な誤魔化しを言うものだと呆れるが、船田議員はさらにこう言った。

それと国民投票で有効投票の2分の1以上というのが加わりますので、やっぱり一般の法律改正のハードルよりは、かなり高いと思っております

 国民投票のハードルを「有効投票」の2分の1に下げるということは、投票率40%だった場合は、わずか20%の賛成で憲法が改正される。政権が替わるたびに憲法が改正されて、そもそも立憲主義が崩壊してしまうではないか!


 もう一点わしが懸念を表明した「21条」は、「集会、結社、言論、出版その他一切の表現の自由」を保障するものだが、自民党改正草案ではこの条文の後に「前項の規定にかかわらず公益及び公の秩序を害することを目的としたものは認められない」という規制条項を付け加えている。

 つまり、「公益および公の秩序」を害すると国家権力が認定すれば、表現の自由が制限される危険性が考えられるのだ!

 わしは「表現の自由」が保障されているからこそ、政府批判も辛辣にやれる。アメリカなら個人に武装する権利が認められているから、いざとなれば個人が銃をとって国家権力に戦いを挑むこともできるが、日本においては言論こそが武器である。
 これは『ゴーマニズム宣言』に限った話ではない。国民全体にとっても同じであり、デモという「表現の自由」、マスコミの「表現の自由」、その他の創作活動における「表現の自由」は民主主義の基礎である。

 権力が「表現の自由」を規制し始めたときは、よほど警戒しなければ、戦前の日本の検閲や、中国や、北朝鮮のような国になってしまいかねない。
 こんなことは民主主義国家の常識のはずで、この危機感は、玉川氏やスタジオのコメンテーターにもよく伝わったようだ。


 玉川氏は船田議員に、「個」と「公」のバランスについてどう思うかと質問し、船田議員はこう回答した。

社会の利益と個人の利益がぶつかった場合、どうすればいいのか、こういったことについて、やはりきちんと憲法が方向を示す必要があるんじゃないか。
 例えば道路を通す時に自分の土地を通る、その時にお金とかいろんな問題があって立ち退きをなかなかしない、そのために道路が通らなくて、多くの人々が、それが通ったならばすごく利益があるのにできない、そういう状態があちこちで起こっている

 そこで玉川氏が重ねて質問する。

個人の権利があまりにも尊重されすぎて、公の秩序が後ろに下がることによって、国民生活がものすごく大きな害を受けているというようなお考えを自民党の方々はお持ちだということですか?

 すると、船田議員の答えは驚くべきものだった。

いや、そういうことではないと思いますけれども、行政の部分で執行する問題、道路の問題もあります。いろんな問題があります。やっぱり公の秩序というものがなかなか通りにくい、行政を執行している人々が非常に苦労をしている、そういう場面を私たちはいくつも見ております。
 ですからそういう状況を少しでも改善するために、やっぱりひとつの憲法の中での歯止めというんでしょうか、要素を入れさせていただくことによって、今申し上げたような行政の実行する部分において、よりやりやすくすることも大事ではないか

 この発言を聞いたコメンテーターの松尾貴史氏のコメントが実によかった。