第332号 2019.10.8発行
「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)
【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…立憲民主党という政党ができ、「立憲主義」という言葉だけは一般にも知られるようになってきたが、それはどういう意味か、それ以前にそもそも「憲法」とは何なのかということを理解している人は全然いない。れいわ新選組代表・山本太郎は「『立憲主義に基づいた政治を』との主張は大切だが、それどころじゃない」と発言した。国民の大多数も山本太郎と同様に、憲法なんか後回しでいい、今は目の前の暮らしの方が大事だとしか思っていないのだ!日々の暮らしと「立憲主義」は分離した問題なのか?日本人は何故これほどまでに「立憲主義」を理解できないのだろうか?
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…新聞の読者投書欄は、いろんな年代、立場、職業の人々の意見や、プチ日記、喜怒哀楽、ときにただの愚痴などが一度に読めて、けっこう面白い読み物だ。最近、私の“変な人サーチアンテナ”に引っかかったのは、53歳の英語講師の男性による『尊敬される人 目指そう』という投書である。別の日に掲載されていた14歳の女子中学生による、大人たちへの不信感をぶつけた投書『手本となるオトナいる?』へのアンサーらしい。“尊敬される人”になりたいオトナの本心とは何なのか?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!離婚後の親権問題をどう考える?二酸化炭素犯人説もそろそろ終わる?髪型にはこだわりある?地味に失恋してしまった…潔く諦める術を教えてください!今話題になっている「eスポーツ」をどう思う?深夜まで残業して休日出勤も普通、それでもつらいと思ったことはない…こんな自分の働き方は古い?…等々、よしりんの回答や如何に!?
【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第344回「立憲主義どころじゃないって無茶苦茶」
2. しゃべらせてクリ!・第289回「へごわーっしゅ! 殺人ドッジボールに絶体絶命ぶぁい!の巻【前編】」
3. 泉美木蘭の「トンデモ見聞録」・第142回「“尊敬される人”になりたいオトナの心理」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記
第344回「立憲主義どころじゃないって無茶苦茶」 立憲民主党という政党ができ、立憲主義、立憲主義と何度となく繰り返してきたため、「立憲主義」という言葉だけは一般にも知られるようになってきた。
ところが、「立憲主義」とはどういう意味か、それ以前にそもそも「憲法」とは何なのかということを理解している人が全然いないのだから、全く途方に暮れてしまう。
れいわ新選組代表・山本太郎は、東京新聞9月22日付のインタビューでこう発言した。
「『立憲主義に基づいた政治を』との主張は大切だが、それどころじゃない。厳しい生活を少しでも楽にする政策は何なのか、具体的に話さなければいけない」
「憲法二五条が定める『健康で文化的な最低限度の生活』ができている人がどれだけいるのか。現行憲法を守らずに憲法を変えようという人たちは信用できない」
これを読んでわしは即座にブログに「山本太郎、終了!」と書いた。
先の参院選では、わしは山本太郎に投票した。そのこと自体は、重度身障者を2名も国会に送り込み、一気に国会をバリアフリー化してしまうという快挙につながったから良かったと今でも思っている。
だが、憲法について、立憲主義について、ここまで完全なる無知であることがわかってしまっては、もうこの先は支持できない。
憲法とは、国民が権力を縛る命令書である。
そして、権力は憲法に書いてあることを守らなければならないというのが、立憲主義である。
憲法25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書いてあるのだから、権力はこれを守り、国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しなければならない。これが立憲主義というものだ。
山本太郎は、憲法25条が守られていない、すなわち立憲主義が守られていないと憤慨しておきながら、その一方で「いまは立憲主義どころじゃない」などという暴言を吐くのだから、もうシッチャカメッチャカである。脳みそがひん曲がっているとしか思えない。
「立憲主義どころじゃない」というのは、「権力は憲法の縛りに従っている場合じゃない」という意味である。つまりは事実上「権力は憲法を守らなくていい」と言っているわけで、山本太郎は「権力の暴走を容認する」と表明していることになるのだ。
そして、まさに安倍政権も「立憲主義どころじゃない」と思っているから、憲法を守らないのだ。憲法25条だけでなく、憲法53条に規定された臨時国会召集を無視したケースもそうだし、あいちトリエンナーレの補助金不交付も憲法21条に書かれている「表現の自由」の保障に違反している疑いが濃い。
政権がそんな状態だからこそ「立憲主義を守れ!」と言わなければならないのに、「立憲主義どころじゃない」なんて言ったら、もうおしまいである。政権にしてみたら、「山本太郎さん、ありがとう! お言葉に甘えて、憲法は守りません!」ってなもんだろう。
しかし、山本太郎の発言がとてつもなくヘンだということに気づいた人は、果たしてどれだけいただろうか?
政治家でさえレベルが著しく低下していて、立憲主義とは何かを正確に理解している人の方が少数派だろう。
ましてや国民は立憲主義なんか一切理解しておらず、山本太郎の発言に違和感も持たずにスルーした者の方が大多数なのではないか?
日本では、誰も「憲法」も「立憲主義」もわかっていないのだ。
安倍首相は4日の臨時国会の所信表明演説の最後に「令和の時代の新しい国創り」について触れ、「その道しるべは、憲法です」と述べ、憲法改正への意欲を見せた。
安倍晋三は、憲法を「権力を縛る命令書」ではなく「国創りの道しるべ」だと思っている。安倍も立憲主義を一切理解していないのだ。
もっとも安倍は以前も国会で、「憲法は国家権力を縛るもの」というのは「かつて王権が絶対権力を持っていた時代の考え方」であり、今の憲法は「日本という国の形、そして理想と未来を語るもの」だなどと、八木秀次あたりから吹き込まれたのであろうトンデモ憲法論を堂々と答弁していたくらいだから、今さら驚かない。
ともかく安倍は参院で「改憲勢力」3分の2を割った今国会においても、憲法改正に意欲を見せている。それ自体は良い。わしは憲法改正の意欲を持ち続けていることは好意的に評価する。
ところが共同通信の世論調査では、「内閣が優先して取り組むべき課題」(2つまで回答)のトップは「年金・医療・介護」(47.0%)で、次が「景気や雇用など経済政策」(35.0%)。「憲法改正」はわずか5.9%で、8番目だった。
つまり、国民の大多数も山本太郎と同様に、憲法なんか後回しでいい、今は目の前の暮らしの方が大事だとしか思っていないわけで、立憲主義もへったくれもありゃしないのである。
コメント
コメントを書く(ID:88182328)
今号のゴー宣『立憲主義どころじゃないって無茶苦茶』を読みました。私たち日本人は、恵まれ過ぎていたのでしょうね。でも、ご先祖様の残してくれた遺産も、もう底を尽き掛けています。もうカラッポなのかも。
今までは、それでも権力者が些かの矜恃はかろうじて持ち合わせてくれていて、僅かばかりでも遺産を継ぎ足してくれていたんだと思いますが、遂に遺産をただ食いつぶすだけの権力者が現れた。
「立憲主義どころじゃない」どころか、今こそ立憲主義なのだと、改めて、気付かせて頂きました。
(ID:88182328)
木蘭先生のトンデモ見聞録『“尊敬される人”になりたいオトナの心理』読みました。
木蘭先生の鋭いツッコミが面白く、53歳男性英語講師の胡散臭さが次々と明るみに出て行くのは、痛快でした。
「達観しました」を2回書いたところ、サイコーでした♪
物を書くプロの凄さをまざまざと見せつけられた思いがしています。たぶん、私が一人でこの投書を読んでいたら、多少モヤモヤしながらも53歳男性英語講師を称賛していたんじゃないかと思います…。
読み終えて、高校時代を思い出しました。一人で悩んだり苦しんだりしていると、近付いてきてくれる人が回りに居ました。いざ、こちらからも近寄り心を開こうとすると、その人の顔は明後日の方向を向いていたり、距離をとられたりして。結局、こっちは見ていないんだろうなと思ったり。
木蘭先生の最後の文章、グッときました。
(ID:30182896)
○立憲主義について
「権力は腐る(後略)」→「では、どうするべきか?」→国家規模では、憲法…選挙…という手段(知恵)により統制することだと理解してますが、この手段を必要性によって獲得する経験が必要なのかもしれないと考えました。(経験によらずに学ぶことはできるはずですが)
私の職場でも恣意的な行為があるため、難儀してます。
○もくれんさんのアンサー
「あんた、えぇから、宿題すましい!」に「最上級の丁寧さソース」をかけて、もくれんさんのアンサーが出来上がったのだと思いました。(隠し味の愛情もあったような)