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第194号 2016.9.28発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…今年、5年に1度行われる国勢調査の結果が発表され、大正9年(1920)から行われてきた調査で、初めて日本の総人口が減少に転じた。全国の自治体の8割以上で人口が減少し、東京でさえも東京オリンピックが行われる2020年を機に減少に転じると試算している。多くの地方自治体の財政は逼迫し行政サービスは縮小され、共同体は崩壊していく一方である。3.11によって日本人は故郷が喪失される虚しさを痛感したが、3.11以降の感覚を取り入れようと意識して作られた映画『君の名は。』と『シン・ゴジラ』には明確な違いがある!その違いとは何か?
※小説「わたくしの人たち」…「業界で名を轟かせ、若いころはパリ暮らし、世界中に住んだ」と豪語する“グローバル肥大化おじさん”黒鶏春夫の前に現れたのは、さらに強力な“自我肥大化女”西川麻央!意識高い系・元モデル起業女の背景には、意識を覚醒させてくれた神様の存在が!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!先生が好きなオールディーズの曲は何?有名人が結婚すると指輪の値段を推測したりするテレビの下劣さはアリ?失敗を認められず、新たに長期金利の誘導策を導入する日銀の弥縫策をどう思う?どこまで開けるとアゴは外れる?若い子の過剰な節約生活をどう思う?中学生の息子二人にオススメの小説や作家さんを教えて!性善説と性悪説ならどっち寄り?子供の頃、どんな理由で親から怒られた?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第189回「共同体の喪失と『君の名は。』」
2. しゃべらせてクリ!・第152回「ノリノリぶぁ~い!ひとりサンバカーニバル!の巻〈後編〉」
3. 泉美木蘭の小説「わたくしの人たち」・第3話「意識高い系・元モデル起業女」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記




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第189回「共同体の喪失と『君の名は。』」

 9月25日に放送されたNHKスペシャル『縮小ニッポンの衝撃』は衝撃だった。
 今年、5年に1度行われる国勢調査の結果が発表され、大正9年(1920)から行われてきた調査で、初めて日本の総人口が減少に転じた。
 前回の調査に比べて94万7千人のマイナス。全国の自治体の8割以上で人口が減少した。都道府県別で最も人口が減少したのは北海道で、12万3千人のマイナス。そして島根県は全国で唯一、人口が大正時代を下回ったという。
 この傾向が今後ますます加速していくのは確実で、日本はこれから、歴史上経験したことのない人口減少の時代を迎えるのだ。

 これまで人口が一極集中していた東京でさえも、東京オリンピックが行われる2020年を機に減少に転じると東京都が試算している。
 地方からの転入者によって人口増加を維持してきた東京だが、今では20代の転入者の年収の平均が200万円程度で、結婚して子供を作ることが望めない状態になっている。
 一方で近年、30代以上の転入者が増えているのだが、これは東京オリンピックを控えた建設需要で人手不足となっている交通誘導など警備の仕事に就く、地方からの転入者が多いからだという。
 この仕事も安定したものではなく、200万円程度の年収にしかならず、結婚も望みがたいのだが、地元に帰っても仕事がないため、まずこれを足掛かりにして、次の仕事を探そうとして、そのまま長期滞在になる場合が多いらしい。
 だが、次のもっといい仕事なんてないし、今の仕事ですら、2020年までのものだ。全く未来がないのだ。

 こういう人たちが単身のまま高齢化すると、納税額が少ないから税収は減少し、それでいて社会保障費は大幅に増加することになる。
 そうなれば自治体の財政は逼迫し、全てのインフラが維持できなくなってくる。水道管の修理、道路の補修、学校、病院、公園など、あらゆるものを削減しなければならなくなるのだ。

 現に、もうそうなっている自治体もある。その代表が、10年前に財政破綻した北海道夕張市だ。最盛期に11万人いた人口は現在9千人以下にまで減り、人口に合わせて行政サービスを縮小する「撤退戦」の最中なのだ。
 市長は35歳の若さで、給与は手取りで15万8千円、交通費など公務の支出も自腹で、「撤退戦」の苦渋の決断ばかりを続けなければならず、見ていて本当に気の毒に思った。
 公園や図書館は廃止、医療機関は縮小。幼少の頃からそんな様子しか見ていない中学生は将来に希望が持てず、早く地元を離れたいと思うようになる。かつては8割が地元の高校に進学を希望していたのに、今では3割ほどだという。実際、地元にいても就職先はないだろう。
 一方、島根県雲南市では、財政難から住民に行政サービスを代行させている。地域ごとに住民組織を作って予算を与え、住民に水道の検針や単身高齢者の見回りなどを担わせる。このような動きは全国各地で進められているという。
 しかし、住民がそれぞれ仕事を持ちながら行政サービスの代行までするにはかなりの負担がかかる上に、その住民自身も高齢化して、活動がままならなくなるという事態も起こりつつある。
 このような、いま地方で起きている現象が、将来は東京でも起こると予想されているのである。