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の基準が曖昧なワケは?
――Yelpコミュニティマネージャー中澤理香が語る
"口コミ"が生まれる運営
の基準が曖昧なワケは?
――Yelpコミュニティマネージャー中澤理香が語る
"口コミ"が生まれる運営
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.8.27 vol.397
「地域ポータルサイト」とは、たとえば東京都豊島区に住んでいるなら豊島区の、様々な飲食店やクリニックといった「そこでしか受けられない」サービスの情報をネット上で一覧できるようにしようという試みです。誰もが「あったら便利だな」と思うため、これまで様々なかたちで試みられてきたのですが、成功事例はなかなか生まれせんでした。
しかし、その「地域ポータル」というサービスを「グローバルに」展開し、日本でも急成長を遂げているのが「Yelp」です。今回はコミュニティマネージャーを務める中澤理香さんに、そのYelpの運営思想について聞いてきました。
▼プロフィール
中澤理香(なかざわ・りか)
1988年生、東京都出身。早稲田大学文化構想学部を卒業後、ミクシィに入社。サービスディレクターとしてスマホアプリやwebサービス等の立ち上げに携わる。退職後、フィリピン留学・サンフランシスコでライター活動等を経て、2014年8月よりYelp日本初のコミュニティマネージャーとして、東京のマーケティング責任者を務める。
◎聞き手・構成:稲葉ほたて
■ Yelp(イェルプ)とはなにか
――まずはYelpがどういうサービスなのかを教えていただけますでしょうか。
中澤理香(以下、中澤):基本的には、「地域のローカル情報をユーザーが共有する」サービスです。日本では2014年4月に進出が始まって、その日本で初めてのコミュニティマネージャーとして私が東京の担当者になりました。
Yelp日本語版のTOPページ。(URL)
Yelpは日本ではまだまだ知られていませんが、アメリカでは既に日常で使うローカル情報メディアとして地位を確立しています。実際、Yelpにジョインする前にサンフランシスコに住んでいた時期があるのですが、現地では生活に欠かせないサービスになっていました。
――「海外の食べログみたいなものでしょ」と思っている人も多いのかなと思います。
中澤:確かに飲食店のローカル情報は多いのですが、それに留まらない地域情報を提供しているのが特徴だと思います。Yelpは会社のミッションとして、「To connect people with great local businesses」という言葉を掲げているんです。つまり、人々と素敵なローカルビジネスをつなぐという思想が強くあるんですね。
だから、海外のYelpには地域の医者や車の修理工、弁護士事務所や税理士事務所の情報もたくさんあるし、刺青師なんかにレビューが沢山ついていたりするんですね。向こうにはタトゥー文化がありますから。
そういう中でサクセスストーリーも生まれています。例えば職業訓練を受けたホームレスが水道屋を開業して、Yelpでのレビューの高評価から地域で愛される水道屋になったエピソードが話題になったこともありました。
基本的には大手のチェーン店が強くなりがちなビジネスにおいて、優れた活動をしている個人や小規模の店舗をエンパワーメントしていくことを大事にしているんですよ。
――インターネットの思想を、ローカルビジネスの領域に持ち込んだサービスなんですね。
中澤:そうです。だけど、あくまでもそれを評価するのはユーザーであるという考え方も徹底しています。
ですから、店舗が編集できる情報にはかなり大きく制約をかけているし、検索結果で特定の店舗を有利に表示するような広告サービスもつけていません。情報の「aucenticity(真実性)」を重視していて、それはユーザーの評価から生じてくるものだと考えるんです。
■ 「国家」ではなく「都市」を単位に考える
――かなりインターネットの思想に"潔癖"なサービスだという印象を受けるのですが、CEOは所謂「ペイパルマフィア」の人ですよね。
中澤:そうです。
ただ、CEOのジェレミー・ストッペルマンは、派手な人が多いペイパル出身者の中では、あまり目立った存在ではないですね(笑)。それに、色々な意味でシリコンバレーのCEOとしては変わっていると思います。そもそも自分の作った会社を10年間も売らずにおいて社長を続けていること自体が、シリコンバレーでは異例です。
そもそも彼は、ペイパルではソフトウェアエンジニアリングの責任者を務めた技術者でした。今でも本社のプロダクトチームに席があって、そこに座って仕事をしています。ビジネスの戦略や提携にも、ほとんど関わっていません。
とにかく純粋にユーザーが使いやすいものを作ることだけに注力していて、この10年間でユーザー数を増やすための無理な博打は打ったことは一度もない。それどころか、ユーザー獲得のための広告費すらほとんど打っていない。良質なサービスを作り、コミュニティマネージャーが各都市でコミュニティを形成していく――それだけを続けてきたのがYelpです。
このジェレミーの気が長いというか、長距離ランナーみたいな思想は、Yelpという会社全体に大きく反映しているように思います。
――ずいぶんとのんびりしたやり方というか……そうなるとYelpがここまで伸びた勝因が気になるのですが、そもそもどういう経緯で始まったサービスなんですか?
中澤:ジェレミーがペイパルで働いていた時期、次々に周囲が起業していたんです。ジェレミー自身も2004年頃にハーバードビジネススクールに1年だけ通ったのですが、その夏休み、良い歯医者を探していたときに、役立つ情報がないことに愕然としたそうです。そこで、今で言う「ヤフー知恵袋」みたいなサービスを作ったそうです。ただし、不特定多数ではなく、友達限定で質問を投げかけるサービスでした。これがYelpの原型になっています。
コミュニティ活動を重視するようになったのは、その後のことです。最初はユーザーがオフ会を勝手に主催していたのですが、そこに当時数名だった社員が行ってみたら、大盛り上がりしてしまったそうです。そこで公式でもオフ会を主催するようになりました。そして、ここで見つけた「イベントを主軸にしたコミュニティ運営」というのが、その後のYelpのユーザー獲得の肝になっていきました。
▲YelpがIKEAとコラボして開催したイベントのひとコマ。家具の組み立て選手権を行っている。
――とはいえ、こういうローカルBBSとかローカルSNSの類で、グローバルプラットフォームになり得たのはYelpくらいだと思うんです。何が成功の要因だったのでしょうか?
中澤:それは、いつも聞かれる質問ですね(笑)。でも、別に凄いことはやっていないと思います。
他の競合他社とYelpが一つだけ違ったのは、最初のサービスをサンフランシスコだけに絞ったことなんですよ。
他のサービスは外へと拡大することを考えた結果、結局、単なる広く浅いサイトにしかならなかったんです。一方でYelpは徹底的に狭い場所で濃いサービスを展開した結果、ユーザーのコミュニティに熱気が生まれて、レビューが次々に書かれていくループがどんどん回転していき、ついにはサンフランシスコの地域情報におけるナンバーワンサイトになりました。
その後のYelpの歴史は、こうやってゼロから新しい都市を開拓していくことの繰り返しです。でも、それを繰り返すことで、プラットフォームの機能はどんどん充実していくし、コミュニティ運営のノウハウもどんどん溜まっていくわけです。
――まさに元楽天執行役員の尾原和啓さんがPLANETSの連載で論じた、プラットフォーム運営の基本どおりに展開したわけですね【※】。
中澤:今でもYelpは、基本的には国単位でサービスを見ていないんです。
もちろん言語の問題があるので、全く国のことを考えていないというのは言いすぎなのですが、ことコミュニティ運営という点では、やはり「東京」「大阪」「福岡」のように都市の単位で見るんです。これは海外でも同じで、フランスやイギリスというくくりよりは、パリやロンドンのように都市の単位で考えていますね。
【※】「最初に広く浅いコミュニティを狙ってはいけない」ということです。なぜなら、ユーザーの熱量がない場所には、全く投稿数もなく読者も増えないからです。そのため、My SpaceにしてもFacebookにしても、海外のSNSは非常に特殊なカテゴリの、狭くて濃い対象から徐々に広げていきました。
(出展:mixiが流行した理由"をサイト設計から理解する)
■ プラットフォームにとってイベントとは
――中澤さんは、そんなYelpの日本進出における最初のコミュニティマネージャーでもあったわけですよね。
中澤:新卒でミクシィに入社して新規事業やサービスの立ち上げなどに携わってにいたのですが、一昨年に退職してからはしばらく海外に語学留学したり、サンフランシスコで過ごしたりしていたんです。
アメリカで生活していると、Yelpは本当に生活に欠かせないツールなんですよ。そんなときに前職の同僚から、Yelpが日本進出の最初のメンバーを探していからと聞いて、いまの上司となる人とお茶したんです。そのときにオフィスに行って話を聞き、興味が湧いてコミュニティマネージャーの採用試験に応募しました。
――コミュニティマネージャーというのは、各地域でコミュニティを盛り上げて地域情報をドンドン追加してもらうように動きまわる担当者ということでいいですか。
中澤:だいたい合ってると思います(笑)。
日本では私が東京の担当者として最初に採用されましたが、現在は大阪などの様々な地域に担当者が一人ずつ採用されています。
ちなみに、コミュニティマネージャーはオフィスも特にないし、仕事の時間も自由に決められます。そうして自分の足で街を歩いてまわれ、という考え方なんですね。打ち合わせも、地域で話題のカフェにあえて行ったりしています。
ただ最近、アメリカでは新しい取り組みも始まっています。コミュニティマネージャーほどフルコミットはせずに、ユーザーが週に何時間かだけ運営の手伝いをする「コミュニティアンバサダー」という制度が試されています。これが上手く回れば、コミュニティマネージャーが出向かない都市でもYelpを発展させられる可能性があります。
――そろそろ今日の本題に入りたいのですが、Yelpで特徴的なのはこのコミュニティ運営の独自ノウハウにあると思うんですよ。例えば、先ほども話に出たように、Yelpはかなりイベントドリブンでサービスを伸ばしていますが、これは効果的だからやっているわけですよね?
中澤:効果はありますね。
格好良く言うと「エンゲージメントが深まる」という言い方になるのですが、要はYelpがユーザーの「自分ごとになる」という感じです。具体的には、イベントに来たユーザーがどんどんサイトに投稿してくれるきっかけになるという効果がありますね。
――たぶん、ウェブサービスの最先端で近年発見された面白いトピックが、コミュニティ運営におけるイベントの有効性だと思うんです。ニコニコ動画なんて、イベントドリブンのサービスになってるのが良い例ですね。でも、単純に露出だけを考えると、イベントの数字って特に大きいわけではないでしょう。その有効性がどこから生じるのかを、あまりみんなうまく説明できていないと思うんです。
中澤:Yelpって最初にも述べたように、多くの人にはブラウザから検索で見に行く情報サイトなんです。
でも、そこにあるコンテンツはヘビーユーザーが投稿したもので、その人たちのコミットメントは凄まじいものがあるんです。サイトへの貢献度で言えば、送り手と受け手の間には、もう何十倍もの圧倒的な差があると言っていいんじゃないかと思います。
ハッキリ言えば、そこに来た10人のユーザーの1人でも、そういう送り手のユーザーに転換してくれれば、その人が何十倍も動いてくれるわけですから十分に効果があるんですよ。
イベントの良いところを言うと、そういうユーザーを効率よく生み出すことにあります。
ネットの1PVもイベントに足を運んだ人数も、露出という数字だけで見れば同じかもしれない。でも、そこにあるコミットメントはぜんぜん違うんです。結局のところ、ネットのPVの多くは、Twitterで流れてきたリンクを踏んで、すっと通り過ぎていくようなものでしかない。でも、イベントはそういうものではないと思うし、イベントへの参加自体がコミットメントを上げていくんですね。
▲Yelpイベントの様子
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