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国内アーケードの変容と
海外オープンワールドの拡大
〜『アイマス』『戦場の絆』『GTAⅣ』
(中川大地の現代ゲーム全史)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.8.26 vol.396
今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』の最新回です。携帯型ゲーム機や携帯電話向けゲームアプリの優勢で存在意義を奪われていったアーケードゲーム。そんななか「アーケードならでは」のゲーム体験を提供し成功した『アイマス』『戦場の絆』のゲーム史的意義とは? そして、現在も世界のゲーム市場の主流を占める「オープンワールド」の雄、『グランド・セフト・オート』登場のインパクトを振り返ります。
「中川大地の現代ゲーム全史」(これまでの配信記事一覧はこちらから )
第10章 「ゲーム」を離れはじめたゲーム/コミュニケーション環境が変えたもの
2000年代後半:〈拡張現実の時代〉確立期(4)
■『アイマス』『戦場の絆』が拓いたアーケード文化の昇華の道
『モンハン』が街中どこにでも現出する〈拡張現実〉型のゲーム風景を切り拓くのと対応して、ゲームセンターという特定の空間に足を運ばせる工夫を宿命づけられているアーケードゲームの領域でもまた、ネットワーク技術の力を援用しながらロケーションの価値を高めるための飽くなき追求が続けられていた。
前章に述べたアーケードTCGに続き、新たに登場した通信型マルチプレイゲームのスタイルが『THE IDOLM@STER(アイマス)』(ナムコ)であり、『機動戦士ガンダム 戦場の絆』(バンダイナムコゲームス)であった。
05年に稼働を開始した『アイマス』は、プレイヤー各自が新米プロデューサーとなり、トゥーンレンダリングによって二次元描画のアニメ風に描画されたフルボイスの3Dキャラとして描かれる10人のアイドル候補生の中から好みの1〜3人を選び、アイドルユニットを組ませてプロデュースするという趣向の、育成SLGの一種だ。ゲームとしての基本構成は、自ら決めたユニット名で活動するアイドルたちの歌唱力やダンス力といったパラーメーターを各種のミニゲームによって向上させていく「レッスン」と、恋愛SLG風の会話によってメンタル状態の好転をはかる「コミュニケーション」の繰り返しによる育成である。そしてテレビ番組への出演を目指した「オーディション」を行い、その合否などによって増減するファン獲得数を得点として、アイドルランクの上昇を目指していく。
この時代のアーケードゲームの特徴として、自身のプロデューサーとしてのランクやプレイ履歴を記録するものと、アイドルユニットの成長状態を記録するものとの2種類のリライタブルカードが発行され、家庭用ゲームと同様に継続的にプレイすることが前提となっている。さらにオーディションは、基本的に全国でリアルタイムにプレイしている他のプレイヤーたちの作成ユニットとのオンライン対戦での競い合いとなっており、番組出演を勝ち取ることができると、報償としてライブタワーと呼ばれる筐体のモニターにて育成ユニットの出演ステージの3Dアニメーション映像が流される。こうした仕掛けにより、ロケーションに何度も足を運ばせつつ、アーケードならではのライブな体験共有ができるような仕様が実現されていたのである。
この仕掛けが奏効し、 CVを担当した声優陣による劇中アイドル名義での楽曲サウンドトラックの発売や、07年の360など家庭用ゲーム機への移植、本作を原案とするテレビアニメの制作といったメディアミックス展開に発展。ゲーム/アニメの領域でグループアイドルもののコンテンツが活況を呈していく潮流の先駆けともなった。
▲『THE IDOLM@STER(アイマス)』の筐体
本作におけるグループアイドル像は、1990年代後半から2000年代前半にかけて一世を風靡した「モーニング娘。」と中核とするつんく♂プロデュースのハロー!プロジェクトのそれを彷彿とさせる。モーニング娘。は、テレビ東京のバラエティ番組「ASAYAN」内でのオーディション企画から発足したグループであったが、アイドル候補たちのキャラクター性や成長過程を舞台裏含めて見せていくリアリティショー的な手法や、10数人の女性メンバーから順列組み合わせのユニットを形成してテレビ番組向けにプロデュースするといった構造を、誰にでも疑似体験できるかたちで開放したのが『アイマス』だったとも言えるだろう。
おりしも同じ05年には、ハロプロ的なアイドルプロデュースの方法論をさらに徹底化し、東京・秋葉原の専用劇場での定期公演をベースに、「会いにいけるアイドル」をコンセプトに掲げた「AKB48」が誕生していた。これを契機として、以後は地下アイドルやライブアイドルのブームが盛り上がっていくことになるが、ロケーションベースでの現場の臨場感と、ネットを利用したユーザー体験のシェアとを車の両輪にしているという意味で、『アイマス』とAKBのムーブメントの在り方には少なからず通底するものがあった。
とりわけ360移植後の『アイマス』は、ニコニコ動画などの動画共有サービスにて、パフォーマンスシーンを流用したMADムービーなどのn次創作型UGCの人気供給源にもなっていくが、これはAKBがプロデューサーである秋元康の意図をも超え、現場とネットの結託によるユーザーコミュニケーションをフィードバックすることで巨大な潮流を生み出していったことと、完全に要因を同じくする出来事だ。つまり、二次元か三次元かの別を超えて、アイドル文化が大きく〈拡張現実〉型に更新されていく同時代現象として、『アイマス』とAKBはそれぞれのムーブメントを引き起こしていたのである。
他方、06年稼働の『戦場の絆』もまた、以後のゲームセンターの風景を大きく変えていくことになる。本作は、1980年代以降の日本アニメを観て少年期を過ごした層にとっての擬似戦記的な共通体験となっている『機動戦士ガンダム』に登場する地球連邦軍とジオン軍の両陣営の各種モビルスーツ(巨大ロボット兵器)への搭乗体験を、コクピットを模したP.O.D.と呼ばれる大型筐体によって再現し、4〜8人ずつのチーム対戦ができるという趣向の体感型バトルシミュレーターである。
似たようなスタイルで巨大ロボット兵器に搭乗しての戦闘を擬似体験させようとしたアミューズメント施設としては、1990年代初頭にアメリカや日本で専用施設を設けて営業していた「バトルテックセンター」のような先行例があった。その後の15年以上のテクノロジーの進歩を受け、一般的な都市型ゲームセンターでも充分に展開可能なかたちで登場した点が、『戦場の絆』の特徴と言える。その設計趣旨どおりにチーム対戦ができる規模でP.O.D.筐体を設置できるロケーションは、資本力のある大きな集約型施設に限られていたが、アーケードゲーム業界全体が選択と集中を迫られていた趨勢を前提に、初めて実現したタイプのプロダクトだったわけである。
▲『戦場の絆』のコックピット
ここに、プラモデルを中心とする立体造形化のノウハウを3DCG化以降のデジタルゲームの領域にフィードバックするかたちで、その時々の最新テクノロジーを駆使して劇中世界の手触りをリアリスティックに再現しようと試み続けてきた『ガンダム』ゲームの文脈が加わる。アーケードでのモビルスーツ対戦ものとしては、すでにカプコン開発による三人称視点のバトルゲーム『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』(バンダイ 2001年)が大きな成功を納めていたが、だいたいこの時期までに「ザクやジムのような量産型機体ならこの程度、ガンダムやシャア専用ゲルググのようなワンオフ型なら高コストながら段違いのジャンプ力やスピード感が味わえる」といった、機体ごとの〝らしさ〟をファンに納得させるだけの個性が確立されていた。そんなプレイヤーの体感レベルでの操作性の傾向を、一人称視点でより臨場感あふれるかたちで擬似体験できるようにさらに一歩押し進めたのが、『戦場の絆』であった。
言うなれば、ナムコ時代最終期の『アイマス』から1年を隔て、バンダイナムコゲームスからリリースされた本作は、キャラクター玩具の版権に強いバンダイが蓄積してきた『ガンダム』ゲームの連綿たる系譜と、『ギャラクシアン3』(1990年)や『ソルバルウ』(1991年)のように、テーマパークや大型アミューズメント施設でのライド型アトラクションを展開してきたナムコの長所を高度に結晶化させ、両社の企業統合の面目躍如を示してみせたわけだ。
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