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今朝のPLANETSアーカイブスは、グラフィックデザイン誌『アイデア』で本誌編集長・宇野常寛が受けたインタビュー記事の再掲です。2021年秋に創刊した雑誌『モノノメ』はクラウドファンディングで資金を集め、インターネットでの直販と一部の書店などで販売しました。なぜいま「紙の雑誌」をつくるのか。『モノノメ』第3号を制作準備中の宇野に、紙媒体で発信することの難しさと可能性について語ります。(聞き手=アイデア編集部、構成=藤井亮一/初出:「アイデア No.407」)

ミドルサイズのメディアだからできること──「紙の雑誌」の身体性を次の世代につなぐ|宇野常寛インタビュー(PLANETSアーカイブス)

──宇野さんはこれまでにも批評誌『PLANETS』を継続的に刊行してきました。主宰する出版社では多彩な書籍を刊行されていますし、ウェブマガジンやポッドキャストなどを使ったオンライン上での発信も続けています。なぜあらためて「紙の雑誌」である『モノノメ』を創刊されたのでしょうか。

2005年に創刊した『PLANETS』はインディペンデントで立ち上げた雑誌です。最初は同人誌でしたが、商業誌として流通するようになってから10年以上が経っています。2014年には版元として法人化し、落合陽一(*1)さんの単著を始めとする単行本も出版してきました。商業出版の経験を積んだうえで、あえてインディペンデントな流通に戻そうと思ってつくったのが『モノノメ』です。ちょうどコロナ禍が始まった頃から、SNS上の言論空間はいままで以上に息苦しくなりました。インスタントな承認欲求を満たす道具としてSNSはコストパフォーマンスがよすぎて、物事そのものについて考えなくなりました。つまり問題を解決することや再設定することではなく、どうコメントしたら自分の株が上がるかだけを考えるようになった。だからSNSのタイムライン大喜利から距離をおいて、自分の個人的な思考だけを追求したものをつくりたかったんです。ウェブマガジンは記事単位で読まれて完結してしまいますが、紙の雑誌であれば特定の記事を目的に購入したとしても、別の記事に出会うことがある。森に入って虫に刺されるような、事故的な世界の広がりを目指して雑誌をつくりました。

──Amazonや大型書店チェーンには卸さず、一部の信頼できる書店や直販ECショップでのみ販売するという流通形式も話題になりました。

流通を絞ったのは、本当に届けたい人にだけ届けようと思ったからです。ただ、このアプローチは成功したとは言いがたいですね。なかなか狙い通りに、読者を広げていくことができなかったと感じています。小規模出版社にとって特に大変なのは、流通です。当初は独自流通で頑張っていましたが、試行錯誤の結果としていまはトランスビュー(*2)とe託(*3)の合わせ技にしています。この会社の規模にあった流通形態を模索していて、次号の『モノノメ』はAmazonでも売ることになると思います。 

──『モノノメ』の編集体制を教えてください。

創刊号と第2号は『PLANETS』の延長線上で制作しました。基本的には、ぼくと社内の常駐スタッフ3人くらいが関わっていて、外部の編集スタッフがひとりかふたり入るような体制です。ぼくも社員もその他の業務がいろいろあるので、状況に応じて少しずつコミットし

ています。2022年3月に2号を出してから、3号がなかなか出せていません。最大の理由はぼくが忙しいからで、それもあって3号では体制を刷新しようと考えています。もっと若い外の血、フリーランスや副業参加の編集スタッフを入れたいんです。

──なぜ若い世代を編集メンバーに入れたいのでしょうか。

こういう雑誌の編集長というのは、30代なかばくらいのする仕事だと思うんですよ。ぼくはもう45歳で、相対的に自分個人の書く仕事への関心が高くなっているし、若い世代の書き手との感覚的な断絶も感じています。10年くらい前に落合さんと出会ったとき、もう若手ではいられないなと思いました。いまは、落合さんや三宅香帆(*4)さんのようなぼくよりもずっと若い世代が台頭してきている。自分がおもしろいと考えるものをストレートにつくるだけでは、広がりがでないと思ってるわけです。だから、編集体制をもっと若返らせようと。それに、いまの若いフリーランスの編集者ってウェブメディアの仕事が中心なので、紙のデザインの経験が決定的に足りていない。ウェブって差し替えが簡単にできるから、画像の選定をほとんど考えていないような媒体が多いんですよね。紙のデザインでは、紙面に文字が多いから少し抜けた画像を載せようとか、あるいは逆に読者にストレスを与えるような画像を載せて視線を留めたいとか、画像を使って読むという体験を操作することができる。これって雑誌というメディアが消えても応用できる技術ですよね。紙の雑誌であること自体が大事というわけじゃないんです。ただ、ウェブメディアよりも一段階上のヴィジュアル管理が要求されることや、物理的なものをつくる工程管理といった経験は、単にテキストコンテンツを編集しているだけでは得られません。若い人にそれを伝えることには意味があると思っています。