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宇宙の果てでも得られない日常生活の冒険――Ingressの運営思想をナイアンティック・ラボ川島優志に聞く

☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.1.22 vol.246
http://wakusei2nd.com

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本日の「ほぼ惑」は、社会現象ともなりつつある位置情報ゲーム「Ingress」の担当者・川島優志さんへのインタビューをお届けします。運営側の川島さんは現在のIngressブームをどう見ているのか? そしてこれまでの家庭用ゲームにも、数多のウェブサービスにもできなかった「現実をHACKする」エンターテインメントの真の可能性とは――?


位置情報を用いたゲーム「Ingress」について、たびたびPLANETSでは取り上げてきた。

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今回「ほぼ惑」は、このIngressの担当者であるナイアンティック・ラボ(Niantic Labs)の川島優志氏にインタビューすることに成功した。宇野との対話は、「食べログ」や「コロプラ」などの位置情報サービスから、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』との比較にまで及び、Ingressの背景にある思想を考える内容になった。

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▲川島優志氏

◎聞き手:宇野常寛、稲葉ほたて
◎構成:稲葉ほたて

ハリウッドに対抗できるのはIngressだけ

宇野 先日、うちの事務所裏にある結婚式場のマリア像が「高田馬場聖母」という名前をつけられて、ポータルに登録されていて、もう愕然としたんです。「ナイアンティック・ラボはこれを通していいのか、騙されているぞ」と(笑)。東京は結構そういうものが多いですが、外国でもこういう事例はあるんですか?

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▲「高田馬場聖母」

川島 「どうなんだ」っていうのはいっぱいありますよね(笑)。

台湾の台北に立っている電信柱に装飾された通信ボックスがついているんです。その一つ一つの電信柱がポータルとして申請されていて、現地の人も「こんなにあっていいのか」と言ってるそうです(笑)。あまりにふさわしくないものは、ユーザーからのフィードバックで消していますが、基本的にはまあ、不思議なものは全てポータルになりつつありますよね。

――Ingressはユーザーも面白いですけど、運営も良い意味でいい加減ですよね。

宇野 いや、でもIngressはまだ死人が出ていないことのほうが不思議なくらいじゃないですか。僕は『頭文字D』を最も多くの人間をリアルで死に追いやった漫画だと思っているのですが(笑)、下手をするとアレよりも危険かもしれない。

川島 確かにリスクはあって、以前、巨大なリンクを張るために飛行機をチャーターして、アラスカに飛んだ人がいたんです。ところが、アラスカに降り立ってポータルで作業している20分の間に、エンジンが凍り付きそうになったらしくて、一歩間違えればそこで凍死してしまう状況に陥ったそうです。大変な冒険です。

宇野 僕は今、ハリウッドに唯一対抗できそうなエンターテイメントがIngressだと思っているんです。

現在のハリウッドで流行している作品って、ピクサーやディズニーのようなアニメとX-MENや『ゼロ・グラビティ』のような特撮になっていて、徹底的に作り込まれた物語なんです。90年代に流行したような、手ブレさせてリアリティを出すような映像がYouTubeに無限に溢れかえる時代になった結果、映画館にわざわざ観に行くような映像の役割は、むしろ徹底的に作家によってコントロールされた純度100%のファンタジーという方向になりだしている。

そういう流れの真逆にあるのが、おそらくIngress的なものでしょう。ユーザーが自分たちで物語をどんどん生成していくプラットフォームとしての究極形と言えるのではないでしょうか。

川島 先日、日本が覆われたときに「現実がいかに予想外で面白いか」を思いました。本当に、そのまま映画にできるくらいの色んなストーリーが、毎日のように世界中で起きています。

例えば、1年くらい前にオブジェクトを13個ほど世界に散らばらせて、リンクを繋いでそれを運ぶという「大玉ころがし」みたいなものを初めてやりました。レジスタンスはブエノスアイレスに運んだら勝ちで、エンライテンドはサンフランシスコに運んだら勝ちというルールでやったのですが、もう大冒険でした。

例えばロシアでは、「今からすぐにヴォルゴグラードへ飛んでくれ」みたいな指令が飛ぶわけです。それに対して「いつだ」「4時間後のフライトで飛んでもらわなければ間に合わない」なんて話し合い、「よし、俺が行く」みたいな展開になったそうです。ハリウッドもかくやのスリリングな物語ですよね。Ingressによって、予想を超える形で「現実ってこうだったのか」というのが「見える化」されるのは面白いところです。

コロプラとIngressの違いとは?

宇野 まず、僕のGoogleに対する考えを言うと、Googleがネット上のサイトを検索するサービスだった時代って随分と昔のことだという認識なんです。

だって、もはや僕らが普段の生活で検索エンジンを使うときって、実は飲食店を探すか知らないワードを調べるときくらいで、僕なんかはGoogleはもう食べログとWikipediaのインデックスくらいの感覚さえあります(笑)。この10年でわかったのは、人間の吐き出すWebページなんて、所詮はいくつかのキラーサイトに集中してしまうだけだということで、そこに向けてコンテンツを作ることが僕にはそれほど重要とは思えなくなっています。