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ゲーム研究者の井上明人さんが、〈遊び〉の原理の追求から〈ゲーム〉という概念の本質を問う「中心をもたない、現象としてのゲームについて」。今回は「節電ゲーム」からゲームという現象を考えます。コストダウンにも環境保護にも関心がない、電気使用量の記録更新だけを目指す「節電バカ」たち。彼らの情熱が生み出すゲーム的学習プロセスを読み解きます。

 学習説に関わる長い長い三章が終ったので、ここまでの簡単な復習とケーススタディ的な意味を兼ねて、いつもよりは、相対的にふんわりとした話を挟ませていただきたいと思う。

 ケーススタディの例としては、手前味噌で恐縮だが、節電のゲームの話をさせていただきたい。筆者は、自宅の電気使用量を測りながら節電に励むゲーム(というか、節電支援ツール)である『#denkimeter』を作って以後、境界例としてのこのゲームの現れの面白さをいろいろなレベルで感じている。

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▲#denkimeterの遊び方

 節電自体は、そもそもとして「ゲーム」であるわけではない。「ゲーム」だと思えばゲームになる。そういう現象は、日常のなかに溢れているが、節電もまた、そのようなものの一つだ。
 ここまで論じてきた概念を使うのならば、節電のゲームは、ゲームとゲームでない時空間や意味を区切るためのどちらの境界もぼんやりとしている(二次的現実/二次的フレームの曖昧性)。これはゲーミフィケーション的な事例のほとんどがもっている性質だ。その意味で、節電のゲームは「ゲーム」概念としては境界例として位置づけられやすいものだ。
筆者は、電気使用量を測りながら、クリアにフィードバックが出てくることがきっかけで、節電をゲームのようなものとして楽しめるようになった。「電気使用量を下げる」というシンプルでクリアなルールがあるし、節電のために行える創意工夫のバリエーションは数限りなくなる。こうした性質ゆえ、節電はゲームのような行為であるという認識をもたらすこと自体は、それほど難しいものではない。
そして、素朴な実感として「節電は楽しい」と思っている。
 節電が楽しく見えている風景とはどのようなものか。そこからみえる風景をいちど、伝えたうえで、改めてこのゲームを遊ぶときに現れる特質について論じることにしよう。

節電バカとは何か

さて、筆者は二〇一一年の震災のときに節電ゲームを作って以来、一時期はそれなりの「節電バカ」だった。ここでいう節電バカというのは、節電をすること自体が好きだということであって、節電の結果として、お金を節約されることが好きだということではない。
 たとえば、節電バカであれば、月々20円ぐらいの節電をするために、2万円を投資するような行動をとる。コストで考えれば、同じ家に住み続けたとしても投資した費用を回収するのに83年はかかる計算になる。不経済なこと極まりないが、節電バカにとっては、お金を節約できるかどうかが重要なのではなく、節電のスコアを上げることができるかどうか、ということが重要なのである。
 つまり、ここで言う、節電バカとは、節電を節約のためにやっているのではなく、節電そのものをゲームの一種として楽しんでいる人々のことだ。

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▲筆者の自宅の電気代の記録。一月753円。

「節電バカ」は大震災以来、(おそらく)増殖中であり、節電バカが出版した本も出ている。朝日新聞に勤める斎藤健一郎氏による『5アンペア生活をやってみた』(二〇一四、岩波書店)などはその好例だろう。(斎藤さんすみません)
 そもそもこの本のタイトルである「5アンペア生活」と言われても、節電バカ以外にはピンと来ないだろうが、「5アンペア生活」はかなりヤバい。
そもそも、自分の家の契約アンペア数を気にしたことのない人のほうがマジョリティだと思うが、東京電力と契約している一般家庭は30アンペア~60アンペア契約の家庭が多いだろう。東京電力との契約可能な最低アンペア数が5アンペアである。人が居住していない倉庫とかを想定しているような契約アンペア数だ。
5アンペア生活は、単純なはなし、500W以上の家電を使うと、その瞬間にブレーカーが落ちる。電子レンジ、アイロン、ドライヤー、電気ケトル、オーブントースターなどは完全に使えなくなる。エアコンも、実質的にほぼ使えないに等しい。正直なところ、過酷な節電ライフになりやすく、一般人向けであるとは言い難い。
 筆者の場合、さすがに5アンペア生活は厳しいので、関東で一人暮らしをしているときは、15アンペア契約にしていた。15アンペア契約であれば1500Wまでの家電が使える。贅沢な家電でなければだいたいは問題ない。ただ、エアコンを使いながら、電気ケトルを使ったりするとブレーカーが落ちる可能性が高い。そのため、電気使用量の大きい家電について、常に何と何が稼働しているのかを意識しながら生活をする必要はある。正直、そこまで極端な不便さはない。もっとも、少しだけ不便なのは事実なのだが、節電ガチ勢にとっては、15アンペア契約は、難易度「easy」ぐらいのゲームに常にチャレンジしているような心地よさがある。(5アンペアは、難易度「extra hard」モードである)

「節電」自体が楽しいのか、「節電」の試行錯誤のプロセスが楽しいのか


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