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井上明人『中心をもたない、現象としてのゲームについて』第6回 日常行為としての「ゲーム」を考えるということ【不定期配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.630 ☆

2016/06/29 07:00 投稿

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井上明人『中心をもたない、現象としてのゲームについて』
第6回 日常行為としての「ゲーム」を考えるということ
【不定期配信】 
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.6.29 vol.630

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今朝のメルマガは井上明人さんの『中心をもたない、現象としてのゲームについて』の第6回です。今回は、「創発」と「還元」という2つの思考法から、「ゲーム」という概念の読解の可能性を探ります。ノイズを排した思考実験と、雑多な社会全体の現象。この複雑性の両極の中間地点にある「性質α」はいかにして定義できるのか。そのための方法論が明らかにされます。


▼執筆者プロフィール
井上明人(いのうえ・あきと)
1980年生。関西大学総合情報学部特任准教授、立命館大学先端総合学術研究科非常勤講師。ゲーム研究者。中心テーマはゲームの現象論。2005年慶應義塾大学院 政策・メディア研究科修士課程修了。2005年より同SFC研究所訪問研究員。2007年より国際大学GLOCOM助教。2015年より現職。ゲームの社会応用プロジェクトに多数関っており、震災時にリリースした節電ゲーム#denkimeterでCEDEC AWARD ゲームデザイン部門優秀賞受賞。論文に「遊びとゲームをめぐる試論 ―たとえば、にらめっこはコンピュータ・ゲームになるだろうか」など。単著に『ゲーミフィケーション』(NHK出版,2012)。
本メルマガで連載中の『中心をもたない、現象としてのゲームについて』配信記事一覧はこちらのリンクから。


2−2.日常行為としての「ゲーム」を考えるということ

2-2-1.日常行為を考えるうえでの「創発」

 ゲームは日常概念であると同時に、日常行為である。ここでいう「日常行為」とは、カイヨワなどが問題にするような非日常(聖なるもの)と、日常(俗なもの)というような区分としてではなく、心理実験などで問題になるような「日常行為」としての性質である。
 この日常行為を考えるうえで、議論しておきたいのは「創発」の問題だ。創発とは、個別の要素に分解すると、発現しなくなってしまうが、それぞれの要素を組み合わせた時に、はじめて新たな性質αがあらわれることだ。たとえば、人体は、人肉を繋ぎあわせても、人間が生きているという状態が現れるわけではない。多くの複雑な現象は、何かの単純な総和ではなく、相互作用によってはじめてもたらされる性質αが発現した総体として現れている。ゲームを考える時にも、この創発という問題は重要になる。
 具体的に、何が問題なのかを論じていこう。


2-2-2.創発の何が問題か

 ある学際的な研究会で、被験者の脳の活動測定から選挙行動についての分析をすすめよう、という発表を聞いていたときのことだ[1]。ある政党の選挙CMをみて、そのCMを通じ有権者の反応がどう変わるのか。有権者の脳をfMRIで調べたら何がわかるか、という研究だった。脳神経科学と、社会科学の架橋という方法論的にはとても野心的なテーマだ。
 しかし、発表についてのコメントは非常に手厳しい指摘であふれた。
 「実験室実験をやって、政治意識の何がわかるのか?CMを見せて、仮に30人程度の被験者の意識に変動があったとして、それが一体なんだというのか?」
 これが特に多かった指摘の一つだ。政治に関わる様々な意識は実験室の中で生まれるわけではない。有権者は、幼少期の教育から、現在に至るまでさまざまな情報に接し、思考をめぐらし、議論を重ね、政治的な意思決定を行っている。特に、政治のような問題は、実験室の外側で起こっていることによって引き起こされる影響が極めて大きい。その影響をコントロールできない状態で実験をやっても、あまり説得力のある結論にならないのではないか、ということだ。


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