2015年12月12日に開催された対局を各卓ごとにレポートします。今回はB卓です。
ここでの注目はやはり鈴木たろうである。
歴代最強位代表決定戦で片山まさゆきに敗れ、サイバーエージェントカップでは鈴木達也に敗れ、近代麻雀プレミアリーグ後期は予選敗退。そして雀王決定戦では木原浩一に惨敗している。過去4年連続で最強戦ファイナルに出場した実力者でも、今年はさすがに無理だったかと思われた。だが、近代麻雀プレミアリーグ後期で達也が優勝したため、規定により達也が近代麻雀プレミアリーグ後期優勝の出場枠でファイナルに出場。サイバーエージェントカップの出場枠は2位のたろうに譲られることになったのだ(サイバーエージェントカップ開催前、達也が両方ともかつ可能性があったため、対局前に規定が設けられた。ただし、サイバーエージェントカップ出場選手には通達されていない。状況によっては優勝を狙わず2位の繰り上げ出場を狙うことを避けるための措置である)。こうして5年連続のファイナル出場を果たしたたろう。その先週ではマカオで行われた世界麻雀大会で準優勝し、400万以上の賞金を獲得してからの最強戦出場である。本人が信じているかどうかは別にして「勢い」というものは間違いなくあるはずだ。
ただ、同卓者にはたろうと同じく5年連続のファイナル出場を果たした瀬戸熊直樹。そして雀王決定戦でたろうの連続優勝を圧勝でストップをかけた木原がいる。そして女流桜花決勝に駒を進めた和泉もここ一番の一撃を決められる打ち手。果たしてどういう展開になるかと注目が集まった。
まず先行したのは和泉である。
東1局はピンフのリーチをかけて1人テンパイで流局。続く東2局1本場でも先手を取り、ピンフドラ1で先制リーチをかけた。
この待ちのが、目いっぱいのイーシャンテンに構えた瀬戸熊から出た。裏ドラも乗って満貫。和泉にとっては上々の出だしである。
その和泉がリードを保ったまま東場を終える。迎えた南1局。放送で解説の多井プロ・藤崎プロが触れていたように、東家スタートの木原プロの押し退きはなかなか難しいところ。
最後の親だから頑張りたい反面、無理をせず放銃を避けていても残り3局で追いつける可能性も十分あるからだ。その親番、まず和泉がドラ待ちのタンヤオでヤミテンを入れていた。
7巡目テンパイ。この手のリーチ判断は難しいところ。リーヅモならアドバンテージをさらに広げられる。そしてトップめのリーチは危険だとはいうが、逆にいえばそのトップのリーチは迫力がある。少なくとも相手3人は愚形リーチを想定しづらいし、打てば致命傷になるという恐怖がある。だが、やはり一発勝負において3人ともじっとしている保証はなく、それなりの形で追いかけられたら今ある優位が崩れてしまうからだ。和泉はヤミを選択したものの、本人自身もどちらが良いかは悩んでいたのではないだろうか?
さて、和泉の待ちが変わらないまま、木原の手が分岐点を迎えていた。
単純に考えれば打でよさそうである。この時点で木原の目からはそれぞれ3枚ずつ見えている。実はこの直前にがパタパタと出て少し前までソーズ待ちテンパイが強そうな場況だった。映像を見れば分かるが、木原はこのソーズの理牌をにしたりにしたりと頻繁に入れ替えている。直前に出た3枚目のはスルーしたが、次に4枚目のが出たらチーしてカンに受ける意図があったようだ(結局、その後に和泉に4枚目のが捨てられたのでこの後再びの形に戻した)。
だが、これでも木原はを切らなかった。ラスを引けばが強いというのが一番の理由だろうが、それにしても思い切った判断である。選んだのは切りだ。が痛いのは覚悟の上の選択だった。
切りの1つの理由を推察するに、とのシャンポンテンパイ時のリーチにも有利に働くと判断したからではないだろうか。
切りではなくマンズを捨てる選択もある。が、を捨てているとはいえ引きのこのテンパイも捨てがたい。
ドラ
だが、その直後のドラツモ。木原にとっては痛恨の裏目である。
さすがにこのドラは切れずを捨てる木原。カンのテンパイでもリーチをかけていた可能性は高いので、この局の展開もガラリと変わっていたに違いない。
その後、北家・瀬戸熊がリーチをかけた。
この後、瀬戸熊がをツモ切り。これを木原はどう見ていただろう? ちなみに木原がカン待ちのリーチでも瀬戸熊は切りで追っかけていた可能性が高い。が木原の現物であることと、をツモれば満貫のチャンス手だからだ。したがって、木原の待ちに飛び込んでいただろう。
さて、木原はこれをチーして安全牌のを捨ててフリテンに受けた。
でチーしてを勝負すれば出アガリの利くテンパイにも受けられるが、ここまできたら無理をせずテンパイ連荘で十分だろう。この局の冒頭で述べたように、最悪オリになってもあと3局を残して戦える位置を維持することもできるからだ。
すると、木原はひょっこりをツモ。1000オールのアガリをものにした。
これには木原自身もホッとしたに違いない。最高の結果は逃したものの、まあまあの結果にはなったからである。何より親で連荘できたことが大きい。
だが、次局。木原は和泉にリーチ・一発・の6400を献上してしまう。
2番手の木原からトップめ和泉への放銃ということで一気に点差が広がった。あと、たろうの親を流し、ラス親・瀬戸熊の反撃を封じればOKの和泉。だが、決勝卓の椅子が見えた瞬間に罠が待ち受けていた。
南2局。親のたろうの配牌がこれである。
配牌でチートイツ・ドラ2のテンパイ。絶好の待ちにできるので当然のダブリーだ。このを南家の和泉が持っていた。
手中にある唯一の字牌。当然、止められるはずもなくで一発の放銃。
裏ドラも乗ったので24000点のアガリとなった。裏ドラが乗っているので、いつ打っても親倍という手である。仮に一発を避けていてもいつかは捕まるだったに違いない。好事魔多しとは言うが、これほどこの言葉が当てはまる状況も珍しいのではないだろうか。
さて、これでターゲットがたろうになった。南2局1本場では、ずっと我慢の麻雀を打っていた瀬戸熊が会心のアガリを決めた。
木原のリーチ、和泉の仕掛けを受けながら、イーペーコードラ2で追いついた瀬戸熊。ただ、その時点で待ちのは場に3枚切れ。特に3枚目が瀬戸熊テンパイの直前に、たろうに処理されてしまった(は木原の現物)。いかにもアガれなさそうなテンパイのタイミングだが、瀬戸熊はラスをツモ。この満貫ツモでたろうとの点差は14700となった。ラス親の瀬戸熊にとっては十分な射程圏内だ。
そして南3局1本場。北家のたろうが序盤から役牌のをポンして和泉の親を流しに行く。
上家の木原も満貫ツモ2発でトップになる位置なので、まだ地蔵(他家に鳴かせず、アガリにもかけない)にはならない。むしろ高い手が必要で絞っている場合ではないので、たろうからすれば鳴きやすい局なのだ。
2つ仕掛けたたろうが待ちのテンパイを入れたのが11巡目。
たろうの手牌
ドラ
この直後の瀬戸熊の手牌がこれである。
愚形を含む2シャンテン。しかもなど、将来的にフリテンになる可能性も十分ある形だ。だが、ここから瀬戸熊が追いついた。
だが、瀬戸熊の選択は打だった。これは瀬戸熊からみてが3枚場に出ていることから判断したのだろう。当たる可能性は高くはないが、よりは高い。その上でを選択したということはピンズが山に濃いという読みがあり、どのピンズを引いてもテンパイするような構えを取ったのだ。
次巡、瀬戸熊は3枚目のを引いてテンパイ。瀬戸熊は打でリーチをかけた。
ドラ
するとそのロン牌のをたろうが一発で掴む。
瀬戸熊の捨て牌には、さらにリーチの直前にが捨てられている。待ちは否定できるほどではないが、まだ通りそうな感じのする牌である。アガリに賭けたたろうはこれをツモ切り、瀬戸熊のアガリとなった。
たろう「少考してだったので待ちもあるかなとは思ったのですが、このシステム(トップのみ勝ち上がり)だと瀬戸熊さんにアガられても嫌だし。自分のアガリでリードを広げたほうがいいかな、と」
このアガリでたろうと瀬戸熊の点差は2700点。もうどちらが勝っても不思議ではない。さらに、たろうの点数が減ったことで和泉・木原ともにハネツモOKの状況でオーラスを迎えた。南4局は瀬戸熊が6巡目にイーシャンテン、たろうは遅れて11巡目にイーシャンテンとなったが、テンパイ巡目が遅かったこの局では決着がつかず流局。
そして1本場、いよいよクライマックスを迎えた。それぞれの配牌はこうである。
東家・瀬戸熊
西家・たろう
配牌の形はたろうの方がよさそうだ。3巡目にイーシャンテンとなったたろうは、6巡目にのテンパイを入れた。
役なしなので当然リーチである。
だが、瀬戸熊もあの配牌をストレートに仕上げて最速のテンパイを果たす。
こちらもアガればよいだけなので当然の追っかけである。
このめくり合い、お互いが薄く枚数的には五分。ただし、瀬戸熊はが暗槓できる分、放銃の可能性が少し低い。両者が1牌ツモるたびに力を込めて見る視聴者。だが、その決着はなかなかつかなかった。そして瀬戸熊がを持ってきて暗槓。
これで瀬戸熊有利かと思われたが、その次巡、瀬戸熊がを掴んでたろうのアガリ。
5年連続ファイナル出場の2人の対決は、たろうに凱歌が上がった。
たろう「瀬戸熊さんから追っかけリーチをかけられましたが、何か勝てそうな気がしてたんですよ。ロン牌を持ってくる怖さはあるんですが、不安な感じはそんなに感じてなくて。今年、競技麻雀の成績が悪かったので、最近調子がいいのはその反動かな、と」
これでたろうが2012年以来3年ぶりの決勝卓に座ることになった。
コメント
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下から6枚目のたろうさんの手牌の写真がちがってます
このB卓おもしろかったー
(著者)
>たきたきくんさん
ご指摘ありがとうございます! 修正しておきました。B卓も色々なことが起こって面白かったですね(梶本)