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プロレスラーの壮絶な生き様を語るコラムが大好評! 元『週刊ゴング』編集長小佐野
景浩の「プロレス歴史発見」――。今回のテーマは鈴木みのるです!  イラストレーター・アカツキ@buchosenさんによる昭和プロレスあるある4コマ漫画「味のプロレス」出張版付きでお届けします!




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――小佐野さんは鈴木みのるがプロレスのリングに戻ってくると思ってました?

小佐野 まったく思ってなかった。

――断言(笑)。

小佐野 いやあ、ホントに思ってなかったですよ(笑)。そもそも鈴木みのるとはそんなに接点がなかったんです。彼が新日本プロレスに入門したのは87年頃でしょ。その頃の私は全日本プロレス担当だから若手時代の鈴木みのるのことは知らない。個人的に話しかけられたのはパンクラスの頃かな。

――それまでは接触はなかったんですね。

小佐野 それまでは試合後の囲みなんかを「ああ、イヤな奴だな……」と思いながら見てたんですよ(笑)。

――本当に世界一性格が悪かった!!

小佐野 新生UWFや藤原組時代は最悪だったんじゃない。最悪だったよ、本当に(苦笑)。

――ハハハハハハ! 二度繰り返した(笑)。

小佐野 囲みで「今日の試合わかりましたぁ?」とか上から目線で言ったり、トンチンカンな質問をする記者には明らかに小馬鹿にした態度を取るわけですよ。

――まだ20代でイケイケだったわけですもんねぇ。

小佐野 本人も「あの時代が一番生意気だった」といまになって振り返るけども、当時はお金も良かったでしょ。「べつに客なんか、マスコミなんか……」という態度で「わかる奴だけが見ればいい」という感じだったんでしょうね。だから「……好かないな」とは思ってて、こっちから話を聞こうとはしなかった。

――それがパンクラスのときに向こうから話しかけられたんですね。

小佐野 あれはパンクラスの3周年か5周年パーティーだったと思うんだけども。そのときに「これからも頑張りますのでよろしくお願いします」と挨拶されたんですよ。「えっ、“あの”鈴木みのるから挨拶された」って驚きました。 

――何があったんですかね?

小佐野 パンクラスでもトップを取ったけども、勝てない時期があったじゃないですか。落ち目になってるときで弱気になってたこともあったのかなあ。鈴木みのると違って船木とは普通に喋ったりしたんですよ。

――船木さんも当時はかなりギラギラしてたと思うんですけども。

小佐野 それでもやっぱり団体のトップだから、マスコミの接し方が大人なんですよ。鈴木みのるとちゃんと喋るようになったのはプロレスに戻ってきてから。フリーとして新日本に復帰した鈴木みのるがNOAHに参戦したでしょ。佐野(巧真)と一騎打ちをすることになったんだけど、2人は藤原組時代にNKホールで素晴らしい試合をしたことがある。もうそのことを覚えてる記者もいないこともあって、そんな話を振ったら「今度ゆっくり話しましょうよ」なんて声をかけられて。

――それは取材抜きですか。

小佐野 取材抜きで雑談。「小橋健太は本当に凄い」とかそういう話をするんですよ。「あそこまでベビーフェイスに徹することはなかなかできない。例えば俺が誰かを挑発すると普通は汚い言葉で返してくるけど、汚い言葉は俺のほうが得意だから相手は勝てない。でも、小橋建太は絶対に汚い言葉で返してこない。どんなに挑発しても“ファンのみんなのため……”を繰り返す。これはなかなかできない」と。

――相手を冷静に分析してるんですね。

小佐野 そういうプロレスのウンチクの話を鈴木みのるとするのが楽しくなりましたね。鈴木みのるが好きになりました(笑)。彼はもともとプロレスファンでしょ。一番最初にハマったのはテリー・ファンク。横浜文体でテリーvsリック・フレアーのNWA世界タイトルマッチがあったときも見に行ったそうですし、ファンクスvsブッチャー&シークからハマった世代。ブルーザー・ブロディのことも好きだったし、その次がアントニオ猪木。猪木さんがホーガンに失神KO負けしたとき中学3年生だったんだけど、「猪木の敵を討つのは俺だ!」って決意したという。

――高校でレスリングを始めて新日本プロレスに入って。

小佐野 根っからのプロレス少年が新日本プロレスに入って、強さに目覚め、UWF、藤原組、パンクラスと極限の方向に向かっていった。当時あれだけプロレスを否定するような言動していたのに、プロレス界に戻ってくることは凄く勇気がいったと思うんですよ。「なんでプロレスをやってるの?」と突っ込まれるのは明らか。それを乗り越えてプロレスのリングに戻ってきたのは、やっぱり根っこがプロレス好きなんだろうと思うし、鈴木みのるにとっては格闘技からプロレスを俯瞰することができたんじゃないかと思うんですよね。

――プロレスから離れたことで何か見えたものがあったかもしれない。パンクラス時代も完全競技の世界なのに、船木と鈴木の2人は自分の個性を魅せようという試合をしてたんですよね。

小佐野 ですよね。船木と鈴木は明らかに他の選手とは違ってた。やっぱりプロレスの世界から入った人なんだという華があったし、元はプロレスラーなんですよね。鈴木みのるは新人の頃、目立とうという計算から、みんな黒パンツをなのに一人だけ青パンツを履いて星野(勘太郎)さんに怒られたそうなんだけど(笑)。

――中邑真輔にも似たようなエピソードがありましたね(笑)。

小佐野 鈴木みのるは猪木さんの付き人のとき、エプロンでガウンを受け取る自分の姿がテレビにどう映るかも研究していたらしいですよ。そして「猪木さんからいろんな細かいことを自然に教わった。何を教わったかは他人には言えない」と自分の財産にしてるんですね。 

――だからパンクラスでも本能的にプロレスラーっぽい振る舞いをしてしまう。

小佐野 身に付いちゃってるんでしょう。パンクラスのときも、いかにも意地悪そうな表情だったじゃないですか。“世界一性格の悪い男”はあの時代から引き継いでるものですよね。

――プロレス復帰以降の鈴木みのるはどう見えましたか?

小佐野 「アンタにわかるの? わからないのに来るなよ」という姿勢が「わからせなきゃダメ」に変わってましたね。わかってもらえないことはやる意味がないと。結局お金を払ってるお客さんを満足させなきゃいけない。自己満足したって自分自身はお客じゃないわけだから意味がない。わからない人間が見ても面白くないといけないという方向に変わっていった。わかる・わからないかは関係ない。面白いか面白くないかだと。

――それはかつての自分の生き方を反省して。

小佐野 それもあるんだろうけど、根っこが猪木さんで藤原さんやゴッチさんの教えを受けたわけでしょ。プロレスに戻ってから天龍さんや全日本プロレスの考えが吸収できたことも大きい。初めはNOAHであまりいい試合にならなくて、やっぱり噛み合わない。新日本と全日本、根本的に異なる文化のプロレスだから噛み合うわけないですよね。それが新日本のリングで天龍さんと戦ったり、タッグを組んだり、話をしたりすることによってだんだんと理解していった。

――新日本と全日本のプロレスはそこまで違うものだったんですね。

小佐野 新日本のプロレスラーは基本的に「アレをやりたい、コレをやりたい」なんですよ。全日本の場合はよく「受けのプロレス」と言われがちですが、それは相手の技を受けてるから「受けのプロレス」なんじゃなくて、相手に何をさせたら面白くなるかだから「受けのプロレス」なんです。

――相手の力を引き出すというか。

小佐野 パンクラスの頃の鈴木みのるは相手の光を消す。それは格闘技ではあたりまえですよね。そうじゃないと勝てないわけですから。でも、プロレスでそういうやり方をしても、お客さんが望んでいないときも当然出てくる。全日本の場合は相手を光らせることによって、自分も光って最終的においしい思いをするのが「受けのプロレス」なんです。その考えを鈴木みのるは理解できたんだと思う。



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