──今回は後半でUFC独禁法訴訟について聞こうかなと。
シュウ ようやく決着がつきましたよね。やっぱり日本でも話題になってるんですか?
──日本人選手向けの説明会で「シュウさんが誰かとケンカした」みたいな中途半端な情報だけが出回っていますね(笑)。
シュウ あー、それは例のローズ(・グレイシー)ですね(笑)。わかりました、そのへんをご説明します。
──まずUFCのニュースからなんですけど、PFLからリリースされたパトリシオ・ピットブルがUFCと契約しました。
シュウ 契約できてよかったですね。詳しい話を聞いてないのでわからないんですけど。PFLにはリリースしてもらえなくて弁護士を雇ってケンカしている選手も何人もいる中で、彼がリリースされたのはなぜなのかなと思ってるんですけど。
──UFC移籍を希望するアーロン・ピコはいわゆるマッチング期間が1年近くあるような口ぶりなんですけど、そこは選手によって違うんですね。
シュウ マッチング期間とは、たとえばアーロン・ピコはUFCと交渉してかまわないけど提示された契約内容はPFLに知らせる。PFLが同条件のオファーを出したら、ピコは残留するしかないと。そのマッチング期間がどれくらいあるのか。本来ならばUFC、ベラトール、PFLでもマッチング期間はみんな同じはずなんです。そこは公平にしないと「あの団体はこうなのに」って不満が出るじゃないですか。独占交渉期間やマッチング期間も、3ヵ月や6ヵ月がスタンダードになっているんですよ。ただ、最近のトレンドとしては独占交渉期間がなくなっていることが多いんですよ。要するに契約が終わったら、そこからマッチング期間が必ずあるということですね。その代わり独占交渉期間はない。
──でも、マッチング期間1年って長くないですか?
シュウ 正直申し上げて、マッチング期間自体がナンセンスだったりしますよね。大昔にエディ・アルバレスがベラトールからUFCに移ったときもすごく揉めたじゃないですか。だってUFCとベラトールではファイトマネー以外にも違いがある。UFCは公式ユニフォームのVenumからお金が出る。5万ドルのファイトボーナスが取れる可能性がある。チャンピオンになったらPPVのシェアがもらえる。それをマッチングできる団体って基本的にはないですよね。
──UFC以外は無理ですよね。もしくは基本給を莫大な金額にするしかない。
シュウ そうなんです。UFCが30万ドルを提示して、PFLが同じ金額でマッチングしたとしても、他に付属する条件まですべてマッチングできるかというと……弁護士闘争するとほぼ選手側が勝っちゃいますよね。実際にエディもベラトールからUFCに移ったわけですから。はっきり申し上げると、UFCに移籍したい選手にとって、1年間は長いと思いつつも、マッチングできないから大丈夫だろう……という安心感はすごくあります。
──すぐに勝負がつくものだからこそ、1年という期間はもったいないですよね。
シュウ 裏を取ってないかわからないですけど、もしかしたらPFLの選手たちは独占交渉期間があったりするのかもしれないですよね。パトリック・ミックスなんかもリリースされてないし、(セルジオ・)ペティスのコーチもよく知ってるから、時々やり取りするんですけど、やっぱり弁護士を雇ってPFLと交渉しているみたいなことを聞いてるので。
──団体からすれば大金を払っていたわけだから、1年くらいの足かせはつけさせてくれってことなんでしょうけど。
シュウ そういう理由もあると思いますね。たとえばペティスがRIZINに行こうとしても、RIZINがPFLと同じ条件を出さないといけないじゃないですか。
──ベラトールから引き継いだファイトマネーは高すぎるんですよね。だからPFLも使えないんですけど(笑)。
シュウ ひとつ言いたいのは、ベラトールのトップだったスコット・コーカーは、日本の旧K-1と仕事をしたことがキャリアの始まりだったじゃないですか。これをいうと日本人はイヤな気持ちになるかもしれないですけども、コーカーは日本のプロモーターの悪い部分を受け継いでいると非難を受けているんですよ。
──日本のプロモーターの悪いところって、心当たりがありすぎます(笑)。
シュウ どういうことかといえば、契約しないでハンドシェイクだけで試合を決めるけど、あとで条件を変えちゃうとか、約束を守らないことがあると。コーカーと一緒に働いていた人たちはそういうふうに言いますよね。そんなコーカーのやり方からすれば、選手によって条件が微妙に違うことはありえるかもしれないです。
──それでいえば、ファイトマネーが高すぎて試合が組まれなかったゲガール・ムサシがPFLと揉めてリリースされましたけど。ベラトールをPFLに売却する寸前に契約更新したときに、さらに昇給してるんですよね(笑)。あれじゃPFLはとても使えないです!
シュウ それがコーカーのやり方だと思うんです。ストライクフォースからベラトールの流れを見てもおわかりだと思いますけど、引っ張ってくる選手が同じじゃないですか。オランダのゴールデングローリーのルートや、自分のファミリー的なマネージャーやファイターたちを大切にして、お金もいっぱい払ってくれる。そういうファイターたちにとっては、いいプロモーターなんですよね。
──でも、「それ以外のファイターからすれば」ってことですね。
シュウ そうなんですよ。ボクも1度、2度ばかりスコットとすごく揉めて、試合日の朝3時までずっと交渉したこともあります。ビザを取らないから源泉しないという約束だったのに源泉されたから、その分を取り返すのに数ヵ月かかったとか。これ、最後なんて、ニューヨークに彼が来たときにわざわざ滞在しているホテルまで行って、最後のお金取り立てましたからね(苦笑)。あるときなんかは計量後にファイトマネーの再交渉をしたいと言ってきて。それは当然、断りましたけど。
── コーカーはけっこうめちゃくちゃですね(笑)。
シュウ だけども、いい部分もあるんですよ。アーロン・ピコみたいな選手は「育てる契約」で優遇していたと思うんですよ。
──最初からファイトマネーもいいし、マッチメイクも計画的で。
シュウ だから簡単には移籍できない契約だったのではないかなと。
──アーロン・ピコがUFCに移っても以前よりギャラはおそらく安くなるはずですよね。それくらい好待遇だった。
シュウ そうだと思います。でも、ベラトールがああなってしまって、PFLでもそんなお金は払えない以上、選手たちはそんなに強気なことを言ってられないわけですよ。
──セルジオ・ペティスなんかも、早くリリースしてもらって、金額が以前より低くてもRIZINで試合したいんだろうなって感じですもんね。
シュウ 私もそう思いますね。たとえば大げさなことをいえば、ベラトールのギャラの半額だろうが、それこそ4分の1だろうが、ゼロよりもいい。だって、仕事をしなくちゃお金を稼げない。自分の家族を養わなきゃいけないわけですから。
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