
北米MMAを知り尽くした男・水垣偉弥が「RIZIN大晦日」を語りまくります(聞き手/ジャン斉藤)
――水垣さんの大晦日はどんな1日だったんでしょうか?
水垣 ボクは(井上)直樹くんのセコンドだったんですけど、選手たちよりちょっと遅れ気味にさいたまスーパーアリーナに入りました。そこから選手の準備をお手伝いして、セコンドもやって、メインイベント(シェイドゥラエフvs朝倉未来)が終わった瞬間、ダッシュで帰るという……。あの人ごみに紛れるのが嫌だったんで、もう一刻も早く車で家まで帰りました(笑)。
――4万人の観客ですからね(笑)。今年の大晦日はバンテリンドーム・ナゴヤです。
水垣 いやあ、今年の大晦日は直樹くんには出ないでほしいなあ(苦笑)。終わった瞬間、車でこっちまで帰ってくるのはしんどいですよねぇ。
――普通に考えたら名古屋で泊まりですよ(笑)。帰り支度をしながら見たシェイドゥラエフvs朝倉未来はどうでした?
水垣 シェイドゥラエフはやっぱり強かったですねぇ。立ち上がりは朝倉選手の動きも悪くないなぁって感じがしたんですけど、組まれたら一方的でしたねぇ。最初のテイクダウンのときは持ち上げて倒したじゃないですか。腰が重い朝倉選手をあんなに簡単に投げ飛ばしたので、これはちょっとヤバイなあと……。
――試合をこなしていけば底が見えてくるもんですけど、シェイドゥラエフは全然ですよね。誰が倒せるんですかねぇ。
水垣 今回サトシに勝ったノジモフはフェザー級でもやってましたよね。
――フェザーでもやれますね。ノジモフはシェイドゥラエフより体格が上回っていて、打撃に殺傷能力があります。
水垣 ノジモフがどこまで組みができるかはわからないですけど、まあ面白い感じはしますね。
――シェイドゥラエフの試合で議論になってるのはレフェリーストップが遅いんじゃないかと。
水垣 あー、あれはですねぇ、見てたときは若干、遅いかなって感じがするんですけど。気になったのはレフェリーがいったん止めようとしてるんですよね。そのタイミングでシェイドゥラエフが一呼吸置いたのか、パウンドを止めてるんですよ。そこでレフェリーは止めるのをやめて、朝倉選手も動きがあったんですけど、見える位置の関係なのか、レフェリーは反対側にポジションを変えたんですよね。
――朝倉未来選手の顔が確認できる場所に移動したんですよね。
水垣 そこでシェイドゥラエフはまたパウンドを強めに打って朝倉選手が逆を向いたから、またレフェリーが逆に回った。2回位置を変えてるんで、タイミングとしては少し遅い印象があったと思うんですけど……位置とタイミングの問題でストップがかけづらかったような気がします。最初に止めに入ろうとしたときがすごくいいタイミングだったんですけど、そこでシェイドゥラエフが一呼吸、置いてしまったので。あそこでズレちゃいましたよね。
――朝倉未来に忖度してストップをためらったなんて言われてますけど、タイミングは図っていたわけですよね。どのタイミングで止めるのがベストなのか、と。
水垣 朝倉選手はこれが引退試合みたいな感じだったんですかね?
――いや、そういうわけでもないみたいです。
水垣 ああ、そうなんですか。ボクの理想の引退試合は最強の外国人と戦って終わることだったんです。マサ斎藤とスコット・ノートンみたいな試合ですよね(笑)。
――理想の引退試合はマサ斎藤vsスコット・ノートン(笑)。
水垣 ボクはあの試合が大好きなんですよ。マサさんは自分が見出してきた外国人に負けて終わるという。
――現実を突きつけられて、リングを去っていくと。
水垣 ボクの最後の試合はマネル・ケイプなんで、ある意味では理想なんですけど。試合をやった時点ではまだ引退試合としてやってなかったんで、ちょっと違ってはいるんですけど。
――マサさんといえば名物解説者でありましたけど、スコット・ノートンの小ネタが大好きで。「こないだノートンはおばあさんが乗った軽自動車に追突されたんですけど、ノートンは無傷でおばあさんのほうがケガしたんですよ」とか(笑)。
水垣 聞いたことがある!(笑)。
――あとトレーニングのしすぎで、ついていけない筋肉がついたとか(笑)。
水垣 ハハハハハハハ! RIZINの話をしなくて大丈夫ですか?(笑)。
――「令和のノートン」ことシェイドゥラエフに話を戻すと、朝倉未来は眼窩底骨折。水垣さんはこのケガの経験はありますか?
水垣 いや、ボクはないですね。今回朝倉選手はパウンドでケガしたんですかね。スタンドでいえば、ボクはおでこでパンチをもらうので。眼窩底骨折ってパンチの衝撃というよりは、目のくぼみとグローブがちょうどハマって、空気の圧で押されてやっちゃうらしいんですよね。あごを引いておでこでパンチを受けるスタイルだと、そうはならないんですよね。
――YA-MAN選手の練習中の事故もヘッドギア付き16オンスグローブでのスパー中でのことで。「嘘なんじゃないか」という声もあったんですが、水垣さんがおっしゃったかたちで起こりえるみたいですね。
水垣 いやあ、引退してから思うんですけど、格闘技は危ねえなあって(苦笑)。選手の練習を見てても「危ないな……」って思います。
――いま気付きましたか(笑)。
水垣 ボクは大きいケガをすることなく終わったんで、ラッキーですよね(笑)。
――ケガのリスクのない練習は基本的に難しいですよね。
水垣 100がベストだとして、100を超えるとケガすると思ってるんですけど。ボクは100を超えないように抑えてた気がするんですよね。でも、UFCランキング5位以上の相手に勝つには、もっと攻めた練習をしなきゃいけなかったのかなと。
――ケガのリスクがあるけど、そこまでやることで得られるものがあったと。
水垣 そうですね。でも、そこまでハードにやっていたら早めに壊れていたかもしれないです……。
――元谷友貴選手は14年間で53試合もやってますけど、デビュー当初から練習でケガをしない意識が高かったみたいですね。スパーでもムチャしないと。
水垣 元谷選手と何回か練習したことあるんですけど、柔らかいんですよね。あとスパーリングで「やった・やられた」を気にしてないというか、いま自分の課題を頭に入れてやってる感じがしますね。
――テーマを持ってスパーに臨んでいたと。試合直前でもガチスパーをやったほうが勝率が上がる選手もいるわけですよね。
水垣 ボクは打撃のガチスパーをギリギリまでやってたタイプなんで、その気持ちはすごくわかります。練習と試合はどこまでいっても別で。試合で本気で倒しにくる相手とは乖離があるんで、ギリギリまでガチスパーをやって緊張感を感じていたかったですね。
――ちなみに眼窩底骨折を隠して試合することは可能なんですか?
水垣 うーん、その度合いにもよると思うんですよねぇ。二重に見えちゃっていたら……ドクターチェックでわかっちゃうかなあ。網膜剥離なら検査で引っかかりますけど、手術が必要なやつを隠すのはたぶん難しいと思うんですよ。
――YA-MAN選手クラスのケガなら完全アウト。大晦日はリングで謝罪マイクをしてましたけど、自宅療養でいいですけどね。
水垣 あれ、風船が入ってる状態(風船を入れて陥没した骨を整復する治療法)ですよね。リング上から謝罪するのが彼の気持ちだったんじゃないですかねぇ。
――他で気になる試合ってありました?
水垣 ノジモフvsサトシは、もうなんか語ることもなく見たまんまですけど……。
――サトシのテイクダウンにノジモフがドンピシャのヒザ! この試合は急遽シャッフルされたわけですが、1ヵ月2ヵ月前に試合が決まっていたら展開は違ってきますよね。
水垣 それはありますね。サトシは気持ち的に早めに組んじゃえ!ってなったんじゃないかなぁ。対策していれば、こういうことが起きる可能性は低かったと思うんですよね。やっぱり時間がなくて対策をやりきれてないから、早く自分の展開に持っていきたい。ちょっとした気持ちの焦りだと思うんですよねぇ。
――「ちょっとした気持ちの焦り」が大きな負けにつながっちゃうんですねぇ。ノジモフも負ければ、「対策期間があれば……」と同じこと言えますよね。
水垣 いや、気持ち的にはノジモフのほうが圧倒的に有利です。気楽です。ボクがノジモフだったら、何も失うものはないし、暴れるだけ暴れて、やりたいことをやって帰ろうって開き直れます。逆にサトシはものすごいプレッシャーだったと思うんですよね。下の階級の選手だし、自分が格上で普通に勝つと思われてる。知名度も違うし、失うものが多すぎる。だからサトシはプレッシャーだったと思いますね。
――カード変更はサトシにとって流れが悪くなるものだったと。それにしても見事なカウンターのヒザでしたねぇ。
水垣 ヒザといえば、ミルコ・クロコップvs藤田和之ですけど(笑)。
――青木真也vs自演乙を挙げてる人もいるんですけど、あれはまた違うじゃないですか。
水垣 あの試合はなんか変なルールでやったんですよね?
――はい、変なルールです(笑)。1ラウンドがK-1ルール、2ラウンドはMMAルール。青木真也が1ラウンドは見苦しく逃げ回って、MMAラウンドでタックルを仕掛けたら気持ちよくヒザが……。
水垣 あー(笑)。
――次の話題は水垣さんがセコンドについた井上直樹選手の試合ですが、挑戦者サバテロに2-1のスプリットの判定負けになってしまいましたけども。
水垣 うーん、セコンドとして後悔することが3つくらいあるんですよね……。
――3つもあるとなると「セコンドのせいだ!」とか叩かれますよ(笑)。
・井上直樹敗北、セコンド3つの後悔
・バックが取れてしまったことが敗因?
・サバテロの後頭部の打撃
・アバラの負傷
・アイポークはホントに痛い
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