加藤和樹くん出演「ハムレット」を観て来た。
面白かった、難解だったけど。
演出家が目指したのは、ニューコンセプト。新たな演劇スタイルを作りたかったのだろう。
斬新な演出でこんな「ハムレット」観たことなかった。
素の舞台、やや上手寄りに八百屋舞台を作りそこから上手に外れたところに俳優の待合室が置かれている。下手には観客席が5~60席で観客が座っている。劇空間がそもそも歪んでいるし、空間を作るつもりもないのかもしれない。あらゆる物語はセリフと簡単な象徴的な小道具で進められる。
こうした舞台装置の元、ハムレットのストーリーはたくさんのおかずをまぶして進む。何が起こっているのか、だれがだれで誰が何をしたいのかが判明するまで、開演から物語の中身に入るまでが難しい。舞台の中に入り込めない時間が長く続く、眠たくなる時間が過ぎて、ようやくこのハムレットはこんな風に分かりにくい作りになっているけど、やはりハムレットなんだと分かると、面白くなった。そこに来るまでおおよそ、1幕の2/3ぐらいまでかかる。
チケット取って、ハムレットだろう分かっていると思って予習せずにちょっと油断して観に来ていた。演劇新概念作ろうとしているんだ、これは新しいハムレットなんだ、と分かってからの2幕に入っては、俄然あそこはどうするんだろう、あのセリフはどういう言葉になるんだろう、と興奮して観ていた。失礼しました、世界に冠たる演出家ジョン・ケアードさん、そんなクラシカルなハムレット作りませんよね。
舞台上の俳優はこれでもかというくらい今の日本のトップの舞台俳優が出演している。その最高の表現者たちが苦闘している。彼ら、彼女たちにも新概念のハムレットは演じにくいのだろう。誰もが知っているこの物語の筋立て通りにはこの舞台では物語は始まらないし進まない、誰もの頭に入っている有名なシェイクスピアのセリフがそのままには語られない、もっと言えばそれらの進行には不必要なセリフやアクションがたくさん入っているように見える。だから俳優たちは何とかそれぞれの登場人物の心情と物語の進行を伝えようと必死に取り組んだのだろう、その分、時にオーバーアクションや過剰表現の領域に踏み込んでいるように見える。
歴戦のつわもの俳優たちの中に入って、加藤くんは努めて冷静に抑えた演技で闘っていた。とても好感が持てた。目の前の演じなければいけない事柄を、いつもの彼の真面目な性格からだろう、とても素直に表現していた。彼をずーっと見て来た僕のひいき目の気持ちの傾きがあるのかもしれない。でも、そうはいっても彼の彫りの深い顔立ち、厚い胸板とがっちりした肩とプロポーション、たっぷりとした長い髪の毛とそのなびく風情、声の響き、もしかしたら若さがもたらしたアドバンテージなのかもしれないけど、このシェイクスピア劇に彼の風貌が良く似合っていたことには確信がある。
楽屋で和樹に会って、面白かった、でも観ていて疲れた、観るのに体力の必要な舞台だった、と素直に伝えたら、言葉では答えてくれずに、表情でちょっと疲れてます、という顔してくれた。俳優は楽屋でもどこででも、自分の舞台に疲れたなんて言葉、言いませんよ、という彼の真面目さが現れる顔だった。
日曜日の「STAGE DOOR」を楽しみにしています、よろしくお願いします、と丁寧に言われ、握手して別れた。
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