片岡義朗ブログ

「鬼滅の刃」感想20210104

2021/01/04 14:29 投稿

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「鬼滅の刃 無限列車編」の感想を書いてみた。 

【印象】
この映画がめったにないくらいアニメ表現の仕上がりが素晴らしいという事は分かった。
アクションシーンのアニメーション、背景含めた画面構成とその繋がりの美しさ、キャラクター表現の派手さ、セリフの決まり具合が、ストーリーの単純さを忘れさせ豪華な映画の印象を残している。
メロディの繊細さが情景を深め感情を増幅させるBGMの心地よさ、画面から来る感覚と聴覚のいずれの効果も目と耳を楽しませてくれることも分かった。どの一つの画面にも作り手の熱と思いが詰まっていて、すばらしい迫力を感じさせてくれる。
なのでなぜヒットしたのか、という理由もよく分かる。
でも感動したとか面白かったとは僕には思えなかった、個人の趣味の問題だろうと思う。 

【テーマ】
死をテーマにしたかったのだろうが、それはかなり無理があると思った。冒頭の「お館様」が鬼殺隊員の墓標の並ぶ墓場の中で死者の言葉を聞き取ろうとしてる場面、「下弦の壱」の死の場面、最後の「煉獄杏寿郎」の死の場面、彼らのダイイングメッセージに、生きているときに何をしなければならなかったか、何をしたかったか、それが出来たか、人はそれを分かってくれるだろうか、を自問させ答えを語らせようとしている。
これがテーマなのかと思うが、何十人も死んでいることがこの物語の前提なので、何十人分の思いが墓標の羅列の描写だけでなくもう少し何かが出ていればまだしも、たった2人の死の間際の声からではテーマと言うには芯を突いたとはいいがたい。
死を描写して、生を思い返す、というのがテーマ性を語る演出なのだろうと思う。死の淵から生を見るという視点は新しいんですよ、と言いたかったみたいに見える。墓場の場面入れてテーマを暗示することから始めたのは、最後の煉獄の死に繋がるので、工夫とは思うが。
でも、「上弦の参」に逃げられたので一つの映画としては、事件は最終的には解決していない。テーマの死より、逃げたあいつをなんとかしなければいけない、そっちの印象が映画の半分くらいの読後感として残る。 

【ストーリー評価】
ストーリーは一本道で単純で、単なる鬼退治の話で何か感動を誘う点はないと思った。伏線はほぼ無い。
主人公炭治郎は前半では主人公扱いだが全編を通して活躍するわけでは無い。この映画のストーリーのどこが面白いのか、分からない。だが単純なだけに分かりやすい、だれでも分かる、間口が広い。これはヒットの必要条件かもしれない。
でも、と思う、死を扱えばだれでも悲しくなるのは人情なので簡単に泣きたくなる。そんな安直な方法はその物語を安くする、と思うので、僕は、死を長く緻密に描写してその場面で泣かそうとする作品は、僕の作品感では安物の部類に入れている。
この映画ではそこはやはり冗長で少なくとも面白くはない。 

【ストーリー】無限列車で40人が行方不明、で鬼殺隊出動。煉獄杏寿郎さんが頭。炭治郎・伊之助・善逸・禰豆子(以下ネズコ)も箱に入って参加。
鬼殺隊が列車に乗り、切符を車掌に切られたところで下弦の壱の夢術にかかり全員が眠る。術にかからなかったネズコが皆を起こそうとするが出来ない。炭治郎は眠って現世とあの世の混ざった夢でいい気持ちになっていて目が覚めない、ネズコは下弦の壱と戦いながら炭治郎を無理やり目を覚まさせる。炭治郎が下弦の壱と戦い勝つが傷つき次の戦いに参加する余力が無い。ボス鬼の上弦の参が表れ煉獄さんが上弦の参と戦うが寸前でヤラレてしまう。炭治郎も上弦の参に一太刀浴びせるが、夜明けの太陽が出てきそうになり、上弦の参は林に逃げ去る。乗客は1人も死ななかった。


 

【キャラクター】
派手で際立つ。
ありえないような奇抜さを持つキャラがいる、イノシシの被り物、口にクツワはめた妹、髪の毛が橙色の煉獄さん、みんな奇妙な姿かたちだがスッキリしていてカッコ良い。絵的にも色使いも姿形にも今までには無い独特感が有るキャラクターが出てくる。キャラクターに色数が多いので見ただけで派手に見える、逆にスミ単色のキャラも目立つ。衣装、ヘアスタイル、顔の化粧が派手、何もかも派手で見栄えが良くできている。イケメンだけでは無いキャラクターの独創的なアイディア、目立つすがたかたち、ヘアスタイル、皮膚の模様、目の鋭さ、女目線のスタイリッシュなキャラクターデザイン。随所に出てくる少女漫画風の2頭身デフォルメお茶目キャラでのお遊び、これらのすべてのキャラデザが受けた大きな理由だろう。

 

【アニメーション&演出】アニメーションも演出もとにかく作りが派手、最後のアクションシーンの演出が抜群。動きの凄まじさ、色使いの派手さ、色味の付け方、炎・渦巻き・刀の動き・主観のカメラで拳が向かってくる、切れた体の戻り方の素早さ、などなど言うことない。過去のアニメ映画でもこれはどの肉体のアクション場面は見た事ない、素晴らしい。部分を見せて、あっという間にアップの顔見せて、身体全体見せてアクションに移るといった演技の組み立て、キャラクターのポージング、表情の追いかけ方、などのキャラクターの見せ方の演出がお手本通りで素晴らしい。絵が綺麗、画面が綺麗、背景美術の作り込みが緻密でしかも綺麗、あらゆる演出の工夫が素晴らしい。セリフのかっこ良さ、静かだが強いセリフ、台詞が決まってる=特に煉獄の言葉が簡潔で綺麗であのセリフがあればあの簡潔明瞭な声の芝居に行きつくだろう。

 

【雑感】
★煉獄の死の間際の言葉、ネズコは人間を助けようと鬼と戦ったので、彼女は鬼ではなく、鬼殺隊の一員だと。妹を思う炭治郎の気持ちを楽にする一言が死に際の言葉って、こういうのも家族愛もテーマの一つです、という気配りの演出ですね、ちゃんと抑えるところは押さえている。
★「週刊少年ジャンプ」の王道の少年のアクションヒーロー系漫画なのに、少女漫画の匂いを出していて、そこが、もはや半数が女性となったジャンプの読者に受けた。女性作家が描く男の子の王道アクション漫画、っていうのが新しく、女性受けのキャラクター満載と少女漫画風小ネタで、これは受ける、と思った。それが、「からす」に煉獄の死を伝えさせるというエピローグで、イケメンキャラ総出演のサービスカットにつながったのだと思う。作り手は分かっている。
★素晴らしい映画は認めるけど、これほどの超大ヒットになったのは、どうも岩上敦宏さん、高橋祐馬さんのアニプレックスの緻密な宣伝と言うかどうやったら映画をヒットさせられるかの戦略と戦術に乗せられた感はある。戦略を、コアを腐女子としそこから小さく始めると言う工程表を作り、それに従って戦術を積み重ねた。密かに始めたかの如く見える小メディアでの深夜アニメ、わずかな期間しか公演しなかった2.5舞台で腐女子に自分たちが見つけた、これは育てねばとハートに火をつけ、彼女たちの口コミが最強のプロモションになることを完璧に使いこなした。一旦、評判が流れ始めれば、少年の成長の物語と言うジャンプ王道漫画が力を発揮し少年も少女もやってくる、その計算の通りになっている。結果が300億になる、分かってる、戦略の勝利だ、素晴らしい。
★パンフレット1100円に何で、エピローグに総出演したイケメンキャラの絵柄を一人も出さなかったのだろう、そうすればもっと大勢の腐女子がパンフかっただろうに。
惜しいと思う。完璧に思えるこの映画にたった一つ見つけた針の孔ほどのミスかな。

 

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