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【新連載】根津孝太「カーデザインの20世紀」第1回:スーパーカーブームを彩った幻の名車――ランボルギーニ・イオタ ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.365 ☆

2015/07/14 07:00 投稿

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【新連載】
根津孝太「カーデザインの20世紀」
第1回
スーパーカーブームを彩った幻の名車
――ランボルギーニ・イオタ
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.7.14 vol.365

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本日は、カーデザイナー/クリエイティブ・コミュニケーターの根津孝太さんによる新連載「カーデザインの20世紀」第1回をお届けします。前世紀の様々なカーデザインを振り返りながら、未来のモビリティの機能とデザインを考えていきます。初回に取り上げるのは、「ランボルギーニ・イオタ」です!


今、モビリティの未来について注目が集まっています。Googleが自動運転車を実用化に向けて急スピードで開発する一方で、日本では若者のクルマ離れが言及されるようになっています。後者については真偽のほどは定かではありませんが、ともかく21世紀に入り、モビリティが大きく変化していることは間違いないでしょう。

自動車を取り巻くテクノロジーや市場の変化は、様々な場所で議論されています。しかし、モビリティを考える上であまり語られていない視点があります。それは「デザイン」です。

20世紀は「自動車の世紀」とも言えるかもしれません。フォードが世界初の本格的な大量生産車「タイプT」を世に送り出したのは1908年のことです。以来、自動車はテクノロジーの進歩に合わせてより効率的に移動できるよう改善され、工業力の結実である有力な商品として重要視されてきました。自動車のこうした側面については改めて語るまでもないでしょう。

しかし、自動車は単なる道具や商品を超えた「象徴」としての力も持ち合わせています。あるときは国家の威信、あるときは成熟した大人の男──こうした象徴を担ってきたのは、車の技術的進歩や商業的価値以上に、そのデザインでした。

そこで本連載では、カーデザイナー/クリエイティブコミュニケーターの根津孝太氏に、これまで自分が愛してきた車についてお話を伺っていきます。電動バイク「zecOO」やコンセプトカー「トヨタCamatte」、そして着せ替え可能という斬新なコンセプトで話題を呼んだ「ダイハツCopen」など、氏の率いるznug designは、モビリティデザインの最先端を走っています。その根津氏の偏愛の歴史を通じて見える20世紀のカーデザインから、自動車の本質、そして21世紀のモビリティを考えていきます。

▼プロフィール
根津孝太(ねづ・こうた)
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多く の工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。賛同 した仲間とともに「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク『zecOO (ゼクウ)』の開発 に取組む一方、トヨタ自動車とコンセプトカー『Camatte (カマッテ)』などの共同開発 も行う。2014年度よりグッドデザイン賞審査委員。

◎構成:池田明季哉


■ ミウラ、カウンタック、そしてイオタ

僕が小学校に入ったころ、ちょうど日本はスーパーカーブームでした。カーデザインの歴史を彩るいろいろな華々しい車たちが子供達の間で大人気になりました。僕もその洗礼を受けたひとりです。その中でも幼少期の僕が一番傾倒したのが「ランボルギーニ・イオタ」という車です。もともとミウラというモデルをパワーアップさせたのがこのイオタなのですが、実はテスト走行中に謎の爆発炎上事故を遂げて廃車になってしまうという、ドラマチックな最期を遂げています。それ以降、レプリカは幾つか作られたのですが、オリジナルはとうとう失われたままとなってしまいました。「スーパーなものは儚く消えなくてはならないのだ」という美学もセットで、子供の僕に強烈な印象を与えた車です。

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読者の方には「スーパーカーブーム」って何? と思われる方も多いでしょう。70年代半ばに、日本で爆発的にスーパーカーが流行し、一種の社会現象になりました。スーパーカーは一言で言えば高級で高性能なスポーツカーのことですが、そこには長い文化的伝統が息づいています。歴史を遡れば、自動車は馬車から派生しています。馬車はイタリア語で「カロッツェリア」と呼ばれる徒弟制の工房で、貴族のためにオーダーメイドされる高級品でした。富裕層のステータスとして作られていた豪奢でスーパーな馬車は、時代が進み産業革命が起きると、今度は自動車へと移り変わっていきました。同時にカロッツェリアは次第にただ単に高級で高性能であるだけではなく、自動車文化の歴史と伝統の最先端にあるものだけが、スーパーカーと呼ばれているのです。当時の日本の子供たちが熱狂したのも、こうした伝統の凄みがデザインを通して伝わったからだと思います。

こうしたスーパーカーを生み出す最も有名なブランドのひとつが「ランボルギーニ」です。ランボルギーニは、1960年代はじめにフェルッチオ・ランボルギーニによって創業されたイタリアの企業です。第二次世界大戦後に軍用のトラックを民生用に改造して販売するところからはじまったランボルギーニは、自社開発した高性能なトラクターで市場の高い評価を得ていました。富を築いたフェルッチオは、さまざまな車を購入しますが、どれも満足のいくものではありませんでした。「もっと快適なスポーツカーを作りたい」との思いから、当時スポーツカーメーカーとして名を馳せていたフェラーリを追いかける形で、高級車の制作へと乗り出します。

スーパーカーブーム当時、ランボルギーニには「ミウラ」と「カウンタック」というふたつの代表的なスーパーカーがありました。どちらも当時一世を風靡したデザイン工房「カロッツェリア・ベルトーネ」に在籍していた天才カーデザイナー「マルチェロ・ガンディーニ」のデザインです。ミウラは1966年に発表され、ハイパワーなV12エンジンをミッドシップに搭載した当時としては斬新なレイアウトと、流れるような美しいデザインから一躍人気モデルとなりました。そして1971年に発表されたカウンタックは、これまでのスポーツカーの常識を全て覆す革命的なデザインとして、後世に名を残すことになったのです。

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▲ランボルギーニ・カウンタック(上)、ランボルギーニ・ミウラ(下)


■ カウンタックの起こした革命とイオタに宿る「乗り物」の本質

カウンタックは天才ガンディーニが、車としてのフォーマットをぶち壊した一台です。それまでのスポーツカーは曲線的なデザインが主流でしたが、カウンタックはこれまで見たことのない直線的なウェッジシェイプで、非常に先進的で未来的なデザインに誰もが驚きました。ドアには縦に回転して開くシザース型(ブーム当時は「ガルウィング」と呼ばれていました)を採用するなど、さまざまな方法を駆使して、かつてないフォルムの一体感を追求したのです。当時のお子様が騙されるには十分な、派手派手な要素を備えた車だったというわけです(笑)。

対してミウラは、デザインされた時期が旧いこともあり、比較的オーソドックスなスポーツカーに位置付けられます。曲線的で、いわゆる「色気」のあるフォルムを、子供心にとてもキレイだなと思っていました。

イオタはそのミウラをカスタムした車です。カウンタックとミウラが市販車であるのに対して、イオタは実験的に作られたワンオフの車両。そのためデザインにも、市販車らしい要素を削いで削いで研ぎ澄ませていく要素があります。タイヤがあって、それを包み込むフェンダーがあって、キャビンがあって……それぞれの要素が何とも言えないバランスを保っている。子供の頃はそんな風には思っていませんでしたが、言葉にできないなりに、生意気にもそのアイコニックな魅力を感じ取っていたのでしょう。

カウンタックの一体感のあるデザインは、自動車とはどうあるべきかという既成概念を全く覆すものでした。デザインにおいてこうした革命が重要なことは言うまでもありません。自動車のデザインは、馬車をその前身としています。だから自動車が生まれた頃は、馬のいない馬車のようなデザインをしていました。フェンダーひとつ取っても、近年の車のようにボディと一体化するまでには長い年月がかかっています。

だから「全ての要素が一体となるべきなのではないか?」という発想は、自動車史における大きな発明だったのです。カウンタックはその究極にチャレンジした車と言えるでしょう。全てを一体化することで、ボディを抵抗となる突起がない形状にして、空力の良さを追求したのです。当時の空力解析技術は現代ほど十分でなく、実際にカウンタックの空力性能がどれほどのものだったかは疑問の余地もありますが、ともかくそのデザインが「空力が素晴らしいのだ」という圧倒的な説得力を持っていたことは間違いありません。

カウンタックは、当時からやはり一番人気のある車種のひとつでした。そしてその系譜は現代まで連綿と続いています。90年代のディアブロ、00年代のムルシエラゴ、そして10年代のアヴェンタドール──ランボルギーニを代表する車種は、全てカウンタックの現代版アップデートとも取れるデザインになっています。よく言えば伝統を重んじているわけですが、悪く言えば焼き直しとも取れるかもしれません。ともかく、スーパーカーと言えばランボルギーニ、ランボルギーニと言えばカウンタック、と言っても過言ではないくらい、代表的な車種なのです。

これに対してミウラ、並びにイオタは、完成度の高いデザインではあるものの、それまでのスポーツカーの流れを踏襲した、比較的オーソドックスなラインです。人気がないわけではありませんが、カウンタックほどではありません。しかも車そのものが爆発炎上しただけでなく、歴史の中からもそのデザインの系譜は、少なくともランボルギーニの直系からは消失しています。しかしそんなミウラ・イオタに、どうして子供の頃の僕は魅せられてしまったのか。振り返って考えてみると、そこに僕が考える「乗り物」の本質が浮かび上がってくるように思うのです。

僕が考えるところ、イオタの魅力はふたつあります。それは「EVO感」と「要素へのリスペクト」です。


■「EVO感」はデザイナーの見た新たなる地平の追体験

「パワーアップはかっこいい!」そう思わない男子はおそらくいないでしょう。「EVO」は「進化」を意味する英単語「evolution」の省略形で、進化やパワーアップを遂げたデザインを表す造語です。男の子はみんな、EVOに夢中になるのです。例えばマジンガーZに対してグレートマジンガーはそのEVOであり、ガンダムに対してはZガンダムやZZガンダムがそのEVOです。あるいは最近ポケモンに導入された「メガシンカ」のデザインは、進化という意味ではより直接的にEVOを体現していると言えるでしょう。イオタは徹底的にミウラを改修し、その限界に挑戦した車でした。ミウラに対して、イオタはまさにEVOなわけです。

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▲リザードン(上)、リザードンがメガシンカを遂げたメガリザードンY(下)(SP-002 リザードン|タカラトミーSP-16 メガリザードンY|タカラトミーより)

では子供の頃の僕は、あるいは古今東西津々浦々の少年たちは、なぜEVOのデザインにそれほどまでに夢中になったのでしょうか。


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