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【新連載】
他社のマンガにヒトコト言いたい!
ーー現役漫画編集者匿名座談会2015
第1回
『ゴールデンカムイ』『東京タラレバ娘』『少年Y』
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.7.15 vol.366
今日のメルマガでは新連載『他社のマンガにヒトコト言いたい!ーー現役漫画編集者匿名座談会2015』の第1回を配信します!
「いま、本当に読まれるべき漫画はどのような作品なのか――?」業界の最前線で、常に締め切りと校了のはざまに生きるアラサー編集者トリオが、深夜のPLANETS事務所に集結。毎回、いま最も人に薦めたい1作品を持ち寄り、現役漫画編集者ならではの視点で語り尽くします。今回取り上げるのは『ゴールデンカムイ』『東京タラレバ娘』『少年Y』の3作です!
▼座談会参加者
ししまる:青年誌の編集者。30代。高校野球と戦史シミュレーションゲームをこよなく愛する。最近は登山にも興味があるが山に行く時間が取れないのが悩み。
薫子:女性漫画誌の編集者。30代。最近ロハスに目覚めるも仕事が不定期過ぎて挫折気味。朝の情報番組の誕生月占いを真に受けるのをそろそろやめたい。
ジェイ:マニア系雜誌の編集者。20代。夜遊び三昧の不摂生を改善すべく、ロードバイクでの通勤を始めたところ、深夜の帰り道で何度も職質される羽目に……。
◎構成:飯田樹
■ 『ゴールデンカムイ』――細かい時代考証に裏打ちされたエンターテイメント
ししまる 僕は『ゴールデンカムイ』(野田サトル・「週刊ヤングジャンプ」)を持ってきました。これは、明治後期の北海道が舞台で、アイヌが持っていた金塊をめぐる話です。「不死身の杉元」と呼ばれた元軍人とアイヌの少女が主人公の、凸凹コンビのバディものですね。ヤンジャンは新連載が結構当たっていて、今勢いがある感じで、これも『キングダム』(原泰久)、『テラフォーマーズ』(作:貴家悠、画:橘賢一)、『東京喰種 トーキョーグール:re』(石田スイ)に続く雑誌の柱となる作品ではないかと思っています。作者は2003年にデビューして、2006年に「第54回ちばてつや賞」のヤング部門大賞を取っています。賞を取ったものの、なかなか本誌連載に結び付かず、他社に流れたというよくあるパターンですね。設定をちゃんと作り込んでいて漫画漫画していない最近の青年誌らしい作品です。
薫子 私この作品はちゃんとリアルタイムで追っています。かなり雑学が詰め込まれているんですよね。
ししまる 雑学は細かいですね。当時のアイヌの生活様式や食事といったディテールを丁寧にやっているので、リアリティがあります。ちょっと『乙嫁語り』(森薫)に近いかもしれないですね。
ジェイ 料理する場面をきちんと描いているところが、『ダンジョン飯』(丸井諒子)にも近いかもしれません。リスの肉を刃物で叩いた料理、「チチタプ」を作って食べる時に、どうやって皮を剥いで捌くのかを詳しく説明するところとか、手順を割と丁寧に描いているんですよね。
ししまる そのへんが丁寧に作られているので、この物語はきちんと進んでいくんだろうなという安心感がありますね。あとは単純に、この2人のキャラが大変良い。今3巻まで出ているんですけど、4巻に該当する範囲でまた話が大きく動くんじゃないかと思います。アイヌが隠した埋蔵金で、現在の貨幣価値で8億円相当の金を盗んだ奴がいるんですけど、それが実はもっと多かったという話になるんですよね。
ジェイ そうそう。途中で、自分たちが追っている金塊が本当に8億なのかという話になって、全部を握っている土方歳三が8千億だと言い出すんですよ。8千億もあれば国がひっくり返せるわけで、「桁増やせばええやん!」という竹で割ったような面白さがあります。
ししまる 北海道に独立国を作ろうとしているんですが、作者が北海道出身のためか、当時のアイヌ文化の考証が非常にしっかりしてますよね。アイヌ語に監修をつけているし、資料も参考文献として書いていないものも含め大量に読んでいるだろうし。最近の歴史モノは、史実に基いて演出で漫画的にしていくタイプと、完全にフィクションで作るタイプのどちらかが多いのですが、史実に寄せた場合、どんなに良いキャラクターでも死ぬときは歴史で決まっているから、必ず死なないといけない。完全なフィクションにオリジナリティを練りこんでいく場合は全部が嘘と言えば嘘なので、青年誌的なリアリティでは少し弱くなる印象があります。でも、『ゴールデンカムイ』はうまい具合にその中間をやっているので、意外と読者層は広い感じがします。あと、出てくるメシがいちいち美味そうなんですよ。
ジェイ 僕はメシのところはどうでもいいです(笑)。とにかく本筋が面白くて、主人公はどんなピンチになっても、自分のことを「俺は不死身の杉元だ!!」と言って切り抜けている。この振り切り方は、なかなかできないですよ! 最近では珍しくパワーを感じさせるキャラなので、個人的に好きなんですよね。どんどん強い敵が出てくるから「これぞ古き良き少年漫画!」と思っています。
薫子 私は敵が出てくるところにはあんまり興味ないんですよ。杉本とアシリパのキャッキャウフフの方が好きですね。お互い意識していないのに若干、共依存気味というか、そういう関係になってほしいなと個人的に期待しています。1人は軍人上がり、もう1人はアイヌの子として育ってきて、文化圏は違うのにこの2人だけは仲間になっている感じが美しい。
ジェイ この作品は、読む人によって主菜と副菜が変わるんですよね。それと、日露戦争後の北海道を舞台にしたサバイバル漫画でこれだけ売れているのはすごいなと思います。宝探しとか新撰組といった派手なエッセンスをうまく混ぜていて、興味がない人でも読めるエンターテイメントに仕上げている。関節外せる脱獄王なんかも、史実のキャラをモデルにしていますよね。あとはやっぱり漫画の技術。印象的なセリフがあるし、見開きでドーンという展開がありつつ、地味に所々ギャグを入れて読みやすくしている。ここまで緩急をつけられるのは、漫画家と担当編集者の両方に力量がないと無理ですね。週刊だと情報を詰め込みつつ話を進めないといけないから、1ページぶち抜きは特に難しいんですよ。
ししまる 担当編集者はすごい作業量だと思います。アイヌ語ひとつとっても、監修に北海道アイヌ協会の人が付いていて、表現的に揉めそうな部分を、かなり丁寧にフォローしてるんじゃないかな。やっぱり差別意識は無意識的なところに出るじゃないですか。ひとつでも間違いがあったら作品全部がダメになるので、「やること多いぞ、この作品は」と思います。そういう部分に手間をかけて作っている感じはすごく好印象ですね。僕、読者が漫画を読まなくなる原因の一つに、「作者の思いつきに付き合わされる不満」というのがあると思うんですけど、この作品はしっかりと考えて作っているのがわかるので、安心して読めます。
薫子 今はフックを多くしてるけど、いずれは方向性を絞らないといけないかもですね。青年誌なのでバトルの方向に絞っていくと思うのですが、小ネタがあるのも青年誌の良さなんですよね。個人的には、杉本とアシリパが袂を分かつ時が来るかどうか、というところが気になります。分かつ瞬間って読者に強いストレスがかかるから。
ジェイ 土方歳三と杉元がタイマンして、最後に「俺が不死身の杉元だ!」と言いながら倒す場面が来るのはもう分かっているんで、それさえ見せてくれれば僕はもう満足です。本当に、くどいほど連呼するって大事ですね! セリフだけで説得力が出るような力技はやっぱり憧れます。
ししまる キャラが少年漫画的にもアイコン的にもちゃんと立っている。ただ、この作品は漫画としてはすごく良いんですけど、丁寧に作りすぎていてメディアミックス的な広がりという意味では厳しいですよね。
ジェイ 『るろうに剣心』みたいな実写映画にして欲しいんだけどね。前後編で30億円くらいかけて。ただ、女性が見に来る気配が全くないので企画が通りそうにない(笑)。こういう映像にしにくい作品をやってくれたら、日本映画にもまだ良心が残っていたのかと思えるんですけどね。映像にすると映えそうだし。俺が、アラブの石油王だったら30億出すのに……!
■『東京タラレバ娘』――アラサー女子の「見えない不安」にグサッと刺さる
薫子 私が持ってきたのは『東京タラレバ娘』(東村アキコ・「Kiss」)です。これは東京オリンピックの開催が決まったところから話が始まります。アラサー女子3人が、このまま独身のままで女子会ばっかりやって、「私って○○だっ”たら”モテると思うんだよね」「あの時○○して”れば”○○だったはず」っていう会話ばかりしたまま、東京オリンピックを迎えることになるかもと予感し、焦り出す。みっともない女子たちの話です。「〜たら」「〜れば」の話ばかりしているから「タラレバ娘」。
ししまる この作品は、アラサー女子3人のディテールが本当によくできていますよね。
薫子 1人目は脚本家。そこそこちゃんと脚本も書いているんだけれども、最近「ちょっと古い」みたいなことを言われ始め、仕事がじわじわ減ってきている。
ししまる そして、若い頃の自分みたいな子に仕事を取られつつある。しかも、ベタクソな恋愛モノしか書けなくて、「この方向性だとマズイんじゃ……」となっている女子。2人目はネイルサロンを経営している女の人で、売れないバンドマンの元カレを捨てて医者に浮気したら、バンドマンが売れだして、若いモデルの彼女がいない間に高層マンションに連れ込まれる。もう1人は、居酒屋でお父さんの手伝いをしている「私、すごく身持ち固いんです」みたいな女子で、アッサリ不倫にハマる。
ジェイ 最新号読んだ? その3人目が「いいな」と思った男は既婚者で、今は別居中だと言っていたんだけど、実は別居の理由が奥さんが臨月で里帰りしているだけだと判明する(笑)。
薫子 1話目から酷いんですよ。10年前に振ったさえない男が、再びデートに誘ってきたと思ったら、自分の部下の女の子に結婚前提で告白したいという相談を受ける…。「これは自分の身に起きる可能性あるね!」ってなります。東村さんは少女漫画の文法を持っている人なので、少女漫画的な夢を見せながら、現実に落としこんでくる。でもその中に救いとして、主人公は昔振った男に相手にされなくて傷ついてるけど、韓流スターみたいな若いイケメンとはヤれる、というファンタジー要素はあるんですよ。
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