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【新連載】 橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第1回:なぜイギリスなのか ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.180 ☆
今日の「ほぼ惑」は、現役官僚の橘宏樹(仮名)さんによる新連載「現役官僚の滞英日記」の第一回目となります。スコットランド独立選挙から、中東のテロリストの話題まで、現役官僚ならではのリアルな視点で、最新の英国事情をお届けします。その過程で見えた、「課題先進国」日本が学ぶべき「先進する国」イギリスの姿とは――?
▼プロフィール
橘 宏樹(たちばな・ひろき)
▲スコットランド独立反対派の庭にプラカード
はじめまして。橘宏樹(仮名)と申します。男性で、官庁に勤務しています。今夏から2年間、政府派遣でイギリス留学に来ています。これから、月に一度、イギリスで僕が学んだこと、感じたことのなかから、ぜひ、みなさんと一緒に考えていければと思います。
みなさんは、イギリスにどういうイメージを持たれていますか。イギリス英語の発音はアメリカ英語と違うらしい、ビートルズ、プレミアリーグ、カッコイイ時計台つきの議会、シャーロック・ホームズ、赤いバス、雨が多い、大英博物館、ハリー・ポッター、007、ご飯が美味しくない……などなど、イギリスは世界にいろいろな個性を発信していると思います。
ちなみに、2013年の一人当たり名目GDPでは、日本は24位、イギリスは23位とほとんど変わりません。しかし、1990年代以降日本がもがいている一方、イギリスも様々な経済問題を抱えつつも、この20年間、いちおう右肩上がりの経済成長を維持しています。ただ、日英ではいろいろなことが違いますから、この数字の扱いには注意が必要です
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■スコットランド独立投票と2015年総選挙
既に日本でも様々に報道があったことと思いますが、9月18日に、スコットランド独立の是非を決める住民投票がおこなわれました。私は投票日の前後に、エジンバラのスコットランド議会前に集まる若者たちを見てきましたが、一昼夜、集会所や投票所、議会前、投票結果の発表会場などを歩いた限りでは、独立賛成派の人たちも、NOにおさまったことにホッとしているような空気を感じました。
また、投票直後に、独立賛成派のリーダーのスコットランド第一首相は辞任したのですが、その引き際の鮮やかさにも目を見張るものがありました。賛成派・反対派の統合を促す効果があったと思います。
その一方で、保守党政権が、独立を思いとどまったスコットランドに示した財政分権等の譲歩は、むしろイングランド地方にも大きな分権を認めるべきという議論をも喚起して、目下、討論が白熱しています。と同時に、住民投票を推進し、16歳の投票も容認するなどして、かかる緊迫した事態を招いたとして、キャメロン首相を降板させようという動きも、今後保守党内で加速していきそうです。
他方で、労働党はというと、およそ250議席中の40議席をスコットランドに保有しているので、独立によってこれを失う可能性があった割には、独立反対運動において影が薄かった気がします。しかし、投票後の労働党大会では、スコットランド労働党と中央の労働党は、対保守党、対UKIPとの選挙戦に向けて、団結を確認できたようです。
地方分権は引き続き、来年5月の総選挙でも最大の争点になりそうな趨勢です。与野党の政治的駆け引きは、これからが本番となってくるでしょう。
▲独立賛成派はスコットランド旗と民族衣装で意思表示
■ジハード(聖戦)に参加するイギリス人
日本でもBBCの報道に接しておられる方はきっとお感じになっておられるとおり、イギリスのメディアにおける中東情勢への関心は極めて高く、毎日何かしらトップニュースに上がっています。これは日本のメディアとの大きな違いだと思います。
イラクの過激派組織「イスラム国」はアメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリー氏を「処刑」し、2014年8月19日、その動画を公開したことは日本でも大きく報道されたようですが、イギリス国内で非常な衝撃を与えたのは、この殺害を行った人物として最も疑われたのがイギリス人であったことです。
輸送機を派遣して難民を救出したり、中東に新しく3つの軍事基地の建設を検討したりと、シリア・イラク情勢に極めて深く関わっているイギリスにとって、敵側に加担する自国民がいたことは、国民感情としてやはり大きなショックだったのだと思います。イスラム国側もこの点を狙ってPRに利用したと考えられます。
イギリス保安局は、ここ数カ月の間でイギリス国内のムスリムの若者およそ500人が、シリアおよびイラクのジハード組織に加わるために出国したと推定しており、イギリス発給のパスポートを持つ彼らが自由に往来し、テロ活動に携わることを極めて問題視しています。
テロ活動への参加が疑われる者のうち、二重国籍保持者やイギリス以外で出生した者のパスポートを取り上げる施策が発表されるなど、彼らをいかにして取り締まるかについて毎日のように各紙紙面上で議論が交わされています。
▲エジンバラのスコットランド議会前
■なぜイギリスか
さて、では、そんなイギリスを僕が留学先として選んだのは、どうしてでしょうか。それは、イギリス人の、特にリーダー層は「何かがすごくうまい」という気がしていたことがあります。
僕が最初にそう感じたのは、高校の世界史の授業で、帝国主義時代のイギリスが、インドを植民地支配する際に、民衆の恨みを直接買わないよう、現地支配者層を間に挟んだ「間接統治」を展開したり、ジブラルタル海峡、ケープタウン(アフリカの南端)、香港、シンガポール、スエズ運河といった地政学上の要所を、ピンポイントで確保していたりしたことを教わった時です。
当時僕は、「この人たちは、少しずるい気もするけど、戦略家、リアリストとして『センス』がいいのではないか」という印象を受けました。しかも、100年くらい全世界の制海権を握っていたということは、一時期に突出したリーダーがいたというだけではなくて、伝統的、集団的、組織的な形でそうしたセンスを共有していたのではないか、そして、今もその薫陶が残っているのではないか、と考えたのです。
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