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起業家・家入一真インタビュー 「何者でもない、みんなが『バカ』になれるオリンピックを実現したい」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.080 ☆

2014/05/28 07:00 投稿

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  • PLANETS_vol.9(東京2020)

起業家・家入一真インタビュー
「何者でもない、みんなが『バカ』
になれるオリンピックを実現したい」
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.5.28 vol.80

今日のほぼ惑は、起業家の家入一真さんが登場。「体育会系にルサンチマンがある」と言って憚らない家入さんは、2020年に東京で開催されるオリンピックについていったいどんなことを考えているのでしょうか―ー?

【PLANETS vol.9(P9)プロジェクトチーム連続インタビュー第7回】 

この連載では、評論家/PLANETS編集長の宇野常寛が各界の「この人は!」と思って集めた、『PLANETS vol.9 特集:東京2020(仮)』(略称:P9)制作のためのドリームチームのメンバーに連続インタビューしていきます。2020年のオリンピックと未来の日本社会に向けて、大胆な(しかし実現可能な)夢のプロジェクトを提案します。 
 
今回お話を聞いたのは、先日の都知事選への出馬も記憶に新しい起業家・家入一真さん。
家入さんは去年の1年間、様々な場所でお祭りを観続け、その独特な魅力に魅せられたといいます。「昔から運動が大嫌いだった」とこぼす彼が考える、2020年のオリンピックの理想像とはどのようなものなのでしょうか――?
 
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▼プロフィール
家入一真(いえいり・かずま)
1978年生まれ。福岡県出身。株式会社ハイパーインターネッツ取締役。BASE株式会社共同創業取締役。カフェプロデュース・運営partycompany Inc.代表取締役。スタートアップベンチャー投資partyfactory Inc.代表取締役、モノづくり集団Liverty代表など、さまざまな業種のベンチャー企業に参画している。2014年、東京都知事選出馬。主な著書に『こんな僕でも社長になれた』(ワニブックス、2007)、『もっと自由に働きたい』(ディスカヴァー•トゥエンティワン、2012)など。
 
◎聞き手:宇野常寛/構成:ミヤウチマキ
 
 
■クラスのヒーローはいつも、運動ができる奴だった
 
――2020年に東京でオリンピックが開かれることについて、家入さんはどんな感想を持っているのかについて、改めて聞いてみたいんだけど。

家入 僕は、やっぱりどう考えてもスポーツに興味がないんですよ(笑)。昔から体育はずっと1とかで本当に苦手で、運動会もつらくてしょうがなくて、運動ができないことに対してずっと劣等感があった。だからやっぱりオリンピックにも興味が持てなかったんだよね。僕が子どもの頃って、頭のいいやつよりも、運動ができるやつの方が、クラスの中での発言権も持っていたし、モテていた。僕にとってオリンピックって、そういう「スポーツができる人たち」の象徴なんだよね。

だとしたら、僕はそこにカウンターをぶつけるようなかたちのオリンピックをやりたい。極端なことを言うと、運動は苦手だけど、たとえば「鉛筆削りの上手さを競う」みたいな競技があって、そこで勝った人が尊敬されたりしてもいいじゃん。

この前、ある地方の村に行ってきたんだけど、そこでは「力持ち」というだけで重宝されるんだよね。今の社会は、すごく承認されづらくなっていて、力持ちだけじゃ承認されないんだけど、そういう場所でならすごく感謝されたりする。

――それって具体的にはどういうものなの? 

家入 僕が思うのは、オリンピックを機会に、世界中の生きづらさを抱えている人達の「希望の国」に、日本がなったらおもしろいな、っていうこと。

僕のような人間は、スポーツができないことで学生時代は鬱々とした思いで過ごしていた。そういうオリンピックからあぶれる人達を掬い上げるようなことをやってみたい。「裏リンピック」でもなんでもいいんだけど、オリンピックの周辺でそういうことをやって、世界中の人たちに「ああ、日本ってすごい面白い国なんだなー」っていうことを見せられたらいいと思う。

たとえば日本のアニメが好きな人たちって、海外でもマイノリティ層で、同じような生きづらさを抱えているんじゃないかな。そういう人たちが日本に一同に集まるのも面白いと思うんだよね。ニコニコ超会議なんかも、そういった要素があるのかなと思ったりするんだけど。

――オリンピックのような〈昼の世界〉の文化祭が広く盛り上がりを見せているように、ニコニコ超会議やコミックマーケットといった〈夜の世界〉の文化祭も、少なくとも首都圏においては動員力を持ち始めている。だから、家入さんが言ったような裏オリンピックを2020年に実現できる可能性は十分あるよね。
 
 
銀行口座を晒すのは〈祭り〉である
 
家入 去年、新平(※高木新平氏)と一緒に、阿波踊りとかよさこいとか、アメリカのお祭りも行ったりして、色んなお祭りを観てきたんだよね。そこで「今、日本にはお祭りが足りないんじゃないか?」っていう話で盛上がって。祭りとしてオリンピックを捉えることってできないのかな、っていう話をしていたのね。

例えば、僕はよくTwitter上で色んな人が自分の銀行口座を晒す、振込祭をやったりするんだけど、半年くらい前に、妊婦さんが「出産費用がないからお金ください」って、僕のアカウントに呟いてきて。

せっかくならと思って、「銀行口座を晒してくれたら、僕が拡散するから意外に集まるかもよ」って言って、本当に晒す事になって、そうしたら一気にお金が集まりはじめて、Twitter上で祭りになった。結果的に70、80万集まったところで、その妊婦さんは怖くなってアカウントを閉じて逃げちゃった。

そしたら当然僕のところには、「お金がないのに出産すべきではない」とか、「このこじき野郎!」「詐欺だったらどうするの?」というような、色んな批判がきた。昔、studygiftをやったときもそんな感じの炎上をしたんだけど、そのとき僕は1つ1つのリプライにキレて返していたんだよね。

でも、今回はちょっと成長したのか、僕の中で〈祭り〉っていうキーワードが出てきて、「これ、振込み祭りなんだよ!」っていう言い方をするようになった。そうしたら一気に、「そういう批判をするのは野暮だよね」みたいな空気になっていった。これってすごい面白いことだと思うんだよね。
 
 
祭りの最中は、「何者でもない自分」になれる
 
家入 今話したようなネット上の祭りだったり、現実に起こっているいろいろな祭りの何が面白いのか考えてみると、祭りってその日だけは年齢とか職業、立場、肩書きといったものをぜんぶ飛び越えることができる。そういう「何者でもない自分になれる」、という瞬間がすごいいいなって思った。東京の都心部にいるとそういう瞬間が本当にないから、もっと必要なんじゃないかなって思ったんだよね。

たとえば、都心部では銭湯がどんどんつぶれている。銭湯って〈むら〉とか〈まち〉とかの単位の中でハダカになって繋がれたり、交流できる場所なんだよね。そうやって何者でもない1対1の人間として繋がれる場所って昔はもっとあったはずなのに、今の特に東京にはなくなってしまっているんだよね。

僕はたまに、京都の鴨川で大学生を集めて朝まで飲んだりするんだけど、いつも「鴨川ってすごいな」って思うんだよね。あそこも「何者でもなくなれる」場所だよ。京都と東京の違いってなにかなって考えたときに、「鴨川の近くで朝まで飲める」っていうところなんじゃないかな(笑)。まあ、上手くまとまらないんだけど……。

――このままいくと2020年のオリンピックって、「何者でもない存在になれる」ようなお祭りの空間にはどうもならなさそうだよね。既に用意されている物語があって、「みんな日本人なんだから、この物語で一緒に感動できるでしょ?」という前提で行われようとしてる。

今のオリンピックって、〈祝祭〉ではなく〈演劇〉になってしまっているんだよね。〈演劇〉というのは、まずストーリーが出来上がっていて観客はそれに感動するもの。対して〈祝祭〉っていうのは、一人一人が自分の文脈を持っていて、それぞれバラバラの夢を見ているだけなんだけど、みんなでつくっていくもの。

オリンピックってもともとは〈演劇〉と〈祝祭〉の両方の側面を持っていたものだと思うんだけど、オリンピック自体が国際社会で大きな位置を占めていくに従って、〈演劇〉的な側面ばかりが大きくなって、祝祭的という側面が薄くなってしまった。だから家入さんの話は、「祝祭としてのオリンピックをどう取り戻すか」という話なのかな、って思うんだよね。
 
 
「お祭りって、バカになったほうが楽しい」
 
家入 同じシリーズのインタビューで猪子くんも「参加型のオリンピック」ということを言っていたけど、オリンピックを〈祭り〉という風にとらえた場合、それは見ているより参加したほうが楽しいんだよね。
 
▼参考記事
 
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」って、まさにそこに言われているように、お祭りってバカになったほうが楽しい。劇場型という感じでスポーツをする人とそれを観るひとで分かれてしまうのはもちろん仕方のないことなんだけど、そこに自分も参加している感覚がもっと産まれていくと、祭りとしてより面白くなるよね。

そのときの「参加」というものが果たして、インタラクティブにテクノロジーとして参加できるようなものにしていくのか、オリンピック以外での〈祭り〉のようなものを同時多発的にやろうという話なのか、そこは僕にもまだ分からないんだけど。

この前、高知に行ってきたんだけど、すごく面白いんだよね。高知って47都道府県中、1人あたりの平均収入が沖縄を抜いて最下位になって、学力レベルも沖縄と同じくらい下になっていて、どん底なんだけども、逆に行き過ぎたキャピタリズムが崩壊していて、みんな幸せそうなんだよね。高知の人って本当に朝からお酒を飲んでいるし、働く気もないし、「稼げなくてもいいや」みたいになっている。こういうこと言うと怒られるのかな(笑)。

「参加」ということで言えば、高知って「よさこい妊娠」っていう言葉があるくらいで、よさこいが終わった後の妊娠率が上がるらしいんだ。それって別にやらしい話でもなんでもなくて、すごくハッピーなことなんじゃないかなって。だって祭りって地位も経歴も関係なくて、身一つ、丸腰でしょ。直感で「この人は素敵だな」ってお互いに感じるわけだから、素敵なことだと思うんだよね。2020年のオリンピックもある意味祭りなわけだし、少子化を食い止める一助になったら最高かもね。
 
(了)
 
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▼インタビュー動画はこちらから。
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