ドットが描き出す新たな地平
―ナノブロックエキシビション2014
レポート&開発者インタビュー 
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.5.29 vol.81
http://wakusei2nd.com

ダイヤブロックで有名なブロック玩具の老舗、カワダから発売されている、世界最小級ブロック「ナノブロック」。その独自の魅力で大人気を博しているナノブロックが、一年に一回催している作品コンテスト「ナノブロックアワード」の展示会「ナノブロックアワード 2013-2014 エキシビション」が、東京ソラマチで開催されました。日本ならではのアプローチで、ブロックおもちゃの未来を切り開くナノブロック。その魅力と創造性について、[展示編][開発者インタビュー編]のふたつで迫ります。

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▼ナノブロックアワードとは
ナノブロックのカワダが主催する、公式の作品コンテスト。今回で第4回を迎える。誰でも自分で組み立てたモデルを撮影した写真で応募することができる。今年度は、200ピース以下という限られたブロック数でモデルを作る<under200pcs部門>、干支に合わせて既存のウマ・午のモデルをベースに作る<干支部門>、そしてナノブロックを使用すること以外のあらゆる制限をなくした<No Limit部門>の3つの部門に分け、グランプリ、準グランプリ、優秀作を決定。
  
▼ナノブロックアワード 2013-2014 エキシビションとは
2014年5月9日(金)~5月11(日) の 3日間、東京ソラマチ 5F スペース634(ロク サン ヨン)において行われた、ナノブロックの公式イベント。展示は今回が第2回となる。
 
◎聞き手:宇野常寛・池田明季哉 構成:池田明季哉
 
 
[展示編]
 
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「ナノブロックアワード 2013-2014 エキシビション」は、コンテストの受賞作品以外にも、様々な展示が行われていました。案内してくださったカワダの藤木さんに、まずはナノブロックの歴史から伺いました。
 
藤木 カワダは今から50年前から「ダイヤブロック」というブロックを作っておりまして、今年で51年目になります。ダイヤブロックは創業当時から純国産で、今でも長野の工場で全て作っています。ポッチに高さがあって、力のない子供でも組みやすくて外しやすいようにこだわっています。
ナノブロックは2008年10月に発売になりまして、2007年の団塊世代の方の大量退職に向けて、大人向けのブランドとしてはじまったものです。当時は「戦艦大和」「空母赤城」、そしてベーシックセットとして「スタンダードカラーセット」「モノトーンカラーセット」「ダークトーンカラーセット」というラインナップでスタートしました。

――ナノブロックは実は2007年問題が生んだわけですね!

藤木 はい、ただ当時はなかなか市場は厳しく……ただブロックが小さくなっただけではダメだと実感しました。
そこで翌年の11月、「ミニコレクションシリーズ」という袋入りのシリーズをリリースしまして、それから有名雑貨店に置いていただけるようになりました。

――確かに、オシャレ雑貨というイメージはあります。

藤木 当初男性向けだったものを、女性向けに転換しまして、それから徐々に口コミで広がっていったのがはじまりですね。
今、モデルの種類は100種類を超えておりまして、発売当初の商品もどんどんリニューアルをかけています。
こちらのポケモンのモデルなんかは反響が大きすぎて、再生産をかけたこともあるんです。
 
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――あ、これ鎧武ですよね!?
 
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(C)2013 石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映
 
藤木 はい、こちらはバンダイさんの魂ネイションズとのコラボ商品で、仮面ライダーシリーズとして発売を予定しております。組み替えで変身時のオレンジを被った状態を再現することができます(笑)。

――なるほど(笑)。やっぱりキャラクターものは強いですね。

藤木
 やはりピースをドットに置き換えて作るので、ドットをモチーフにしたファミコンのキャラクターですとか、二次元的キャラクターもお客様に多く作っていただいています。80年代のブームを知っている方はちょっと挑戦してみたいという方も多くいらっしゃいますね。商品としても、ロックマンやゼビウスなど、元々ドットのキャラクターのモデルも幾つか発売しています。

――ドットが立体になることの面白さ、ということですよね。
 
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そしていよいよ、ナノブロックアワードの受賞作品へ。実際に一般のユーザーから貸し出された実物を間近で見ることができました。今回はたくさんの素晴らしい作品の中から、PLANETS編集部が独断と偏見でセレクトし、ご紹介します。
 
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【天体望遠鏡】
under200pcs部門グランプリ。シンプルでありながら、ナノブロックが天体望遠鏡の構造にぴったりとマッチし、無駄のない洗練された美しさを感じさせます。
 
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【損保ジャパン本社ビル】
No Limit部門グランプリ。超巨大な構造物を精緻に構築しています。藤木さん曰く、最低でも2万ピースは使っているとのこと。まさにノーリミット! とにかく圧倒的な迫力でした。
 
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【工場萌え】
No Limit部門準グランプリ。工場の複雑なパイプラインの美しさが、ナノブロックのデフォルメの力を借りて、本物以上に表現されているように思います。
 
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【ハト時計】
No Limit部門準グランプリ。内部にギミックを仕込むことによって、ハトが実際に飛び出るようになっています。特殊なブロックが少ないナノブロックでも、工夫次第で楽しい遊べるものも組める、という一品。
 
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【清水寺の紅葉】
色彩が美しい作品。敢えて紅葉の時期を選ぶというセンスが素晴らしいです。清水寺本体も、本物の構造を理解していないとこうは組めない、と藤木さん。
 
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【非常口誘導灯】
アイディアが素晴らしい作品。蛍光ブロックを使用することで実際に暗闇で光る! このために限定品のハロウィンのカボチャが3体犠牲になったそうです。
 
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【枯葉のステーション】
そしてなんと、まさかのSKE48の楽曲「枯葉のステーション」の衣装が! AKB48のプレス発表がソラマチで行われた際、控え室に飾ったそう(笑)。小さくてかわいらしい作品です。
 
そしてたくさんの受賞作の奥には、なんと今回のために特別に用意された、巨大ジオラマが控えていました! しかもその線路の上を、山手線や新幹線が走っています!
 
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藤木 こちらが先日発売になった「ナノゲージ」というラインです。Nゲージ規格の線路の上を、実際に列車が走るモデルです。これはナノブロックをそのままジオラマにして街を作れるんです。高架線なんかも簡単にできますよ。車両を組み替えてまだ商品化されていない列車も作れますし、列車以外のものも走らせることができます。

――列車以外、ですか?

藤木
 例えば回転寿司とか、動物の追いかけっことか……あとはこちらのソルバルウを走らせて、ゼビウスのステージを再現したりとか(笑)。
 
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(C)「ノーコン・キッド」制作委員会 (C)TV TOKYO
 
――遊びが幅広いですね!(笑)
 
 
[開発者インタビュー編]
 
展示を存分に堪能した後は、ナノブロックの全ての開発に携わっており、袋入りのパッケージなどを通じて今のナノブロックを一から作り上げた、開発の高橋さんにお話を伺いました。
 
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――ナノブロックはオシャレ雑貨的なイメージから、ここ1・2年で大きく脱皮しようとしているように思えるんです。そこでお伺いしたいのですが、ナノブロックのアイデンティティとして、残しておきたい、変化させない部分というのはありますか?

高橋 敢えてブロックっぽいところを残す、というところでしょうか。ナノブロックはブロックの種類が少ないんです。11種類でスタートして、幾つか専用のものを除けば、今でも20種類いかないくらいで作っています。

――たったそれだけしかないんですね! 驚きました。例えばレゴというのは、ある時期から明らかに模型側に舵を切っていると思うんです。一体型や特殊なパーツを使って、独特にデフォルメされた組み立て模型を目指している。それはそれでいいと思うんですが、ナノブロックはそれとは全く違う方向ですよね。

高橋 当社のダイヤブロックもそうですが、レゴはいろんな曲線や、ブロックのポッチを隠すフラットなパーツも多く使われます。もちろんそっちの方がリアルに作れるのですが、ナノブロックはそれとは違うベクトルで、ドットのようなブロックのポッチを活かしつつ、スタンダードなものだけで作りたいと思っています。
やっぱり、限られているところがいいんですよ。限られた中で、いかに魅力的に見せるか、というところにこだわっています。

――僕(宇野常寛)は35歳でファミコン世代なんです。だからドットで描かれたキャラクターに親しんで育った。それがプレステやセガサターンになってドットからポリゴンになったときに、嬉しかった反面、ちょっとがっかりしたんですよね。技術的制約だと思っていたものが、実は独特の魅力を持っていた……ナノブロックは、そうしたドットの魅力にもう一度立ち返っていると思うんです。

高橋 そうですね。枠を自分で作って、その中でやっていくことは大事にしていきたいです。
お客様もそういった部分を求めているのかなと思うんです。ナノブロックは後ろに仕切りがないのが特徴になっているんですが、そうするとスライドさせたりナナメに組んだり、作品の作り方がすごく広がるんですね。そういった組み方が、ネット上で徐々に共有されて広がっていった、ということもありました。最初は「やっぱり仕切りがあった方が良かったんじゃないか……?」と思っていたんですが(笑)。あるものだけでより柔軟に組むというのは、ナノブロックが基礎的なブロックだけだったからこそ生まれたことだと思います。
 
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――確かに、ナノブロックアワードの作品も、そうした組み方が多用されていますね。あれはネット上で広がっていったものだったんですね。

高橋 ナノブロックアワードは、最初twitterのみで募集をかけたんですよ。

――twitterのみでですか!? それはなかなかアナーキーですね(笑)。

高橋 はい(笑)。それでも最初は240作品ものご応募をいただきまして、それから単純増加で今年は543作品のご応募をいただいています。ユーザー同士のコミュニケーションも、twitterを通じて知り合いになったりですとか、「そろそろ応募締め切りだから作らなきゃ」みたいな会話など、とても活発なんです。エキシビションやおもちゃショーになると、現地がプチオフ会みたいになっていて、僕も混ざってマニアックな部品の使い方とか、この商品にこの部品が入っている、みたいな話をさせてもらったりしています(笑)。

――基礎ブロックがコミュニケーションを生んでいるということなんですね。ブロックのコンテストって、結局いかに欲しい形のパーツを購入できるか、というゲームになってしまいがちなのですが、ナノブロックアワードはそうなっていないところがすごいと思うんです。実際に受賞している作品も、やはり工夫が評価されていますし、かなりフェアなレギュレーションのスポーツ的な空間が実現していますよね。
だからこそ、僕はナノゲージを見てすごく驚いたんです。Nゲージをそのまま使えるというのもそうだし、車体にフラットなパーツを多く使っているというのもそうですが……今までのナノブロックとすごく違う。これはどういったコンセプトで作られたんですか?

高橋 今までずっと「静」のものを作っていたんですが、今度は「動」のもので新しい領域を広げていきたいと思ったんですね。そう考えたとき、小さいナノブロックと小さいNゲージの相性がいいなと思ったんです。周りのものもナノブロックであればいろいろ作れますし、線路を走らせるものも列車以外のいろんなものが作れますから。

――なるほど。今回あの巨大ジオラマを見せていただいて、ファミコン時代のビジュアルセンスで今の日本の町並みを再現するというビジョンが一気に目の前に広がって、本当に圧倒されました。ナノブロックであれば、ブロックさえあればあらゆるものがドットの世界観で無限に拡張できますからね。

高橋 ナノゲージ以外にも、いろいろ新しい展開も考えているんですよ。単なるおもちゃを超えて、大人をあっと言わせるものを作っていきたいですね。
 
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限定こそが、創造性を生み出す。80年代に生まれたドットの文化が、30年以上を経た今、ナノブロックに受け継がれたとも言えるかもしれません。日本でしか生まれ得なかったブロック玩具の革命は、クリエイティビティとは何なのかということそのものに、大きな示唆を与えてくれるように思います。
 
※ナノブロックアワード受賞作品は、公式ウェブサイトで見ることができます。
本当に素晴らしい作品ばかりなので、物足りない方はぜひぜひチェックしてみてください!
※カワダさまは「東京おもちゃショー2014」に出展します!
一般公開日は6月14日(土)、15日(日)です。
 
(了)