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第11回 『ゼビウス』の神話
(前回までのあらすじ)
〈虚構の時代〉が本格化していく1980年代前半の文化環境のもと、
『ギャラクシアン』や『パックマン』、『ドンキーコング』など、
ナムコや任天堂が先導するかたちで固定画面アクションを多様化し、
それとともに日本ゲームのキャラクター性が強まっていくことで、
インベーダーブーム当時までの不良の溜まり場的な“悪所”としての
ゲームセンターは徐々に変質していく。
さらにマイコンブームによって廉価な8ビットパソコンが普及し、
BASIC等の言語によるプログラミング環境がホビイストや科学少年らに
共有されたことで、コミックマーケット等の「おたく」向け同人文化の
拡大とも並行した自作ゲームのアマチュア創作シーンが勃興。
そこから『平安京エイリアン』のような商業的なヒット作が生まれると
ともに、AVGやSLG、RPGなど海外産の“高級”な思考型ゲームを
翻訳・国産化していくための出島としての役割を果たすようになった。
■ポストモダン・カルチャーとの共振をもたらした『ゼビウス』
先述した『こんにちはマイコン』の第2巻には、実際のゲーム制作の現場の紹介役として、一人の若いゲーム開発者が登場している。そのモデルとなったのが、ナムコの遠藤雅伸である。1981年に入社したばかりの遠藤らしき人物が、「ゲーム好きが高じてマシン語のプログラミングを習得し、ゲームデザイナーになる」という読者にとっての夢の体現者という立場で描かれていたのは、彼のデビュー作となるタイトルが、日本ゲームに次なる革新をもたらしていたためだ。
1983年にアーケードに登場したその作品の名は、『ゼビウス』。森や平原、海洋といった多彩な地上風景の描かれたトップビュー式の背景画面が縦方向に自動的に流れていく中で、戦闘機ソルバルウを上下左右に操りつつ、謎めいた挙動で飛来する敵ゼビウス軍の空中部隊を対空兵器ザッパーで、背景画の中に設置されている地上砲台などを対地兵器ブラスターで爆撃していくという、縦スクロール型のSFシューティングゲームである。これは『インベーダー』から『ギャラクシアン』『ギャラガ』に至る従来の宇宙を舞台にした固定画面型シューティングゲームからすれば、ビジュアル面でもゲームシステム面でも大幅な飛躍を遂げたものだったと言える。
こうした『ゼビウス』のゲームデザインは、単に新奇なゲームとしてプレイヤーを虜にして熱狂させただけではなく、デジタルゲームがそれまでとは異なる次元の深みを持った新たな“表現”として成立するという事態を、多くの人々に強烈に印象づけるものだった。
それは第一に、画面スクロールによってグラフィカルに描かれたマップを連続的に移動していくという仕様が、必然的に広大な“世界”の実在と潜在的な“物語”の展開を感受させるという体験をもたらした。固定画面のシューティングやアクションでは、基本的に物語や世界観はあくまでゲームとしてのルールやゴールを直感的に理解させるためのインターフェースに過ぎなかったが、『ゼビウス』におけるキャラクター動作や背景グラフィック等の演出は、明らかにゲーム上の必要を大きく超える余剰性を持ったかたちで作り込まれていた。のみならず、本作ではゲーム上で説明されることのない「ファードラウト・サーガ」という壮大かつ複雑なバックストーリーや、ゼビウス星の言語などの詳細な設定が作成されており、こうした情報がメディアなどを通じてほのめかされることで、ごく単純なゲーム体験に神話的な深遠さを付与する効果を発揮したのである。
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