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成馬零一 テレビドラマクロニクル1995→2010 最終回 2020年代の連続ドラマ(後編)

2020/04/08 07:00 投稿

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ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。最終回の後編では、2010年以降のテレビドラマの状況を総括します。NetflixやHuluにともなうグローバル化の進展や、作家主義の衰退、多文化主義の影響によって抜本的な変化を迫られている日本のテレビドラマ。その文化的遺産をいかに継承するかを考えます。

 ここで改めて2010年のテレビドラマについて振り返っておきたい。
 この年、朝ドラでは『ゲゲゲの女房』、大河ドラマでは『龍馬伝』というNHKを代表する二大コンテンツの方向性を大きく変える作品が登場した。
 一方、深夜ドラマでは『モテキ』と『マジすか学園』(ともにテレビ東京系)が登場。
 2010年代はNHKドラマと深夜ドラマの時代だったが、その先駆けとなる作品はこの年にすでに出揃っていたのだ。

 大根仁が全話の脚本と演出を担当した『モテキ』は、作家性の強い連続ドラマとして高く評価され、福田雄一、山下敦弘、深田晃司といった力のある映画監督がテレビドラマの演出を全話手掛ける流れの先陣を切ったと言えるだろう。
 一方、AKB48のメンバーが総出演した『マジすか学園』は、グループアイドルを売り出すためのショーケース的なドラマで、“たば(束)ドラマ”とでも言うようなドラマの走りとなった作品である。
 この『マジすか学園』の手法をより発展させたのが、ダンス&ボーカルグループ・EXILEが所属する芸能事務所LDHが、テレビ・映画・ライブといった複数のメディアをまたいだ総合エンターテイメントプロジェクトとしてスタートした『HiGH&LOW』シリーズだ。
 全員主役と銘打ち、複数の物語を同時進行していく『HiGH&LOW』シリーズは、芸能事務所主導の企画だからこそ生まれた作品だ。ファン向けのノベルティグッズであることを逆手にとった本作は、作り手がやりたいことをやり切った作品で、その結果として『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』のようなロボットアニメ、あるいは冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』(集英社)のようなバトル漫画に対する、実写ドラマからの返答となっていた。面白いのは、それが結果的に『ゲーム・オブ・スローンズ』のような、国内では作ることが難しい大規模な海外ドラマに拮抗した表現となっていたことだろう。
 芸能事務所主導ゆえに、役者を魅力的に見せたり、派手なアクションを撮る意識が先行していて、既存のテレビドラマと比べたときに、脚本、演出の面においてチグハグだという欠点はあるものの、それを補って余りある華やかさがあり、貧乏くさい日本のドラマコンテンツの中で、ビジュアルとアクションにおいては突出している。
 今後、AKBグループやジャニーズ事務所といった大手芸能事務所主導の企画から『HiGH&LOW』のような企画が生まれれば、また状況は活性化するのではないかと思う。

 この全員主役(もしくは主役不在)の群像劇の“たばドラマ”の対となるのが、2012年にシーズン1が放送された『孤独のグルメ』(テレビ東京系)だ。
 個人で輸入雑貨商を営む中年男性・井之頭五郎(松重豊)が仕事の合間に立ち寄った飲食店で、料理を食べながら料理の感想をモノローグで延々とつぶやく姿を描いた本作は、後に多くのフォロワーを生み出し、グルメドラマというジャンルを深夜ドラマに定着させた。
 近年はその方法論を発展させた、サウナを舞台にした『サ道』や、キャンプを題材にした『ひとりキャンプで食って寝る』『ゆるキャン△』といった、グルメドラマの手法を使った他ジャンルの作品も生まれており、バラエティとドラマの中間のような作品を生み出している。印象としてはYouTubeなどに上がっている、一人で黙々と何かをやる姿を見せる実況動画に近い。
 これらの作品が面白いのは、サウナやキャンプといった趣味の世界を覗き見できることもさることながら、「一人遊び」で自己充足することを肯定的に描いていることだろう。『孤独のグルメ』における“孤独”の部分に重点がおかれている、つまり、“たばドラマ”に対する“ぼっちドラマ”とでも言うような作品で、こういった今までにない斬新な手法のドラマを、力のある映像作家が手掛けることで、深夜ドラマは発展してきたのだ。

 対して2010年の民放プライムタイムのドラマでは、宮藤官九郎脚本の『うぬぼれ刑事』(TBS系)、木皿泉脚本の『Q10』(日本テレビ系)といった、00年代を代表する脚本家の集大成的な作品が発表された。また、木村拓哉主演のドラマでありながら、平均視聴率が20%台を切った月9ドラマ『月の恋人~Moon Lovers~』(フジテレビ系)が放送される。
 その一方で、坂元裕二の新境地となる『Mother』(ともに日本テレビ系)のような、2010年代を牽引する作家の方向性を決める意欲作も登場。
『逃げるは恥だが役に立つ』や『アンナチュラル』(ともにTBS系)といった作品で2010年代を代表することになる脚本家・野木亜紀子が、フジテレビのヤングシナリオ大賞受賞作『さよなら、ロビンソンクルーソー』で脚本家デビューを果たすのもこの年だ。


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