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一億総中流はファミリーセダンの夢を見るか
――「いつかはクラウン」から新型プリウスまで/
日本の大衆車・前編
(根津孝太『カーデザインの20世紀』第12回)
【毎月第2木曜配信】
――「いつかはクラウン」から新型プリウスまで/
日本の大衆車・前編
(根津孝太『カーデザインの20世紀』第12回)
【毎月第2木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.7.14 vol.643
今朝のメルマガはデザイナー・根津孝太さんによる連載『カーデザインの20世紀』第12回をお届けします。今回から前後編にわたって取り上げるのは「大衆車」。前編では、カローラからプリウスまで戦後のファミリーセダンの歴史を振り返りながら、大衆と自動車の関係を考えます。
▼プロフィール
根津孝太(ねづ・こうた)
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多く の工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。賛同 した仲間とともに「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク『zecOO (ゼクウ)』の開発 に取組む一方、トヨタ自動車とコンセプトカー『Camatte (カマッテ)』などの共同開発 も行う。2014年度よりグッドデザイン賞審査委員。
◎構成:池田明季哉
本メルマガで連載中の『カーデザインの20世紀』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
今回から前後編の二回に分けて「大衆車」を取り上げてみたいと思います。この連載ではこれまで水陸両用車からフィクションのなかの車まで、さまざまな個性的な自動車について語ってきましたが、誰でも少し頑張れば手が届く価格帯の大衆車も、なかなか面白い存在なんです。
例えばスポーツカーは常に速さに価値を置いていますし、高級車は贅沢さに価値があります。速さや贅沢さというのはある意味では絶対的なもので、時代を経てもあまり変わることがありません。
ところが大衆車の場合はそうではないんです。多くの人々に求められるものだからこそ、社会の波風の影響をまともに受けて、考え方の軸が次々と移り変わっていきます。言い換えると、大衆車とは「自動車が大衆にとってどんな存在なのかを如実に反映しながら変化してきたもの」なんですね。それゆえの面白さと難しさが大衆車にはあると思います。
現代日本の大衆車の代表格は、トヨタ・プリウスだと思います。軽自動車を除けば新車販売台数ランキングの1位をずっと走り続けている大ヒット商品ですね。そのプリウスが、昨年末に4回目のモデルチェンジを果たしました。相変わらず販売台数は非常に好調だと言われているのですが、大胆に変更されたその新しいデザインが賛否両論となっています。そのことに、今の大衆車が置かれている難しい状況が表れている気がしています。
今回は常に時代と共にあった大衆車の移り変わりを考えながら、プリウスの新しいデザインについても少し触れてみたいと思います。
▲トヨタ・プリウス(4代目)。その特徴的なフロントマスクが議論を呼んでいる。(出典)
■戦後日本大衆車の中心を占めた「ファミリーセダン」
大衆車と一口に言っても様々なものがあるのですが、戦後日本において中心にあったのは「ファミリーセダン」というタイプの車たちでした。なかでもトヨタ・カローラは、戦後日本社会をある意味で象徴する存在だと思います。
▲トヨタ・カローラ(9代目)。典型的なファミリーセダン。5人乗りで、ドアは後部座席に乗りやすくするため4枚である。後部には独立したトランクルームにアクセスするためのトランクリッドが見える。(出典)
「ファミリーセダン」というのは、家族で乗るセダンタイプの車という意味です。自動車は基本的に、エンジンがあって、人が乗るところがあって、荷物を入れるところがありますよね。多くはこの3つをそれぞれ別の空間に分けた「3ボックス」という構造で、なおかつ2列の座席を持ち、4-5人が快適に乗れるように作られた自動車が、「セダン」と言われているものです。
セダンと対照的なのは「クーペ」というタイプの車で、こちらはスポーツカーによく採用されます。多くは1列2人乗りで、後部座席はないか、あっても補助的なものです。トランクも独立していない「2ボックス」タイプのものもあります。現在では形式も多様化していて、細かな分類や中間的な車もたくさんあるのですが、居住性能を大切にしたのがセダン、走行性能やスタイリングを追求するのがクーペ、と大まかに分類することができます。
▲シボレーのコルベット・スティングレイ。2人乗りスポーツクーペの一例。空力を高めて走行性能を追求した流れるようなラインに加えて、ドアが左右2枚となっている。(出典)
■人生と共にステップアップしていく車
日本の大衆車の黎明期、1960年代に大活躍したのが前にもお話ししたスバル・360でした(参照:連載第5回「そして小さいクルマは立派になった〜黎明期国産軽自動車のトライ&エラーとその帰結」)。ドイツのフォルクスワーゲン・タイプ1をお手本に作られた軽自動車です。政府が作った「国民車構想」に並べられた非常に高い要求をクリアし、当時としては破格の高性能と低価格を両立して大人気となりました。スバル360は軽自動車ではあるのですが、定義上はセダンでもあります。今に続くファミリーセダン的な発想の原点にある車だと思います。
▲スバル・360。1958年に発売。全長約3000mm、重量365kgの小型自動車。ちなみに57年後の2015年末にリリースされた4代目プリウスは、全長およそ1.5倍、重量はおよそ3.7倍である。(出典)
その後、ファミリーセダンは60年代〜70年代の高度成長期に生まれた「一億総中流」という幻想と結びついて、ある種の特別な車として本格的に大衆に受け入れられていきます。高度経済成長に合わせて、大衆の求める車もだんだんと大きくなっていきました。誰もが「未来には今よりも豊かな生活が待っている」と期待することができた高度成長期に、車も同じように「ステップアップしていく」という価値観が一般的になっていきます。
例えばトヨタなら、最初は小さなスターレットからスタートして、次はカローラを買って、その次はコロナ、さらにその次はコロナ・マークIIに乗り、そして最後のゴールとしてクラウンがありました。トヨタ以外のメーカーでも、だんだんと大きな車に乗り換えていく、という基本的な構造は同じです。社会のなかでより上へ上へとステップアップしていくような人生に合わせて、ステータスの象徴として自動車を乗り換えて行くことが、大衆にとって憧れとなりました。
▲初代トヨタ・カローラ。写真は1969年から生産された後期型。(出典)
■「いつかはクラウン」へと辿り着く人生
こうしたヒエラルキーのトップに君臨していたクラウンという車は、特別な立ち位置にありました。「いつかはクラウン」という有名なキャッチフレーズが示すとおり、戦後中流的な人生のゴールを象徴する存在だったのです。
▲トヨタ・クラウン。写真は1967年から1971年まで生産された3代目。「日本の美」をテーマにデザインされた。(出典)
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