強いと評される麻雀プロはたくさんいるが、「天才」の称号を持つのは茅森早香だけだろう。
麻雀を覚えたのは、アルバイト情報誌でみた雀荘のウェイトレス募集がきっかけだった。麻雀を知らないまま勤め始めたものの、いきなり「きみも打つんだよ」と言われ、なし崩し的に麻雀を打つようになる。その間も、いわゆる戦術書を読んだり、誰かに麻雀を教わることもなく、独学で強くなったのだから、やはりセンスは相当なものだったのだろう。ちなみに、数年前まで「間4軒」という言葉も知らなかったそうである。
また、最強戦特番では佐々木寿人・滝沢和典・鈴木達也という打ち手を相手に完勝した。
今回は、オーラスで好位置にいることを全員が意識したような展開となった。連荘もなく淡々と局が進み、ラス前でトップ目の石井の持ち点が28200点の大混戦。ここでラス目・魚谷のリーチを受けた和泉がピンフツモのアガリでトップ目に立ち、オーラスを迎えた。
ドラを2枚抱えた魚谷は中盤でバックのチーテンを取った(からをチー)。
メンゼンなら一撃でアガリトップを決められる手材料ではあったが、魚谷は妥協してテンパイに取った。全員がアガリにくる局面では押し切られてしまう可能性も高いからだ。逆に、先にテンパっていれば、単独でを抱えた打ち手からは出が期待できる。数巡後、役なしテンパイを入れていた茅森からを直撃し、連荘となる。
続く1本場では、石井のリーチに対し魚谷が追っかけてアガりきる。
だが、裏ドラが乗らなかったのでトップには届かず続行。石井・茅森にもうワンチャンスが訪れた。
2本場。満貫ツモ条件の茅森がドラ1の手で3メンチャンのテンパイを入れた。
茅森は9巡目にを重ねてメンタンピンドラ1でリーチ。
この待ちを掴んだのが2着目の魚谷だ。
魚谷もテンパイを入れていたが、ノーテン流局で逃げ切ることも選べる状況だった。だが、茅森のツモ回数もまだ多い。3着目の石井にも勝負気配がある。
ハートに火が付いた放銃
そんな茅森の決勝の相手は、和泉、B卓を制した佐月麻理子・大平亜季となった(童瞳・宮内こずえが敗退)。
それでも佐月は攻め続ける。ラス目で迎えた東4局。親の茅森の先制リーチに佐月がを暗刻にし、ドラのペン待ちで追っかける。
脇から出るような待ちでもなく、玉砕覚悟の追っかけだったが、このめくり合いに佐月は勝った。序盤の失点を一気に取り戻し、ようやく対等の立場に戻れたのだ。一方、放銃した茅森は一気にラスに転落となる。
だが、この放銃が茅森の心に火をつけた。
茅森「ラス親もあるので焦りはなかったです。むしろ、ピンチの時のほうが燃えるんで」
一方、アガった佐月には逆の効果が表れた。苦しい立場から一転、優勝がチラつき、本人に「守り」の気持ちが生まれたのかもしれない(囲み記事参照)。 点数こそラス目だが、追う側の気持ちは強い。南2局以降、茅森は他の誰にもアガらせなかった。
そして、ラス親でトップ目の和泉をキッチリかわし切り、4年ぶりのファイナルへの切符を勝ち取ったのである。
は押せない牌だったか?
決勝戦南1局。僅差の2着目の親・佐月の手牌。茅森のリーチを受けた一発目、佐月はション牌のを掴む。
茅森の捨て牌は序盤にのリャンメン落としがあり、やや変則的。が待ちである可能性も十分ある。
ちなみに実際の茅森の手はチートイツでドラの待ちだった。
テンパイだが、待ちは弱い。結果、佐月はを押し切れずノーテンで親を流してしまう。仮にをツモ切っていれば、次巡打で追っかけリーチ、でツモアガリとなっていた。
たしかに、先に打で受けたのに、弱い待ちのテンパイでを押すのは一貫性に欠く。だが、そもそもがそれほど危ない牌か? 2着目で南場の親を流すほど、止めなければならないのか?
対局解説の片山まさゆきさんは「プロはを打てない人が多いのでは?」と言及する。
ただ、これは多くのファンが見ている配信対局だ。多くのアマチュアが望むのはを勝負するシーンだったはず。だが、勝負を避けたうえにアガリを逃せば、対局への興味も削がれてしまうのではないだろうか。
レーシングドライバーの佐藤琢磨さんは、「F1でチャンピンになるには、多少の無茶でもアタックしないとチャンスは生まれない。ノーアタックノーチャンスだ」と言っている。徐々に知名度を上げていったプロが、さらに飛躍し多くのファンを掴むには、佐藤さんのような姿勢がまさに必要ではないだろうか。
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