茅森・逆転で決勝進出!
強いと評される麻雀プロはたくさんいるが、「天才」の称号を持つのは茅森早香だけだろう。
学生時代は麻雀とは全く縁のなかった茅森。小中高を通じてバスケ部で汗を流し、キャプテンも務めていた。またクラスの学級委員にも推されるリーダー的な存在だったようだ。
茅森「周囲から『やって』って言われて…。皆、早香の言うこと聞くし、まとめるの上手いから、ってことで」
麻雀を覚えたのは、アルバイト情報誌でみた雀荘のウェイトレス募集がきっかけだった。麻雀を知らないまま勤め始めたものの、いきなり「きみも打つんだよ」と言われ、なし崩し的に麻雀を打つようになる。その間も、いわゆる戦術書を読んだり、誰かに麻雀を教わることもなく、独学で強くなったのだから、やはりセンスは相当なものだったのだろう。ちなみに、数年前まで「間4軒」という言葉も知らなかったそうである。
そして先輩プロの誘いを受け、最高位戦を受験。故・飯田正人プロの推薦もあって、プロ入り3年目で出場したモンドTVの新人戦で準優勝。そのまま出場した女流モンド杯で初出場・初優勝の快挙を成し遂げる。
一方、最強戦でも茅森は十分に実績を挙げている。2012年では代表決定戦を勝ち上がり、ファイナルまで駒を進めた。以降、代表決定戦で予選落ちしたのは昨年の「豊後無双」に巻き込まれ、リーチ後に親のメンチンを放銃したときだけだ。
また、最強戦特番では佐々木寿人・滝沢和典・鈴木達也という打ち手を相手に完勝した。
また、最強戦特番では佐々木寿人・滝沢和典・鈴木達也という打ち手を相手に完勝した。
ただ、茅森の予選A卓の相手も最強戦との相性の良さでは引けを取らない打ち手が揃った。石井あや、和泉由希子、茅森早香、魚谷侑未の並びとなった予選A卓。
今回は、オーラスで好位置にいることを全員が意識したような展開となった。連荘もなく淡々と局が進み、ラス前でトップ目の石井の持ち点が28200点の大混戦。ここでラス目・魚谷のリーチを受けた和泉がピンフツモのアガリでトップ目に立ち、オーラスを迎えた。
今回は、オーラスで好位置にいることを全員が意識したような展開となった。連荘もなく淡々と局が進み、ラス前でトップ目の石井の持ち点が28200点の大混戦。ここでラス目・魚谷のリーチを受けた和泉がピンフツモのアガリでトップ目に立ち、オーラスを迎えた。
だが、ラス親の魚谷が粘りをみせる。
ドラを2枚抱えた魚谷は中盤でバックのチーテンを取った(からをチー)。
メンゼンなら一撃でアガリトップを決められる手材料ではあったが、魚谷は妥協してテンパイに取った。全員がアガリにくる局面では押し切られてしまう可能性も高いからだ。逆に、先にテンパっていれば、単独でを抱えた打ち手からは出が期待できる。数巡後、役なしテンパイを入れていた茅森からを直撃し、連荘となる。
続く1本場では、石井のリーチに対し魚谷が追っかけてアガりきる。
だが、裏ドラが乗らなかったのでトップには届かず続行。石井・茅森にもうワンチャンスが訪れた。
2本場。満貫ツモ条件の茅森がドラ1の手で3メンチャンのテンパイを入れた。
まだ4巡目とはいえ、この手格好なら裏ドラに期待してリーチをかける打ち手も少なくないだろう。だが、茅森は打で確実に逆転できるテンパイ形を目指した。
茅森「巡目に関係なく、裏ドラ期待のリーチはかけたくない。それで仮にテンパイできなくても仕方ないと割り切ってます」
茅森は9巡目にを重ねてメンタンピンドラ1でリーチ。
この待ちを掴んだのが2着目の魚谷だ。
魚谷もテンパイを入れていたが、ノーテン流局で逃げ切ることも選べる状況だった。だが、茅森のツモ回数もまだ多い。3着目の石井にも勝負気配がある。
「自分でアガり切らないと勝てない」
そう思った魚谷はをツモ切り。この瞬間、和泉・茅森の勝ち上がりが決まった。
ハートに火が付いた放銃
デビュー当時から茅森のクールな雰囲気は変わらない。ただ、どんな対局でも平常心というわけでもないようだ。
茅森「打ちたいと思っている相手と打つ時はテンションが高くなりますよ。逆に、緊張するのは初対面の人。基本的に人見知りなので‥。対局自体は、もちろん勝ったら嬉しいけど、麻雀は100%の打牌をしても結果が常に伴うものじゃない。だから負けてもがっかりはしません」
そんな茅森の決勝の相手は、和泉、B卓を制した佐月麻理子・大平亜季となった(童瞳・宮内こずえが敗退)。
徹底した攻め麻雀で予選を圧勝した佐月。決勝でもリーチ・リーチで攻め続ける。が、周りが上手く対応し、佐月のリーチをことごとく潰していった。
それでも佐月は攻め続ける。ラス目で迎えた東4局。親の茅森の先制リーチに佐月がを暗刻にし、ドラのペン待ちで追っかける。
脇から出るような待ちでもなく、玉砕覚悟の追っかけだったが、このめくり合いに佐月は勝った。序盤の失点を一気に取り戻し、ようやく対等の立場に戻れたのだ。一方、放銃した茅森は一気にラスに転落となる。
だが、この放銃が茅森の心に火をつけた。
それでも佐月は攻め続ける。ラス目で迎えた東4局。親の茅森の先制リーチに佐月がを暗刻にし、ドラのペン待ちで追っかける。
脇から出るような待ちでもなく、玉砕覚悟の追っかけだったが、このめくり合いに佐月は勝った。序盤の失点を一気に取り戻し、ようやく対等の立場に戻れたのだ。一方、放銃した茅森は一気にラスに転落となる。
だが、この放銃が茅森の心に火をつけた。
茅森「ラス親もあるので焦りはなかったです。むしろ、ピンチの時のほうが燃えるんで」
一方、アガった佐月には逆の効果が表れた。苦しい立場から一転、優勝がチラつき、本人に「守り」の気持ちが生まれたのかもしれない(囲み記事参照)。 点数こそラス目だが、追う側の気持ちは強い。南2局以降、茅森は他の誰にもアガらせなかった。
そして、ラス親でトップ目の和泉をキッチリかわし切り、4年ぶりのファイナルへの切符を勝ち取ったのである。
は押せない牌だったか?
決勝戦南1局。僅差の2着目の親・佐月の手牌。茅森のリーチを受けた一発目、佐月はション牌のを掴む。
茅森の捨て牌は序盤にのリャンメン落としがあり、やや変則的。が待ちである可能性も十分ある。
ちなみに実際の茅森の手はチートイツでドラの待ちだった。
ここで佐月は手堅く茅森の現物のを捨てた。そして次巡、ツモ。
テンパイだが、待ちは弱い。結果、佐月はを押し切れずノーテンで親を流してしまう。仮にをツモ切っていれば、次巡打で追っかけリーチ、でツモアガリとなっていた。
たしかに、先に打で受けたのに、弱い待ちのテンパイでを押すのは一貫性に欠く。だが、そもそもがそれほど危ない牌か? 2着目で南場の親を流すほど、止めなければならないのか?
テンパイだが、待ちは弱い。結果、佐月はを押し切れずノーテンで親を流してしまう。仮にをツモ切っていれば、次巡打で追っかけリーチ、でツモアガリとなっていた。
たしかに、先に打で受けたのに、弱い待ちのテンパイでを押すのは一貫性に欠く。だが、そもそもがそれほど危ない牌か? 2着目で南場の親を流すほど、止めなければならないのか?
対局解説の片山まさゆきさんは「プロはを打てない人が多いのでは?」と言及する。
ただ、これは多くのファンが見ている配信対局だ。多くのアマチュアが望むのはを勝負するシーンだったはず。だが、勝負を避けたうえにアガリを逃せば、対局への興味も削がれてしまうのではないだろうか。
レーシングドライバーの佐藤琢磨さんは、「F1でチャンピンになるには、多少の無茶でもアタックしないとチャンスは生まれない。ノーアタックノーチャンスだ」と言っている。徐々に知名度を上げていったプロが、さらに飛躍し多くのファンを掴むには、佐藤さんのような姿勢がまさに必要ではないだろうか。
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