後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ

第20回:【思潮】「草食系男子」論とは何か(第1回)

2013/05/15 19:00 投稿

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第20回:【思潮】「草食系男子」論とは何か(第1回:その成立と大まかな思想)

今回から、思潮カテゴリの連載企画として、2000年代終わり頃から現在に至るまでの若者論において猖獗を極めた「草食系男子」論に迫っていきたいと思います。この議論は、我が国のデフレ期の若者論の立ち位置を示すのに格好の材料となっており、また誤った若者擁護論が若年層バッシングに容易に転換されることや、あるいは経済的要因を代表とする様々な要因を無視して現代の若年層の「新しさ」に固執するような世代論そのものの病理を考えるために格好の材料を提供してくれるからです。

そもそも「草食系男子」論とは、2007年に刊行された、コラムニストの深澤真紀による『平成男子図鑑』(プレジデント社日経BP社、2007年)に端を発している言葉です。この中で深澤は、小見出しレベルで23の「男子」について採り上げています。

同書における深澤の「男子」観とは、《“女並み”の男》(深澤真紀[2007=2009]p.5)というものです。さらに深澤は、同書まえがきの中で「おやじ」と「男子」を明確に分け、前者を1940~1960年代生まれ、後者を1970年代以降生まれとし、さらに後者に対しては《豊かな時代に生まれたので、あまりがつがつしていませんし、旧来の男らしさにもこだわりません》(深澤、前掲p.6)と書いております。

実際のところ、深澤は23もの「男子」について採り上げておりますが、いずれもここに示したような深澤の「男子」観に適合したものをカタログ的に採り上げているに過ぎず、彼女の採り上げている「男子」が、果たしてどれくらいの広がりを持っているのか、社会階層は、などという社会学的な疑問にはまったく応えていないものです。しかし深澤の示した「男子」は、現代の「上の世代とは違う」若者像を示してみせたということで「受けた」のだと思います。

またここまで見てもわかるとおり、深澤は決して若年層をバッシングするためにこのような「男子」論を展開したわけではないのです。しかし深澤の「男子」観とは、その直前に流行していた、それこそ明確な若年層バッシングの論理である三浦展の「下流社会」論を下敷きにしているのは論を俟たないでしょう。三浦は2005年に発行されてベストセラーとなった『下流社会』(光文社新書、2005年。この本は次回採り上げます)の中で、「意欲を失った」若年層を悪玉視して採り上げていたはずです。深澤の議論はそれを「ポジティブ」に転換したものに過ぎないのですが、その点を指摘した論者はあまりいなかったように思えます――特にジェンダー論の専門家からは批判があってもいいはずなのですが。

それはさておき、このような若者論の流行は、戦後日本、というよりも1980年代的な消費社会の「呪縛」が若者論において未だに強いことを示しています。そもそも三浦は1980年代にはパルコの雑誌の編集長として消費社会を煽った側の人間でした。そのような1980年代的な消費社会に基づいた「若者」観は、深澤の「男子」観にもそのまま受け継がれているものです。1980年代的な「若者」観の固定化という問題は、現代の若者論を考える上で極めて重要なものです。戦後のユースカルチャーは、主に雑誌メディアによって担われてきたと言っても過言ではないのですが(詳しくは、難波功士『族の系譜学』(青弓社、2007年)を)、そのときの「若者」幻想を今でも若者論が引きずっていることを、三浦や深澤の言説が流行したことは教えてくれます。

もう一つ、「草食系男子」がモラルパニックとして広がった背景には、この「草食系男子」論の要諦に恋愛があったことが挙げられますが、これについては第3回で検討することとします。このような論旨立ては、1990年代終わり頃から我が国で広がっていた劣化言説や、少子化問題が政策のアジェンダとしてクローズアップされる中で、かつてベビーブームを引き起こした「団塊の世代」のような積極的に恋愛を求めようとしない若年層(=「草食系男子」)が少子化の「元凶」として上の世代から叩かれ、他方で下の世代においては自分たちの世代がいかに「生きづらい」かを主張した価値観闘争的な議論としての議論もまた、「草食系男子」論は持っていると言えます。

2000年代後半の若者論を語る上で欠かせないのは「価値観の転換」です。そしてそのような言説は、デフレ下における清算主義の蔓延によって広がり、若者論がある種のデフレカルチャーとして定着されたところに、「草食系男子」論は生まれたと言えるのです。このシリーズでは、我が国の「文化系」の論客における経済観なども参照しつつ、「草食系男子」論を批判的に読み解いていくこととします。

今後の予定(タイトルはすべて仮題)
第2回:モラルパニックとしての「意欲を失った若者」――荷宮和子と三浦展を中心に
第3回:非モテ――「当事者」の語りとそれがもたらした爪痕
第4回:「若者」幻想の成立と2000年代のデフレカルチャー
第5回(最終回):まとめ

引用文献
深澤真紀[2007=2009]『草食男子世代――平成男子図鑑』光文社知恵の森文庫、2009年7月、原書は2007年

なお、5月25日のブロマガは「第10回博麗神社例大祭」の準備のため休刊いたします。

【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第21回:【科学・統計】レビュー系サイト・同人誌のための多変量解析入門(第4回:間奏――ツール紹介)(2013年6月5日配信予定)
第22回:【政策】雇用戦略対話を総括する(最終回:まとめ)(2013年6月15日配信予定)
第23回:【思潮】「草食系男子」論とは何か(第2回:モラルパニックとしての「意欲を失った若者」)(2013年6月25日配信予定)

【近況】
・「第10回博麗神社例大祭」にサークル参加します。
開催日:2013年5月26日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅より徒歩3分程度、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩5分程度
スペース:「す」ブロック37a

・「SUPER ADVENTURES 67」にサークル参加予定です。
開催日:2013年6月2日(日)
開催場所:ビッグパレットふくしま(福島県郡山市)
アクセス:JR東北本線・水郡線「安積永盛」駅から徒歩5分程度、またはJR各線「郡山」駅前バス停1番乗り場からバス
スペース:未定

・「第10回博麗神社例大祭」新刊の『古明地さとりの自己形成論講義――市民のための「自己」をめぐる社会科学講座』と『新・幻想論壇案内――東方Project系「評論・情報」コンテンツの新たな展開』のメロンブックス、とらのあなでの予約が始まりました。
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とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/12/16/040030121698.html
『新・幻想論壇案内――東方Project系「評論・情報」コンテンツの新たな展開』
告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11524045526.html
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メロンブックス:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001061206
とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/12/17/040030121701.html

・「杜の奇跡20」新刊の同人誌『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷――平成日本若者論史5』が現在発売中です。また、近日中にKindleでの刊行を予定しております。
告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11489088720.html
とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/10/93/040030109347.html
COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=15815

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・「第8回博麗神社例大祭」新刊の『幻想論壇案内――東方Project系「評論・情報」レビュー』の電子版を発行しました。メロンブックスDLで購入できます。なお電子化にあたり第2章を削除しております。
http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000163552

・「コミックマーケット83」第3新刊『青少年政策の計量分析――平成日本若者論史4』と、「コミックマーケット82」新刊『現代学力調査概論――平成日本若者論史3』のKindle版の刊行を行いました。そのほかKindleでも同人誌を多数刊行しております。Amazonの著者セントラルはこちらです。
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(2013年5月15日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第20回「【思潮】「草食系男子」論とは何か(第1回)」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年5月15日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
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