第8回:コミティア新刊『「新しい生き方」は誰のため?』サンプル(古市憲寿)
本記事は、2014年11月23日の「コミティア110」にて発行した『「新しい生き方」は誰のため?:統計学から見た若者論・若者向け自己啓発言説の現在――平成日本若者論史12』のサンプルです。現在、Kindle版が配信中です。
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1.1 はじめに
まえがきでも述べたとおり、本書では、若い世代向けの論説や、あるいは若い世代において支持されているとされている著者の言説を、統計学的な分析によって検討を行い、その位相を明らかにするものである。
まず、採り上げる著者は、メディア発の若者論の論客として有名な古市憲寿、そしてインターネット発で若い世代から支持されているとされる論客や、若い世代向けの自己啓発言説を発表している論客として、イケダハヤト、ちきりん、谷本真由美(May_Roma)の4者を採り上げることにする。分析には各著者3~4冊の書籍を用いる。分析に用いた書籍を表0-1に示す。分析には、対談集などのように複数の著者によるものは除き、また社会に関する言説の分析を重視したため、解説書(ハウツー本)や旅行記などの類は分析から除外した。そのほか、まえがきで述べたような、若い世代の「生き方」や「働き方」に関する論説を重点的に分析するため、この2つの方向性を持つ著作を中心に選定した。ここで採り上げた著作は、ここに採り上げた4人の論客はもとより、現代の若者論、特に若者擁護論や若い世代向けの自己啓発言説全体もまたある程度代表しているものと自負する。
分析には単語を基にした対応分析を用いる。この分析においては、文書と単語それぞれについて、近い傾向や性質を持つ単語は近い位置に配置される。分析単位としては、論客個人については書籍と章、複数の論客に及ぶ分析については内容から判断するものとする。
そのほか、使用する単語については、それぞれの分析において、分析対象の単語の占有率が、多次元尺度法では10%、対応分析においては15%以上となる、出現数上位の単語を使用する。使用する単語の種類は、助動詞や記号などの非自立語や感動詞、接続詞を除いた単語(名詞、動詞、形容詞、形容動詞、副詞など)を用いる。
表0-1
1.2 古市憲寿
まえがきでも一部述べたとおり、古市は、2011年に刊行された『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社、2011年)において、それまでのロスト・ジェネレーション(「ロスジェネ」)論において使用されてきた「不幸な若者」と対置される形で「幸福な若者」という世代像を提示し、若い世代の代表としてその行動が期待される論客に成り上がった。古市のような「これが若い世代のあり方である」という行動については、一部の論客から「御用若者」として批判される向きも少なくないが、そもそも古市という論客が、若い世代の「生き方」や「働き方」についてどのような論説をメディア上において行っているかの分析を行えば、古市の現状に即した批判的検討などが行えると考える次第である。
対応分析による書籍の配置を見ると、基本的に分析対象とした3冊の特性が見える形となった。まず第1主成分においては、『絶望の国の幸福な若者たち』が負の方向に、『働き方は「自分」で決める』が正の方向に配置され、『だから日本はズレている』は概ね2者の中間となった。そのため、この主成分は「生き方」論と「働き方」論の2つの方向性を示していると言える。また第2主成分は、第1主成分で両極に配置された2冊が正の方向に配置されたが、概ね0の近傍となっている。それに比べ、『だから日本はズレている』は第2主成分の大きな負の方向に配置されている。以上のことから、古市のこの3冊については、複数のテーマが混在することはなく、書き分けができていると見なしていいだろう。
章ごとに分析しても、第1主成分は『絶望の国の幸福な若者たち』が負の方向になっているが、『だから日本はズレている』においても複数の章が負の方向に配置され、なかんずく「「若者」に社会は変えられない」と題された章における負の値が大きくなっている。以上のことから、第1主成分は「生き方」と「働き方」の軸と考えることが可能であるが、「生き方」は「若者論」に言い換えることも可能と言える。
第2主成分については、『絶望の国の幸福な若者たち』や『働き方は「自分」で決める』には見られない第三の基軸としての「社会評論」と名付けることが可能であろう。特に、『だから日本はズレている』の、社会時評としての性質の強い前半部分の複数の章においてマイナスの値が大きくなっているので、負の方向に「社会時評」を位置することは容易である。それでは第2主成分の正の方向には何を位置づけるべきだろうか。正の方向には、『絶望の国の~』における社会運動を扱った部分、そして『働き方は~』の映画を撮る俳優を扱った部分、そして正の値は低くなるが『だから日本は~』の「闘わなくても「革命」は起こせる」という、やはり若い世代の社会運動について扱った章が位置されていることから、「(社会運動に関する)フィールドワーク」と名付けることが可能である。
第3主成分は、それまでの主成分とは違い、各書籍で正負が混在する形となった。『絶望の国の~』正の方向に配置されているのが最終章と補章という、同書を「総括」する位置づけの章であるが、他方で『働き方は~』では起業家に関する個別事例を挙げた部分が強い箇所となった。さらに『だから日本は~』においては、主に古市とは対極にあるような若者論によく見られるような「幻想」をクールダウンするような部分が布置された。以上の点を考えた場合、第3主成分は、第1主成分よりも古市の若者論の要素を強く表しているものと見ることが可能だろう。第4主成分も概ね同様であったが、『だから日本は~』の多くの章が負に配置され、さらに『働き方は~』で正の値が大きかった映画を撮る俳優に関する章が大きく負に配置されている点に着目したい。
以上のことから、第1主成分と第3主成分の違いについて見ていくと、第1主成分の負方向は「生き方」に関する議論であると共に、古市の「主観」としての若者論、第3主成分の正方向は、「客観」もしくは「俯瞰」としての若者論、と名付けることが可能であろう。(以下、本文に続く)
表1-1
表1-2
参考文献
樋口耕一『社会調査のための計量テキスト分析――内容分析の継承と発展をめざして』ナカニシヤ出版、2014年
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奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
ほぼ週刊若者論テキストマイニング 第8回
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年11月28日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
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