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ほぼ週刊若者論テキストマイニング 第7回:古市憲寿(第6回)とイケダハヤト(第4回)はどう違うか?

2014/11/11 11:50 投稿

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ほぼ週刊若者論テキストマイニング
第7回:古市憲寿(第6回)とイケダハヤト(第4回)はどう違うか?

今回のテキストマイニングは、第4回で検討したイケダハヤト氏と、第6回で検討した古市憲寿氏について、その特徴を比較してみたいと思います。使用する辞書データは第6回と同様のものです。

第4回のイケダハヤト分析:http://ch.nicovideo.jp/article/ar653978
第6回の古市憲寿分析:http://ch.nicovideo.jp/article/ar639643

以前、私は「若手論客」と呼ばれる人たちについて、その特徴について「生き方」と「働き方」が売り物になっている、としたことがあります。例えば古市氏については、氏の出世作となった『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社、2011年)においては、古市氏の考える「若者」の生き方について述べた本となりました。そのほか、古市氏には(今回の分析では取り扱っていませんが)『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』(上野千鶴子との共著、光文社新書、2011年)や『頼れない国でどう生きようか』(加藤嘉一との共著、PHP新書、2012年)といった対談本も(電子書籍含めて)複数あり、若い世代の「生き方」を代弁する論客として売り出している様子が窺えます。他方で2012年に出た『僕たちの前途』(講談社、2011年。現在は『働き方は「自分」で決める』講談社文庫、2014年)のように、起業家へのリサーチなどを通じて若い世代の「働き方」について述べたものとなっております。

またイケダ氏も、2014年に出された『なぜ僕は「炎上」を恐れないのか』(光文社新書、2014年)のサブタイトルに「仕事術」とある通り、また(今回は分析の対象にしていませんが)ブログでの「稼ぎ方」についての著書もある一方で、『僕らは年収150万円で自由に生きていく』(星海社新書、2012年)のような「生き方」系の書籍もあります。このように、現在の「若手論客」においては、「生き方」と「働き方」の2つの軸があると言っても過言ではないと思います。今回はこの2人の論客について、テキストマイニングを使って比較検討を行ってみたいと思います。また分析する書籍に対しては、質的分類をつけました。分析した書籍は下記の通りです(書籍のプロフィールは表1、抽出した単語の一覧は表2参照)。

古市憲寿:『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社、2011年/生き方)、『働き方は「自分」で決める』(講談社文庫、2014年/働き方)、『だから日本はズレている』(新潮新書、2014年/その他)
イケダハヤト:『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社新書、2012年/生き方)、『なぜ僕は「炎上」を恐れないのか』(光文社新書、2014年/働き方)、『新世代努力論』(朝日新聞出版、2014年/その他)

表1
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表2
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表3(書籍ごとの対応分析)
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質的分類ごとの対応分析結果を表4・図1に示すと、見事に三角形に配置されました。そのためこの分類は分析に極めて有効なものだと考えることができます。単語の側でも、同様の結果が見られます。

表4
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図1
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これを基にして、各書籍を対応分析によって配置してみました。結果を表5、図2に示します。第1主成分においては古市氏が正、イケダ氏が負に、また「生き方」が正、「働き方」が負に布置されました。以上のことより、少なくともこの2人の分析を通じてわかることは、「生き方」と「働き方」の2つの方向性を考える限り、古市氏が「生き方」寄り、イケダ氏が「働き方」寄りの論客である、ということです。

表5
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図2
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もう少し詳しく言うと、古市氏は若い世代の「生き方」を代弁する書き手として受容され(または需要があり)、イケダ氏は若い世代が彼のようなブログなどを用いて、「炎上」をものともせず注目を集めていく、という新しい「働き方」を主張する化書き手として扱われている、と言えます。この分析結果は、まさにこの2人の「若手論客」の受容のされ方を正確に表しているのではないでしょうか。

また、コーディングを使ってこの2者の特徴について見てみました。使用したコーディングは以下の通りです。

#基本

*若者
若者 | 若い+人 | 若い+世代

*学生
学生 | 生徒

*子供
子供 | 子ども

*彼ら
'彼ら' | 'かれら'

*今
今 | いま | 現代 | 昨今

*かつて
昔 | むかし | かつて

*今の若者
<*今> & <*若者>

*かつての若者
<*かつて> & <*若者>

#基本/推測に基づく断定/文末表現

*かもしれない
'かもしれない。' | 'かもしれません。' | 'かも知れない。' | 'かも知れません。'

*~と言える。
'いえる。' | '言える。' | 'いえます。' | '言えます。'

*~だろう。
'だろう。' | 'でしょう。'

*確かだ。
'確かだ。' | '確かです。'

*思われる。
'思われる。' | '思われます。'

#基本/推測に基づく断定/中間

*(し)つつある
'つつある'

*おそらく
おそらく | 恐らく

*最早~ない
seq(もはや-ない) | seq(最早-ない) | seq(もはや-ます-ん) | seq(最早-ます-ん)

#書籍オリジナル

*おじさん
おじさん | 'おじさん'

*僕たち
僕たち | 僕ら | '僕たち' | '僕ら' | 'ぼくたち' | 'ぼくら'

*承認
承認

*貧困
貧困

*デフレ
デフレ

*不景気
不景気 | 不況

*階級・階層
階級 | 階層

*格差
格差

*若者-不幸
<*若者> & ( 不幸 | 不幸せ )

*若者-幸福
<*若者> & ( 幸福 | 幸せ )

*価値観
価値+観

*可能性
可能+性

*経済成長
経済+成長

表6
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図3(段落でのコーディング集計のバブルプロット)
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コーディングを見ると、古市氏は「若者」「今の若者」などへの言及が多く、逆にイケダ氏は「僕たち」などへの言及が多いことがわかります。また古市氏は「かつて」などといった時代的なコードへの言及も多く、社会的に若い世代を捉えていると言えるでしょう。一方イケダ氏は、「僕たち」のほか「~だろう。」「可能性」「価値観」などへの言及が多く、自己啓発的と言うことができそうです。

今回の分析では、2人の若者論者に対してどのように異なるのか、ということを示してみました。結果としては、古市氏は「若者」への言及が多く、また「生き方」か「働き方」かといえば「生き方」への志向性が強いものの、内容としては社会学的である、ということが言えます。またイケダ氏については、「働き方」への志向性が強く、また内容は自己啓発的であるということがわかります。

この2人の若者論におけるプレゼンスの獲得を考えると、古市氏はどちらかと言えばマスコミ(出版含む)によって人気が出たのに対し、イケダ氏はどちらかと言えばネットで人気を獲得して出版などのマスコミに出てきたという感じとなりました。また古市氏の視点が、少なくともコーディングの分析から見れば、やはり社会学的な要素が強いのではないか、ということが導き出されました。この2人の違いから、若者論の方向性を検討するという作業は、もう少し深く分析してみる必要がありそうです。

参考文献
樋口耕一『社会調査のための計量テキスト分析――内容分析の継承と発展をめざして』ナカニシヤ出版、2014年

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日時:2014年12月28~30日
場所:東京ビッグサイト(ゆりかもめ「国際展示場正門」駅直結、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩3分程度)
スペース:3日目(30日)「Q」ブロック04a

・「コミティア110」にサークル参加予定です。
日時:2014年11月23日(日・祝)
場所:東京ビッグサイト(前掲)
スペース:「ち」ブロック32a

・「博麗神社秋季例大祭」にサークル参加予定です。
日時:2014年11月24日(月・祝)
場所:東京ビッグサイト(前掲)
スペース:「せ」ブロック7a

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
ほぼ週刊若者論テキストマイニング 第7回
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年11月11日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/

Twitter:@kazugoto
Facebook…
個人:http://www.facebook.com/kazutomo.goto.5
サークル:http://www.facebook.com/kazugotooffice

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