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その18 これは使えないだろう? それが正解。型とは使えないものなのだ。(前半)

クラシックなグレイシー柔術は、最初にスタンドアップを学ぶ。スタンドアップを数週間繰り返してから、グラウンドのテクニックを初めて教えてもらう。僕がカーリー・グレイシーからグレイシー柔術を学んだ時には、最初からガードポジションをやった。素手のバーリ・トゥードで勝てるようにサンフランシスコまで行ったのだから、当たり前といえば当たり前の話だ。


街で使うような護身術は、プロのリングで行うバーリ・トゥードでは意味がない。ところが何日かに1回、スタンドアップも教えてくれるのだ。そしてその時にクラシックなグレイシー柔術を学ぶ際のシステムを聞かせてもらった。


「昔は最初にセルフディフェンスを学んだ。いきなりグラウンドはやらない。いきなりグラウンドになることはないだろ? グレイシー柔術はセルフディフェンスなんだ。だから、喧嘩に負けるようなことは許されない。喧嘩に負けるようなグレイシー柔術は恥なんだ。だから、まずスタンドアップを学ぶ。スタンドアップがきちんと出来たら初めてグラウンドが始まる。グラウンドはグレイシー柔術の真髄なんだ。いきなり真髄をやっても真髄に至ることはできない。グラウンドの前の状態のスタンドを理解してスタンドでも勝てる。スタンドで勝てないからグラウンドに行くんじゃない。スタンドでも勝てるから、安全に相手を仕留めるためにグラウンドに持っていってあげるんだ。でもね、たまには嫌な相手とバーリ・トゥードをやることもあった。そんな時には、スタンドアップで終らせるんだ。こうやってね……」


そう言ったカーリーは不思議な蹴りとパンチを見せてくれた。その当時は理解できなかった不思議な打撃。時を経て柳生心眼流を学び、僕はその打撃の意味が理解できた。エリオ一族のグレイシー柔術では見たことのない、不思議な形の打撃……。


前田光世先生から直接柔術を学んだのは、カーロス・グレイシー。エリオはそれを側で見て覚えた。だったら前田先生とカーロスの練習前後の会話とかは聞いていない。側で見て覚えたのだから、前後の口伝のような会話は聞けるはずがない。僕の妄想で暴走がどんどん大きく広がる。打撃の話はもう少し先に延ばして書こうと思うのです。その間に皆さんも妄想で暴走しておいてください(笑)。


カーリーが護身術のようなスタンドアップを色々教えてくれる。カーリーは僕に全部教えると言って教えてくれた。素手のバーリ・トゥードをやるのに必要ないんじゃないのか? そんなふうに考えながらも何となく教わったスタンドアップ。それが時を経て僕に色んな閃きをくれることになる。


そういえばこんなこともあった。実はグレイシー一族の秘密の映像がある。スタンドアップが記録されたビデオ(当時はビデオだった)をオフィスで見せてくれた。


「これは見せることしか出来ない。ダビングは出来ない。ここで見て覚えるんだ」


そういってカーリーが見せてくれた映像はリングで見る総合格闘技のグレイシー柔術とは違った動きが結構あったのを覚えている。そしてカーリーは僕にこう教えてくれた。


「全ての格闘技の要素は柔術の中にある!」