第2回 慰めの報酬は個室ビデオで支払われる
社長がミキを連れて夜の街に消えていくのを見ながら、俺は、ナイフの形をした絶望を首筋に当てられている気分を味わっていた。さくら水産の白いネオンは俺の絶望を照らさない。クソ。社長の代わりにミキの同伴の相手をする。その機に乗じて社長の女ミキを抱いて懐柔するプランは初っ端から頓挫したわけだ。このままでは会社を乗っ取るのは難しい。
それにしてもミキはキツすぎた。あれは抱けない。無理だ。アンドレ・ザ・ジャイアントに酷似した顔面だけでなく、取り組み後の力士のように全身から噴き出している意味不明な湯気は、キツいという言葉ですら生温い。社長はあの化け物を抱けるのか…いや、化け物を抱けるから社長の座についているのか…。社長席までの距離が何光年にも思える。
ふと脳裏に疑念がよぎる。「社長とミキの関係は本物なのか」という疑念だ。実力だけではのし上がれないコネとお世辞の世界。偽情報を掴ませて破滅させようとする数多の獣が四六時中俺の背中で牙を剥いている。俺は真偽を確かめるために情報屋のヤクザ君に電話をかけた。ヤクザ君は、昼は経理事務所で勤務し、夜はこの界隈で情報屋として暗躍している。
「情報は間違いない。約束する」
ヤクザ君の声からは何の感情も読み取れない。
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