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第25回 カーリーが聞かせてくれたグレイシー一族の話。

何度も僕はサンフランシスコに出かけた。その度にカーリーからグレイシー柔術を学び絆が深くなっていった。サンフランシスコで過ごす時間がだいぶ積み重なったある日、カーリーに呼ばれてオフィスへ出かけた。カーリーは僕にこんな話を聞かせてくれた。

「グレイシー柔術というのは、日本人であるコンデ・コマ(前田光世)からカーロス・グレイシーが学んだものなんだ。カーロスは僕のお父さんだ。カーロスの父、僕のお爺さんであるガスタオン・グレイシーは大変な金持ちで、地元の名士だった人だ。ある日、カーロスが困っている日本人と出会った。それがグレイシー柔術の始まりだ」

「ブラジルで困窮していた日本人を見て救済の手を差し伸べた。地元の名士が援助したんだ。それに感激して恩義を感じたのがコンデ・コマだったんだ。ところが困窮していた彼にはお礼をしたくても何もなかった。その時に彼が持っていた最高のものが柔術だったんだ」

「コンデ・コマは自分の持っている最高のもので恩を返そうと考えた。ガスタオンは、その意気を感じて息子のカーロスに柔術を教えてもらうことにしたんだ。不思議な偶然が、日本からブラジルに柔術を運んだ。お互いに心意気を感じたからこそ実現したんだろう。コンデ・コマがガスタオンに心から感謝しなければ柔術を教えようとはしなかったと思う」

「コンデ・コマにお金があればお金や物で返したかもしれない。彼にはお金や物はなかった。だから柔術を教えた。ガスタオンにもその心が通じたんだ。だから大切な息子を彼に任せて、柔術を学ばせた。信頼関係がなければ、金持ちの地元の名士が息子に訳の分からない東洋の格闘技を学ばせる訳がない。不思議な偶然が柔術を日本からブラジルに運んで、グレイシー柔術が生まれたんだ」

オフィスの窓から青空が見える。雲が綺麗に流れている。太陽が綺麗に輝いている。遠い時代の、遠くにあるブラジルと空が繋がっているように感じた。