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【谷川貞治の人生のホームレス】 第18回

2013/10/18 16:20 投稿

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1.『続・平謝り』 〜格闘技界を狂わせた大晦日10年史〜

この10年間、格闘技は未曾有の盛り上がりを見せたが、結果的にそれを盛り上げたK-1もPRIDEも崩壊してしまった。そこには様々な原因があるが、良くも悪くも一番の原因は大晦日イベントにあった。テレビ局も含めて当事者の谷川貞治(元K-1イベントプロデューサー)が『平謝り』にも書いていない内幕を綴って、検証する。

●第18回 2006年(後編-2) 炎上した桜庭vs秋山「ヌルヌル事件」の顛末

試合後、僕の中ではサクちゃんがあれほどムキになっていたことから考えても、秋山君が何らかのオイルを身体に塗ったのは間違いないだろうと疑っていました。しかし、試合直後はそれでもオイルの量は大したことないだろうと、タカを括っていました。どちらかというと、僕の落ち込みはせっかくの大晦日のメインで、桜庭と秋山でいい試合を見せられなかったことにありました。これは視聴率も、評判も心配だなと。

もちろん、これでサクちゃんの時代から秋山君の時代にバトンタッチしたとも思っていません。もし、秋山君がそんな気持ちでいたのなら、「それは違う」と言ってやりたかった。秋山君はサクちゃんの何たるかも、何も体感しないで通り過ぎたのです。これは、どこかでもう一度再戦を組まなきゃ……そんなモヤモヤした気持ちでパーティー会場に向かいました。

ところが、そのパーティー中からネットが炎上し始めたのです。秋山君の反則行為に対する怒り、そしてFEGはグルになって隠蔽しょうとしているんじゃないのか。中には秋山君のオープンフィンガーグローブにメリケンサックが入っていたという信じられない話もあったし、最初から秋山君の反則を「在日だから」と、エキサイトして騒ぐファンもたくさんいました。

ターゲットはもちろんFEGのサイトでしたが、この試合を裁いた梅木レフェリーがブログで何かを書いたところ、いっぺんに炎上してサーバーが落ち、続けてFEGのサーバーが落ちるほどの書き込みがあったのです。

「まさか、そんなに……!?」

パーティー会場で驚いた僕は、とにかく審判団やスタッフに不用意な発言をしないよう伝達し、きちんと対応しなければTBSにも迷惑をかけると焦り始めました。もうその頃はコンプライアンスが厳しい時代。僕らにとっては、正直に言えばそこが一番辛いのです。と同時に、その反響の大きさに僕の認識の甘さも正す必要がありました。中には「こんなに批判が出るんだったら、視聴率はいいかもよ」と言ってくれる人もいましたが、それどころではありません。今回ばかりは、視聴率が良ければ良いほど批判の数が増えるのです。

翌日からテレビ局もスタッフも、審判団もお正月休みになります。僕は数人のスタッフ、審判団の人と電話で話をしましたが、人間の気持ちとか記憶というのは常に変化するので、そこはあまり重要視しようとは思いませんでした。ポイントは最初から「映像」にあると思っていたのです。特に大晦日のメインの試合ならば、TBSはリング周りだけでなく、控室にも何台もカメラを入れています。僕は防犯カメラじゃないけど、そこにかなりの確率でいろんなものが映っているに違いないと踏んでいたのです。

そこでTBSの人にお願いし、秋山-桜庭の控室からリングサイド、試合中の映像をチェックしたいので見せてほしいというお願いをしました。

特に、秋山君のグローブチェック。入場シーンにおけるボディチェック。試合中の異変に対する審判団の対応。これらはきちんと出来ていたのか? どの審判員がミスを犯しているのか。そして、秋山君がオイルを塗っているシーンは映像として残っているのか?

そんなことに重点をおき、TBSのプロデューサーにお願いをしました。ただ、大晦日はカメラ台数がたくさんあること、またお正月休みでこの時期テレビ局の人も海外に遊びに行ったりしますので、どうしても時間がかかりました。ただ、時間が経つことでファンの怒りは落ちつくかと思われたのですが、この時ばかりは全く収まることなく、クレームの矛先はFEGから、テレビ局、スポンサーへと広がっていったのです。こんなことは、僕の格闘技人生の中でも初めてのことでした。

そして、秋山君のグローブチェックや試合周りの映像はいろんな角度から捉えられていたものの、さすがにオイルを塗ってるシーンは見つからないだろうと思っていましたが、TBSのプロデューサーから「ありましたよ、凄いのが!」という連絡が入ったのです。すぐに取り寄せて確認すると、それは二つの意味で衝撃的な内容でした。

一つはオイルを塗るシーンです。秋山君は何も悪びれることなく、セコンドや撮っているカメラマンと談笑しながら身体にオイルを塗っていました。さらにクリームオイルを丸々一本くらい身体に塗っていたのです。「僕、乾燥肌なんですよね〜」という感じで。その罪の意識のなさ、また量の多さにあっけに取られました。これは、酷いと。また、よくこれで審判は気づかなかったなと、逆に不思議に思ったほどです。

 

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