[本号の目次]
1.深海HDビデオカメラ撮影システムの開発
2.特注の耐圧ハウジング
3.完成した深海HDビデオカメラ撮影システム
4.JAMSTEC調査船「なつしま」で小笠原へ
深海HDビデオカメラ撮影システムの開発
三年がかりでダイオウイカの連続静止画をゲットすることが出来たが、それと並行して私もNHKの小山ディレクターもなんとかして動画でダイオウイカの動き回る映像を撮影できないかと画策していた。まずは、動画を撮影するカメラである。二年前の簡易ビデオカメラは全く役に立たなかった。映像のプロであるNHKとしては、最高の画質で撮影することが義務付けられている。時代はハイビジョンの映像が求められていた。それに合わせるように、2004年にソニーから民生用の小型HDビデオカメラ(Sony HDR-FX1)が初めて発売された。このカメラを使わない手はない。小山ディレクターの人脈でNHKの水中撮影機器の開発・製作を手掛ける後藤アクアティックスの五島さんに相談に乗ってもらうことになった。カメラには広角レンズを装着して広い画角を確保し、また照明は強い光を発することのできる大型のハロゲンライトを使うことを前提条件とした。
2004年発売のHDビデオカメラ(Sony HDR-FX1:パンフレットより抜粋)
特注の耐圧ハウジング
五島さんはNHKの発注を受けて、HDR-FX1に合わせて円柱のステンレス超硬材からカメラ用の耐圧容器を削り出し、水深1500mを超える水圧にも耐える筒型ハウジングを製作した。小型化されたといってもHDビデオカメラはそれなりに大きく、筒型ハウジングは直径約22㎝、長さ50㎝になった。また、カメラの広角レンズに合わせて全面はドーム型の球面ガラスが採用された。さらに、バッテリーとハロゲンライトを収めた同じ筒型の照明ハウジングも製作された。カメラと照明は内蔵タイマーで同調して制御可能なシステムに組み上げられた。
NHKの小山ディレクターと河野カメラマンは、完成したプロトタイプを小笠原に持ち込んで、漁船を傭船して二見港湾内でテスト撮影を行った。しかし、カメラと照明ハウジングで総重量50㎏を超え、特殊なウインチを持たない小型漁船ではとうてい深海まで下すことは出来ないことが分かった。また、カメラの画角にあわせて照明装置は2本必要であることも確認された。
HDビデオカメラとハロゲンライトを組み合わせたプロトタイプ
NHKの小山ディレクターと河野カメラマンは、完成したプロトタイプを小笠原に持ち込んで、漁船を傭船して二見港湾内でテスト撮影を行った。しかし、カメラと照明ハウジングで総重量50㎏を超え、特殊なウインチを持たない小型漁船ではとうてい深海まで下すことは出来ないことが分かった。また、カメラの画角にあわせて照明装置は2本必要であることも確認された。
HDビデオカメラとハロゲンライトを組み合わせたプロトタイプ
完成した深海HDビデオカメラ撮影システム
さっそく、浦教授にお願いして私とNHK取材チームに、小笠原ホエールウォッチング協会の森さん、東京大学の天野研究チームなどクジラの専門家たちにも加わってもらい、マッコウクジラ追跡の共同研究という形で乗船を許可された。
2005年春、完成したシステムはステンレス製の長方形のフレームにカメラの筒型ハウジングを真ん中にその両側に照明用の筒型ハウジングを横に並べて固定して、フレームの四隅からワイヤーで吊り下げる方式になった。今までとは異なり、カメラは横を向くことになる。そのため、フレームから2.2mのグラスファイバーの竿を斜めに取り付け、その先からテグスの仕掛けを下ろし、カメラの正面に誘引物質のスルメイカとペンシルライトが入るように調整した。システムの総重量は170㎏を超え、大型の機器を吊り下げることのできるウインチと長いワイヤーを備えた特殊な船舶でなければ、オペレーションができなくなった。そこで本格的な調査船を探していたところ、海洋研究開発機構(JAMSTEC))の「なつしま」が東京大学の浦環教授の主導で、2005年9月に小笠原海域で「自立型海中ロボットを使用したマッコウクジラの生態総合観測」のテーマで研究航海を行なうことが分かった。
完成した深海HDビデオカメラ撮影システム(なつしま後部甲板)
「なつしま」後部よりワイヤーに吊り下げてシステムを投入する
完成した深海HDビデオカメラ撮影システム(なつしま後部甲板)
「なつしま」後部よりワイヤーに吊り下げてシステムを投入する
JAMSTECの調査船「なつしま」で小笠原へ
さっそく、浦教授にお願いして私とNHK取材チームに、小笠原ホエールウォッチング協会の森さん、東京大学の天野研究チームなどクジラの専門家たちにも加わってもらい、マッコウクジラ追跡の共同研究という形で乗船を許可された。
9月4日に追浜の海洋研究開発機構専用岸壁を出航した「なつしま」は接近中だった超大型台風14号に行く手を阻まれ、進路を東に向けて大きく迂回しながら、大荒れの太平洋を丸3日かけて小笠原海域に到着した。小笠原に着いてからは天候も安定したため、小笠原を離れる9月15日までの間に計8回、新開発のシステムでハイビジョンカメラによる撮影を行なうことができた。ただし、当時のハイビジョンカメラはミニDVビデオテープを使っており撮影時間は1時間に限られていた。そこで内蔵のタイマーで5分間撮影した後5分間休みを入れるインターバルを設定し、稼働時間を2時間とした。調査は日没後、システムを一旦、水深800メートルから950メートルまで降ろして1時間から2時間放置して、その後、引き上げながら所定の位置で30分ほど撮影してから船上に回収するというものである。回収した後は、カメラからテープを抜き出して何か写っていないか確かめる毎夜であった。
小笠原父島二見港内に停泊中の「なつしま」
「なつしま」船内のレクチャールームで浦環教授を囲んでの打ち合わせミーティング
浦環教授が開発中の自立・自走型海中ロボット Aqua Explorer 2000
小笠原父島二見港内に停泊中の「なつしま」
「なつしま」船内のレクチャールームで浦環教授を囲んでの打ち合わせミーティング
浦環教授が開発中の自立・自走型海中ロボット Aqua Explorer 2000
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