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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その31

2021/08/23 15:03 投稿

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【本号の目次】

1. 抗力係数CDを求める
2. 運動方程式を解く
3. ネバー・ギブアップ
4. 臼尻水産実験場ふたたび 


抗力係数5b804488a40161e6cb44a57cf278f021646ff731を求める

  ここでは,図2-1に示すスルメイカの数値模型の抗力係数5b804488a40161e6cb44a57cf278f021646ff731を数値流体力学による手法により求める。ここで,模型の長さは21cm, 厚さ1.8cm, 幅2.1cm とする。

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図2-1:スルメイカの数値模型 (a)は上から見た図,(b)は横から見た図


 まず,数値流体力学の手法により数値的に求まった,物体の表面の応力(垂直応力および剪断応力)を面積分することにより抗力de462ff347de2cb2fb7ef1e9c00f181c181150bb を求める。この力を式(2-1)のように無次元化することにより5b804488a40161e6cb44a57cf278f021646ff731 値が得られる。

         908ee7f8eb6b82936380de066f09c16c61edc9e0  (2-1)


ここで用いた各パラメーターは図2-2に示すとおり。Vは速度、Sは体表面積、Densityは海水密度
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              図2-2

図2-3にイカの泳ぐ速度に依存する抗力係数 5b804488a40161e6cb44a57cf278f021646ff731を示す。

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                 図2-3:抗力係数    


運動方程式を解く


 
 ここでは,第三十話「イカの泳ぐ速度をどのように予測するか」で求めたイカの運動方程式(1-5)の離散化を行う。得られた離散化方程式を数値的に解くことにより,イカの泳ぐ速度を予測することができる。また,離散化式に含まれる抗力係数は前節で求まった値(図2-3)を用いる。

          e70fe48a2366f8c52d6fcab1c03aa501fb800cce   (1-5)


まず,式(1-5)を式(1-5)’の形に変形する。

          6d38bfabeab80f74f9c77340de4475a0703ee6f9 (1-5)’


式(1-5)’を一次精度で離散化すると式(3-1)になる。


          dfce81d85486fe4f7416080fb0ea18baaf0b3b44  (3-1)

式(3-1)を予測速度 について纏めると式(3-2)のようになる。


          b5af47a248578d9e6f0130f88515ae1f91e68c74  (3-2)

これがイカの泳ぐ速度を予測するために解くべき式である。この式にいままでに推定できた値(表3-1)をこの式にあてはめてグラフ化すると図7がえられる。したがって、この体長21㎝の数値模型の最大速度は1.4m/s となる事がわかる。赤で示した噴水時間と漏斗の直径は仮の値である。

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                 図7:速度履歴

―――――――――――――――――――――
と、ここまでが徳山さんのレポートである。

 面積分てなんだ?無次元化てなんだ??離散化方程式てなんだ???。高校二年時で数学を放棄した私には、まったく理解の及ばないところではあるが、体長21㎝程のスルメイカが直径5㎜の漏斗から0.1秒で外套内の海水を一吹きすると、スピードは1.4 m/秒(時速約5㎞)に達するという推定には納得できた。ただし、噴水時間と漏斗の直径の値は、ダミーである。それにイカは一吹きした後、すぐさま外套膜に水を吸い込んで漏斗から水を吹きだすことを繰り返して加速していく。徳山さんに無理を言ってスルメイカの遊泳速度を推定してもらったが、このようなシミュレーションをダイオウイカの遊泳に拡張するのはかなり無理があるし、論文としても纏まらないだろうと徳山さんから指摘された。


ネバー・ギブアップ

 しかし、せっかくここまで追求してきた目標を「そうですか、それではこれで止めにしましょう」とあきらめるには、未練が残った。昨年、臼尻水産実験所でおこなったスルメイカの実験を思い返しながら、なにか他にやれることはないかと頭を絞った。一つアイデアが閃いた。氷温麻酔をつかえば、スルメイカの泳ぐ力を計測することが出来るかもしれない。スピードではなく、パワーを測定するのだ。仕掛けは簡単である。氷温麻酔をかけてスルメイカを動かなくして、その外套膜の背側前縁に細いテグスで釣り針を掛け常温の海水にもどし、麻酔がさめて泳ぎだした際にテグスを引っ張る力(張力)を測定すれば、泳ぐ力が分かるはずである。

  早速、北海道大学水産学部の桜井教授、臼尻水産実験所の宗原准教授と連絡をとり、臼尻で飼育しているスルメイカを使って遊泳力を測定する実験計画について相談にのってもらった。今年はスルメイカが豊漁で、実験所の飼育水槽には十分な量のスルメイカが畜養されているとのことで、快く実験の許可を頂いた。昨年スルメイカの吸水量測定の際、力を貸してくれた大学院生の高原君と大島さんが今回も実験を手伝ってくれることになった。漁業測器講座から張力計一式を借り出す算段もついた。

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漁業測器教室から借用した張力計一式。左円筒:センサー、中央2台:アンプ、右:モニター


臼尻水産実験所ふたたび


 2009年10月19日、早朝のフライトで羽田を立ち9時10分函館空港着。レンタカーを借りて北大水産学部のある七重浜に向かった。桜井教授と高原君、大島さんに今回の実験の目的と測定方法を説明し、明日の臼尻水産実験所でのお手伝いをお願いした。さらに漁業測器教室から張力計を借り出して、釣り糸を連結して張力を測定するシミュレーションをしてみた。借用した張力計は非常に繊細で、測定レンジにより0.1g以下の張力も連続的に計測できるとのことであったが、センサーの形状が釣り糸を結ぶのに適しておらず、また海水のかかる恐れのある水槽の近くに設置することが困難なことがわかり、使用することを断念した。張力計が使えない事態を想定して、東京を出る前に、かなりアナログ的ではあるが、200gと500g測定用のバネバカリを用意しておいた。バネバカリの目盛りをビデオカメラで録画してスルメイカが曳く動きとシンクロさせればなんとかなるだろう。前回と同じように水産学部の近くにあるスーパーで食料品や缶ビール等を購入して、湯川から川汲峠を越えて臼尻へ向かった。実験所に着くやいなや水槽内のスルメイカとご対面。今年のスルメイカは、極めて状態が良いようだ。

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臼尻水産実験所の実験水槽に収納されたスルメイカ

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