【本号の目次】
1. 強力な助っ人
2. 徳山さんのレポート
3. 推進力
4. 抗力
強力な助っ人
海洋生物学一辺倒で過ごしてきた私の周りには、そのような遊泳力のシミュレーションを考えてくれそうな研究者は見当たらなかった。そこで、姉貴の長男で東京大学大学院の複雑理工学専攻博士課程を修了した甥の小林徹也(現:東京大学生産技術研究所准教授)に相談をもちかけた。彼は東大で日本学術振興会特別研究員として「数理・情報で解き明かす生命現象」を研究テーマに、私には理解を超えた融合科学の最先端の研究をしていた。自分は忙しいので手伝いは出来ないが、興味をもってくれそうな研究者を知っているので話をしてみてはと、徳山佳央さん(M&T株式会社)を紹介してくれた。
当時、徳山さんはシミュレーションを通じたコンピュータソフトウエアの企画・開発を目指す新しい会社を立ち上げたばかりで忙しい中、私の話を聞いてくれた。ダイオウイカの遊泳速度をシミュレーションするなんて、とても面白そうな企画ですねと頷いて、仕事の合間でよければちょっと考えてみますと請け負ってくれた。博物館からは、正式な業務として「ダイオウイカ数値模型作成受託業務」の発注依頼書を出してもらった。
徳山さんのレポート
一か月ほど経ってから、徳山さんからレポートが届いた。思っていたより大変なことになってきた。以下に紹介するが、理解するには何度も読み返す必要があった。
1. イカの泳ぐ速度をどのように予測するのか?
一般に運動する物体の速度は、運動方程式を解くことにより求めることが可能である。運動方程式をたてるとは、力のつり合い式を求めることである。イカが泳いでいる時は推進力と抗力の力のバランスが成り立っている。
「F (受ける力)= (推進力)- (抗力)」
「F (受ける力)= (推進力)- (抗力)」
図1-1:泳ぐイカの力の釣り合い
一般に運動方程式は次式のように書くことができる。
一般に運動方程式は次式のように書くことができる。
(1-1)
この式をイカに当てはめて考えると, がイカに働く推進力 と抗力 の合力で, はイカの質量, はイカの泳ぐ速度になる。イカの泳ぐ速度は,この合力 Fを求め,運動方程式(1-1)を解くことにより求まる。
推進力
まずは、推進力 について考える。
推進力は漏斗から噴出した水から受ける力であり,作用反作用の法則により水がイカから受ける力に等しくなる。
図1-2:推進力
この力は水の単位時間あたりの運動量の変化に等しく次式のように求まる。
図1-2:推進力
この力は水の単位時間あたりの運動量の変化に等しく次式のように求まる。
(1-2)
ここで はイカの漏斗から噴出する水の流量 。また,は水の密度、 は漏斗の断面積で、 u は漏斗から噴出する水の速度だ。よって推進力 は式(1-3)のように求まる。
(1-3)
水の密度 および,漏斗の断面積 は既知の量であるので,単位時間あたりに噴出する水量 Qを与えることにより,漏斗から噴出する流速u が求まり,推進力 が定まる.
※ Q を求める為には,イカが何秒で水を全て噴出しているかが重要になる。
抗力
ここで は抗力係数, は流体の密度, V は物体と流体の相対速度 S は物体の代表面積。
次に,抗力 について考えてみる。一般的に流体中にある物体に働く力 は式(1-4)のようにモデル化される。
(1-4)
ここで は抗力係数, は流体の密度, V は物体と流体の相対速度 S は物体の代表面積。
残念ながら,この抗力係数 は物体の形状・流体の粘性・流れの速さなどにより変化し理論的に求めることは困難で,実験または数値流体解析により求めるのが一般的である。近年では、コンピューターや数値流体力学の発展により、抗力係数 などを数値解析により求める手法が可能となってきた。
以上をまとめると,F = - よりイカの運動方程式は式(1-5)のように書くことができる。
(1-5)
ただし, は速度 V の関数値(実験値)である。この運動方程式(1-5)を解くことにより,イカの泳ぐ速度 を予測することができることになる。
と、ここまではなんとか付いて行けたが、問題は次のステップである。
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